第11語り ならわれるせなか【前へならえ】
いちばん前、経験ありません。
【島】→【前へならえ】
あのコは、背のちっちゃな女のコ。
クラスで整列するのが、嫌いだった。
小学校ってさ、背の高さ順にならばされるじゃん?
中学校なら、出席番号順なんだろうけど。
だから、あのコは。早く、中学生になりたかったんだ。
でも、いまはこうして。
背の高さ順にならばされたあのコは、列のいちばんまえで。ほら、あんなにゆううつそうな顔をしてる。
たしかにさ。
あんたが、いちばん背が低いんだって言われてるみたいで。
うんざりするきもちなら、わからないでもない気がする。
でも、あのコのゆううつは、そんな理由じゃなくて。
あ、ほら。あの号令。
「前へならえ!!」
みんな、両手を水平にまえへつきだして。列がまっすぐになるように、まえのひとの頭をにらむよね?
でも、いちばんまえのあのコは。
ならうべき、だれかなんて、自分の目のまえにいなくて。
みんながならう順ぐりの、いちばんまえで。
ぴんとしたせなかを、見せなきゃなんなかったから。
それゆえにかかえた、ゆううつだったんだ。
プレッシャーだよね。
自分の、ちっちゃなせなかに、そんな役目ができるのか。
あのコは悩んでて。
もう、いっそのこと。学校、休んじゃおうかっておもったんだけど。
でも、やめたの。きょうも、ちゃんと学校にいったよ。
だって。あのコが休んじゃったら。
あのコのすぐうしろのコが、かわりにいちばんまえになって。
ぴんとしたせなかを、見せなきゃなんなくなる。
自分が投げ出したせいで。
すぐうしろのコに、そんなだいじでたいへんな役目をおしつけるだなんて。やっちゃいけないことだって、気がしたんだよね。
だからきょうも。ちゃんと、学校にいったよ。
みんながならう順ぐりの、いちばんまえで。
ぴんとしたせなかを、見せるなんて、だいじでたいへんな役目だけど。
それが、自分の役目なら、だれかにおしつけるなんてずるいことはしたくない。
中学校になって、出席番号順にならぶようになるまでは。
あのコは、あのちっちゃなせなかで、みんなに「前へならええ」させてあげられるように、がんばるって決めたんだ。
ほんと、えらい。
あたしも、がんばってって応援しちゃう。
そんで、はやく中学校になれるといいね。
ところで、まさか。
あのコ、いま出席番号まで1番だったり——しないよね?
いちばんうしろも、なかったと思うけど。
つぎは、「え」!!