第9語り すごろくのいかさま【てんとう虫】
【取っ手】→【テントウ虫】
あたしは、ひとりでも楽しく遊べるひと。
だけど、やっぱり。だれかと遊ぶほうが、もっと楽しく遊べる。
ねえ、ねえ、なにやってんの? あたしも、いーれーてー♪
どうやら、すごろくをやってたみたい。
ん? なんか、もめてるの?
「やっぱりだ!
こいつ、いかさましてやがった!!
おかしいと思ってたんだよな」
いかさまって?! トランプじゃあるまいし、そんなのできるの?
「見てみろよ、こいつがなにをもってるのか」
どぉれ、どれ?
あたしが、いかさまさんの手のなかをのぞきこんでみると。
そのなかには、まるっこくて、ちっちゃな赤い虫が。
せなかには、黒いドットがななつ。
ナナホシテントウだ。
「こいつ、いつも、かんじんなところで真っ赤なサイコロをふって。そのたびに『7』の目を出すんだもんな。
おかしいと、思ったよ。
サイコロに『7』の目なんて、ないはずじゃん」
そう、サイコロは『6』の目までしかない。
それゆえに『7』の目を自由に出せれば、ぐっと勝利に近づく反面。それがいかさまだと気づかれるリスクも、ぐっと高くなる。
みんなで、いかさまさんの服をしらべると。
胸ポケットから、出るわ出るわ。
ナナホシテントウが、5匹も出てきた。
あらら、ほんとにいかさまだ。
かわいそうだけど、しょうがないよね。
いかさまさんは、すごろくからおいだされて。
かわりに、あたしがはいることになったよ。
アイディアはよかったのに、ちょっと、だいたんすぎるいかさまだったね。
でも、考えてみたら、それってすごい。
ナナホシテントウだったら、何回ふっても、かならず『7』の目が出るサイコロになるんだもん。
だけどやっばり、いかさまなんてするもんじゃない。
ばれたら、こんなふうに、すごろくからおいだされちゃう。
それにしても、いかさまをみつけた男のコ。
よくみつけたよね。
あたしが、どうしてわかったのって、きくと。
男のコは、意味深なかんじで。
「餅は餅屋ってことかな」だってさ。どういう意味だろ?
あたし、お餅は、スーパーでパックのやつ買ってきちゃう。
カレーなら、カレー屋さんのもおいしいけど。
どんぶりもの屋さんのカレーも好きだし、いちど中華屋さんのカレーを食べにも行ってみたい。
そんなことを考えてたら。
それは、ほんの偶然だった。
ほんのちょっとでも。こっちのほうもあやしいだなんて、思いもしなかったから。
あたしは、じぶんの目をうたがった。
いかさまをみつけた男のコの、胸ポケットに。
あたしは、とんでもないものを見てしまったのだ。
たぶん、あたししか気づいていない。
よりにもよって、このあたしだけが気づいてしまうなんて!
餅は、餅屋、だったら。
いかさま発見は、いかさま使い。
いかさまをみつけた男のコ。
その胸ポケットから——にょろりと。
ヤツメウナギが、その顔を出していたの!
まさか!?
この男のコも?!
「餅は餅屋ってことかな」
しれっと、言ってみせた男のコの顔を、おもいだしちゃう。
今回のすごろくで、男のコが。じっさいに、『8』の目を出していたのかは、あたしにはわからない。
ただ言えるのは。あの男のコは、ヤツメウナギを胸ポケットに、にょろりと忍ばせていたということだけ。
そして、あの男のコは。
ことばにはしてないけど。きっと、こうも言っていたんだ。
ぼくなら、ばれずに。
『7』よりも、もうひとつおおきな目を出してみせるよ、って。
……いかさまって、こわい!!
つぎは「し」!