第0語り あたしのしりとり童話【はじまり】
プロローグです。
いきなりなんだけど。
あたしはちょっと、問題をかかえてた。
ん? お昼ごはん、なんにするか???
カレーか、ハンバーグか、ずっと迷ってるだよね。
あ、ちがう、ちがう。
そっちじゃなくて。
あたしの、いまのこのシチュエーション。
カレーを食べに、どんぶりもの屋さんか。
ハンバーグを食べにファミレスかで、悩んでたあたしだったんだけど。
いきなり、うしろからふくろをかぶせられて。
よくわかんないところに、つれてこられたんだ。
かつぎっぱなしじゃなくて、ちゃんと台車にのっけてくれたみたいだし。とちゅうで、高級クリームパンとミルクセーキもさしいれてくれたうえ。たいくつしないように、はなしあいてもしてくれたから、快適だったんだけど。
ふくろのなかからは、景色が楽しめなかったところがおしいよね。
んで、よくわかんないところに。つれてこられたわけ。
説明によると、ここは悪の秘密結社「邪悪な民俗舞踊」の「つの部族」の秘密基地なんだって。
んで、あたしのめのまえにはでっかい牛さん!!
とんがったつのに、悪魔みたいな羽としっぽをして。
ちょっとびびってたあたしに、そいつはこう言ったの。
「おれたちにつかまったからには。おまえにもう、自由はないぞ。
命が惜しければ——」
惜しければ?
「毎日、おれたちに面白いおはなしをきかせることだな」
どうやら、牛さん——部族の将軍さまらしくて、えらい牛らしい。まわりにうろちょろしてるたくさんのとりまき。あたしをさらってきたのも、このなかのひとりだろうけど。こいつら部下の福利厚生のために、レクリエーション係として、あたしをさらわせてきたみたい。
こう見えて。ご近所じゃ、あたし、語り部として有名なんだ、ふふんっ♡
んで、状況がやっと整理できてきたあたしに、おいうちをかけるように。うろちょろのとりまきどもが、騒ぎだしたんだ。
「ウシモフさま。おはなしもいいですけど。
いっしょに遊べたほうが楽しくないですか?」
「おれ、しりとりやりたいっ」
「でも、おはなしも興味あるよな」
あ、これ。収集つかないやつだ。
それにしても、おなかへった。
高級クリームパンひとつじゃ足りないよ。
そういえば、お昼ごはん。まだ食べてないだけじゃなくて。
カレーかハンバーグか。どっちにするのか、まだ決めてなかったや。
!
いいこと、思いついた!
ようし、こうなったら!
カレーと、ハンバーグでまよったら、カレーハンバーグ。
おはなしと、しりとりでまよったら、しりとり式でおはなししてやればいいじゃん。
こうして、あたしは。
悪の秘密結社に、語り部としてつかまって。
こいつらに、毎日、しりとり式で童話をきかせてやることになったわけ。お絵描きもつけて。
あ、心配しなくていいよ?
ひどいことされてないし。
さいしょはびびってたけど、ウシモフ将軍、わりといいやつ。
ごはんもおいしいし、おやつもくれる。
ワンルームだけどひろくて、ベッドもふかふか。お風呂とトイレに、キッチンカウンターがついた、お部屋を用意してくれた。
おはなしの時間いがいは、うろちょろのとりまきども——わるまろたちと、バレーボールやったり。
あたしは、けっこう楽しくやってる。
さあ、きょうはどんなおはなしをきかせてやろっかな?
ん? あんたもきいてく??
だったら、そんなはなれたところいないで、こっちおいでよ。
じゃあ、いくよっ。
はじまり、はじまり♡♡♡
※ 部族:「部活のような、家族のようなフレンドリーな共同体」を意味します
あたし=リーベちゃん♡
アイザック・ウシモフ将軍