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第三話 終わりと始まりの街 シバ

 城門を抜けると、すぐに大きな通りとなっていた。


 通り沿いには野菜や果実、魚介等の食料品や小物を取り扱った雑貨の露店(ろてん)、また軽食を楽しめる屋台が左右にひしめき合い、一帯は多くの人々や呼び込みの声が行き交う。


 両脇は赤を基調とした背の高いレンガ造りの美しい建物が(のき)を連ね、通りの先にある大きな交差路では大道芸や路上演奏が行われ、活気で満ち(あふ)れていた。


 そんな中を歩いていくと、果物を販売している中年男が、テンシちゃんおはよう、これ持っていきな、と麻でんだ大きな手提てさげ袋を渡す。


 健太が中を(のぞ)きこむと、そこには瑞々(みずみず)しいリンゴがいくつも入っていた。


 いつもありがとうございます、と手慣れた感じで受け取りテンシは手を振ると、中年男も満足そうに手を振る。


 続いてパンを販売している若い女性が、通り過ぎるタイミングで流れるような洗練された動作で布袋を渡す。


「テンシちゃんおはよ。いつものね」


「エリ姉、今日もありがとうございます!」


 テンシはこれも手慣れた形で受け取ると、手提げ袋の中に入れ、手を振る。


 エリ姉と呼ばれたエプロン姿の若い女性も、ニコニコ顔で手を振る。


 その後も雑踏から露店から、テンシさんだ、おはようテンシちゃん、と挨拶(あいさつ)が飛び交う。


 健太は、テンシのあまりの人気ぶりに驚きを隠せない。


 隣を歩いていても、やっかみのような視線は特に感じない。が、何とも馴染(なじ)みのない雰囲気に飲まれ、(にぎ)わう雑踏を見たり、空を見たりと、視点がおぼつかない。


 テンシはそんな健太を見ると、


「皆、見知った仲良しさんですから。健太さんも今日から街の一員ですよ?」


 と、笑いかける。


「さあ、こっちです。行きましょう!」


 雑踏を抜け、大通りから中央に大きな柱と噴水がある広場へと到着する。


「ここは、シバの中央広場です、ここを真っすぐ行くと、目的の場所となります」


 そのまま通り過ぎ、奥へと進むと、中央には人工的に作られた一メートル程の小さな滝があり、左右に階段のある場所に出る。


 段差のある階段を上りきると、今度は段差の低く奥行きのある白い石造りの階段が続く。中央は一段低い階段状の水路になっており、先程の滝へと(ゆる)やかに水が流れ落ちていた。


 そのまま進むと、広場から見えていた円形の、巨大な白い建物が姿を見せる。


 正面中央部分はトンネル状のやや暗い通路となっている。


 奥はまた外界と(つな)がっているようで、そのさらに奥にある建物の内部構造がうっすらと見えている。


 通り抜けると、目の前に少し小振りな、それでいてまるで一つの美術品かと思われるような、複雑な文様が彫り込まれた円形の建物、目的地である『中央官庁』が姿を現した。


               *


 中に入ると、そこは上階まで吹き抜けのエントランスホールとなっている。


 四本の円柱が四方に屹立(きつりつ)しており、それを見上げると、柱の上にそれぞれ何かの彫刻が設置されているのだろう、突き出た切っ先が、階下からも垣間(かいま)見える。


 大理石のような白い石を敷き詰めた床は、少し歩くだけで靴音が残響(ざんきょう)し、健太は場がもたらす重厚(じゅうこう)荘厳(そうごん)な雰囲気に思わず息を飲む。


「すごいね……」


「私も初めて来た時、物凄く感動したんですよ。さ、こっちです!」


 テンシは先導し、左奥の円柱からさらに奥のカウンターへと向かう。


「あ、テンシさん、おはようございます。今日も本当にご苦労様です」


 そこには居たのは、ミディアムロングの茶色の髪をゆるく細かく巻き、前髪は(まゆ)にかかるくらいで片側に流した、二十代前半に見える女性であった。


 大きなボウタイのついた白いブラウスに、ネイビー色のベストとタイトスカートを合わせた事務服のような装いで、ベージュのタイツにパンプスを履いている。


「アミさん、おはようございます! この方が今日のルーキーさん。名前は健太さんです」


「健太さん、初めまして。(よろ)しくお願いいたします」


「あ、こちらこそ。ええと、アミさん。宜しくお願いします」


 アミはカウンターの下からバインダーを取り出すと、書類のような画面を表示させ、健太へ向けた状態で台の上に置く。


「では、こちらにいくつか項目がございますので、ご記入下さい。覚えているものだけで大丈夫です。ちなみに、お名前と年齢以外は任意です」


「はい、わかりました」


 ペンを渡された健太は、曖昧(あいまい)な記憶の中から分かる部分だけ画面に記入していく。


 一式記入したものを受け取ると、アミは軽く目を通し、頷く。


「はい、大丈夫です。続いて健康診断を受けて頂きます」


「私が案内しますね、こちらです」


 テンシが誘導するように左の廊下へ進み、健太はそれについていく。


「健康診断とかするんだ」


「そりゃもう! といってもここのは、ピー、グイーン、ピッ、で終わりですけどね」


 テンシは擬音(ぎおん)を交えながら説明するが、健太の頭に全く入ってこない。


 二人は数分歩き、右手にある大きな白い扉の前で止まる。


「ではでは、私はこちらでお待ちしてますね。中に入ったら案内があると思うので、そちらの指示通りにお願いします」


「……はい」


 健康診断って何となく苦手だなあ、と心の中で呟くが、そうはいっても(らち)が明かないので、意を決して中に入ると。


「うお……」


 壁、天井、そして床。全てが白い。


 その中心に、これまた白いパイプベッドが一つ据え付けられており、右手奥には手で開けられそうな小窓があるが、その奥は部屋の光の加減で暗く何も見えなかった。


「えー、テステス、聞こえますか」


 右上にあるトランペットのような形状の白い(つつ)から、若い女性の澄んだ声が(ひび)く。


 そちらに目を向けたのを確認したのか、声は続ける。


「はい、ご協力ありがとうございます。あたしは担当のミオリです」


「これから健康診断を始めます。まず、そこのベッドに仰向けに寝て下さい」


「はい……」


 不安を抱きつつも、とりあえずベッドに横たわる。


 すると、天井が開き、そこから手術室の天井に設置されているハチの巣のような照明がせり出してくる。


「うわっ、こわっ!」


「はーい、大丈夫大丈夫。怖くない、怖くなーい。じゃあ始めまーす」


 声の主は軽めの口調でフォローをすると、ピー、という電子音が室内に響き。



 グイーン。ピッ。



 設備がほんの少しだけ動き、短い電子音が一つ鳴る。


「はい、終わりです、お疲れ様でした」


「えっ、はやっ!」


 先程テンシが言った通りだった。


「実は全裸になる指示とかしたかったんだけど、……って、ちょっとテンシ。勝手に入ってこないでよ」


「ミオリちゃん、そういうのはダメですからね!」


「いいじゃーん、こういう機会でしか男子のハダカ見られないんだし」


 室内に響く、和気藹々(わきあいあい)とした女子達のトーク。


 少年は独り仰向けに横たわったまま、茫然(ぼうぜん)とした表情で取り残されるのであった。

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