第十四話 日常的な一幕となるもの
翌日。雲一つない晴天の下、健太は紹介所への道を走っていた。
時間はすでに午前十時過ぎ。遅くまで寝付けず起きていた結果、自分が予定していた時間より随分と遅刻してしまっていた。
「はあ、はあ」
息を整える間もなく慌てて紹介所に入ると、人はまばらで、掲示板の石もほとんど無くなっていた。
「あら、いらっしゃいませ、健太さん。よく眠れましたか」
ふんわりとした声がカウンターから届く。
健太がそちらを向くと、そこに居たのは、昨日チュートリアルの受付を担当していたリサであった。
「ええ、おかげさまでその、遅刻してしまいました」
「うふふ。今日からはフリースタイルだから、好きな時間にお越しいただいてもいいんですよ。それに二日目までチュートリアルでバタバタしちゃうから、三日目はお休みしたり、ゆっくりされる人も多いのです。ですから、お気になさらないでくださいね」
「……はい、ありがとうございます」
そう言ってもらえると少し気が晴れる。リサに感謝しつつ、健太は掲示板の前に立つ。
リサもカウンターから出て健太の横に並ぶ。
「実は午後にひとつ、テンシちゃんから健太さんに直依頼が来ておりますので、そちらは出来れば優先してお請け頂きたくて」
直依頼。掲示板に貼り出されるフリーのものではなく、請け負う人が指定されている依頼だ。
指定はフリーの依頼より依頼人の費用が倍以上になるため、少しばかり珍しいものでもある。
「テンシちゃんから直々って、この二年半で数度しかデータにないから、ちょっと驚いちゃいましたけどね」
「え、そうなんですね」
何となく特別なものを感じて、健太の表情は自然と緩む。
「午前はまだ時間ありますので、せっかくだから何か請けていきますか?」
「うーん、そうですね……」
掲示板に表示された依頼をざっと眺める。
山のふもとの町へ荷物の運搬、迷子の猫の飼い主を探し届ける、服の仕立て手伝い、剣の鋳造手伝い、木の実採集、畑の耕作、街のパトロール……。
「いつでも切り上げられるお仕事はありますか?」
「それなら、やっぱりこれですね」
定番ですけどね、と言いながらリサが指差したのは、【シバ周辺の瘴気退治(出来高払い)】と書かれている依頼だ。
「一応外での戦闘にはなりますが、昨日チュートリアルでも体験して頂いたように、街周辺なら危なげなく倒せちゃいますし、期限もないので、合間合間でよい感じのものですね。戦ったり、身体を動かしたりがとにかく苦手、という感じでしたらおススメは出来ないですが……」
「大丈夫だと思います! これでいきます」
留められていた赤い石をひょいと外すと、表示されていた依頼の映像は消滅する。
それをリサに渡すと、はい、じゃあこちらで受付しますね、とカウンターに戻っていく。
健太は依頼を請けると、昨日と同じ草原に移動し、適度に瘴気退治をこなしていく。
初めの方こそ、全体的にぎこちない動きであったが、慣れてくるとテンポよくこなせるようになり、少しずつであるが貯まっていく護符はちょっとした楽しみになる。
そうこうするうちに正午になり、南市場で購入したパンで昼食を簡単に済ませ、紹介所に戻って来ると、リサが笑顔で出迎えた。
「おかえりなさい、健太さん。それでは、テンシちゃんからこちらの件を直依頼されておりますので、宜しくお願いいたします」
リサから渡された、三対の可愛らしい|羽が中央に描かれた、青の石に表示された画面。
そこには、【大聖堂へ雑貨の運搬をお願いします】と書かれていた。




