断章 神様がくれた一輪の花
クリスマスを控え、イルミネーションが照り輝く駅前を、多くの人が往来している。
帰宅のため足早に駅に向かうサラリーマン、夜の街に繰り出す若者、仕事へ向かう女性。
雑踏はそれぞれの想いを乗せて進んでいく。
そんな中、私は一人ここにいて、自分の時間を始める準備をしている。
といっても機材なんてほとんどないから、あとはタイミングだけだ。
左手を心臓の上に置き、大きく深呼吸をする。
「……うん、大丈夫」
初めてだった前回、ちょっと上手く出来なかったのもあり、はっきりと分かるほど鼓動が早い。
張り裂けそうなほど、とはこういうことを言うのだろう。
でも不思議と不安はない。大丈夫。きっと、うまく行く。
この奥には、誰かから預かった大事な音楽が、温かいリズムを刻んでいるのだから。
と。
スーツを着こなした白髪の男性が私の向かい側にある縁に腰かけると、じっと私を見つめてくる。
まるで、始まるのを待っているかのように。
決めた。今日はこの人のために歌おう。
気持ちが昂ぶる。誰かの「頑張れ」という声が耳元に聞こえた気がした。
……頑張るよ、私。
深呼吸ひとつ。そして、顔を上げ、私はワンコードを弾き鳴らす。
さあ、届けよう。この世界に、目の前にいる貴方に。私の歌を。