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テンプレ悪役令嬢に転生した私、前世はなんJ民でした  作者: 鈴木叶緒
悪役令嬢に転生したンゴwww
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オリックスリーグ優勝おめでとう

 シャンデリアの煌めく光の元で、怒りに満ちた声が絢爛たる宮殿の広間で高らかに響き渡った。


「諸君! いま私はこの時を以て、イーグル公爵テンス家クララ令嬢との婚約を破棄した事を宣言する!」




 今夜は社交シーズンの終わりを締め括る、王家主催の舞踏会。国王夫妻両陛下の入場前、広間にはすでに大勢の貴族が集まっており、各々が議会での成果や避暑地での過ごし方を、社交辞令も交えながら歓談している最中だった。

 そこへ先んじて姿を見せたのは、国王の第三子であるタイガー公ハンフリー゠ユージン。入場に先駆けた号令もなかったところを見ると、第二王子の登場は会場にいる誰しもが予期し得なかった出来事であると分かる。更に皆が驚いたのは、彼に続いて現れた人物の姿だった。王族のみが登壇を許される場所で、王子と腕を絡ませながら歩いてきた女性。


「イーグル公爵クララ・テンス!」


 王族らしい挨拶もなく、王族らしからぬ大声で呼ばれた少女は顔を上げた。美しく結われたブルネットの後れ毛が揺れ、白磁のような顔に見開かれた深緑の瞳が揺れる。その場の視線が一斉に彼女に集まったのもあるだろう、淑女の礼を取る細い肩がいっそう頼りなげに見えた。


「そなた、こちらの女性に見覚えはあるか。」


 そう言って彼は隣の女性を抱き寄せる。王族が公の場で取るにはおよそ適切と言えないその行動だが、女性は睫毛を伏せて彼にしなだれかかる。それだけで、この女性が彼に全幅の信頼を寄せている事、そして王子にとっても女性がどんな存在かを、否が応でも皆が理解した。

 だが、名を呼ばれた彼女は応えない。沈黙を肯定と捉えられるも危険性を知りながら、姿勢を正しまっすぐ二人を見つめる彼女の瞳には、明らかな否定の感情が見て取れた。

 それを知ってか知らずか、彼は言葉を続ける。


「彼女はミュリー子爵アントン家のジャイネス嬢だ。そなたは彼女の根も葉もない悪評を社交界に流し、彼女の尊厳を傷つけ、大変な恥辱を与えたそうだな。」


 一気に会場中がどよめく。女性の素性が明かされたが、本来ならばこの女性は王家主催の舞踏会には招待されるはずもない身分である。なぜ第二王子がそんな女性をこの場に伴ったのか、また告発された令嬢の貴族らしからぬ振る舞いにと、皆の反応や憶測はそれぞれだった。


「婚約者である私にすら滅多に話さない、不遜で気味の悪い女だとは思っていたが、よもや陰ではこのように卑劣な行いをしていたとはな!」


 そう、クララは第二王子の婚約者であった。上流貴族ならば誰もが知る事実だが、現在彼にエスコートされているのは件の女性である。実際、クララの傍に婚約者であるはずの第二王子の姿が見えない事実は、当初から様々な憶測を呼んでいた。

 段々と声を荒げていく彼に対し、クララは一言も発さなかった。女性は慎ましくあるべきという風潮の中でも、彼女は人一倍物静かな女性であると社交界では評判であった。親類縁者の間でも彼女が笑うところすらほとんど見ないという。だからこそ、第二王子の告発に皆の受けた衝撃は多かった。


「だがジャイネスは、怯えながらも勇気を出して貴様の所業を私に知らせてくれた。その身に受けた恥辱を思い出す度、彼女が何度涙を流した事か。それでも彼女は貴族の一員として、貴様の行為は看過できぬものだと悩んだ末に私へ打ち明けたのだ。自分より身分の低い者を愚弄するような貴様よりも、よほど清廉で誇り高い女性だ。」


 彼は再度女性を見やり、女性もまた愛おしげに王子の目線に応える。そして王子は憂う事など何もないと言わんばかりに頷き、打って変わって冷たい眼差しをクララに向けながら告げる。


「今ここで、その女の悪逆無道なる所業を明らかにしようと思う。語るもおぞましい話だが、事は貴族社会にとっても重大だ。王家の責任として、諸兄らにもつまびらかにすべきであると判断した。皆の者、こちらへ!」


 彼の一声で何人かの男性が集まってくる。年若いが眉目秀麗な彼らは、誰もが知るほどの上流貴族の子息達だった。


「その女がどのようにしてか弱き女性に心痛を与えたか、彼らが証言してくれよう。皆、心して聞け!」


「まずは、私からの発言をお許し下さいますよう。かの令嬢は他家の人間を茶会に招いては、功績を正当に評価され叙爵されたジャイネス嬢の家門を、歴史の浅い新参者、成り上がりの地産階級などと吹聴していたと聞き及んでおります。」


 まず先陣を切ったのは国務大臣の子息であるワースロウ伯爵ルート家のジャックである。片眼鏡の向こうから覗く切れ長の目が、クララを睨み付ける。


「子爵家は決して裕福とは言えませんが、ジャイネス様は敬虔な教徒らしく清貧に暮らし、常に領民を憂い彼らに心よりの祈りを捧げています。そんな彼女を粗末だと嘲笑ったあなたには、神の御下に昇る資格などありません。」


「加えてここ最近は税収が著しく下がり、その影響で子爵家の領地は物価が高騰していると報告が上がっている。おそらく公爵家が諸外国や周辺所領に圧力をかけ、物流を滞らせているのだろうよ。」


 続いて司教を父に持つヒエロス・イマヌエル・ピロカルプスと新進気鋭の外交官ハーマン・ベスターが、矢継ぎ早に責め立てる。司教の子息は守るように女性に寄り添い、不正を何より嫌うと評判の外交官は、クララに侮蔑の視線を向けている。


「ジャイネス嬢が外出先でクララ令嬢と出会った際、令嬢は彼女の挨拶を無視したばかりか、彼女を突き飛ばし怪我をさせたそうだな! 暴力に訴えるなど、淑女の風上にも置けぬ!」


 大声で捲し立てるのは、将軍の息子として自身も軍に所属するニッチェル・ド゠ラグーン中尉である。大柄な彼が威圧的に叫ぶ様に、群衆からも息を飲む音が聞こえた。


「盟約で定められた婚約者でありながら、嫉妬に駆られるなど見苦しい。誰にも別け隔てなく接する殿下の優しさが理解できぬとは嘆かわしい限りだ。家門の品位を落とした愚妹の所業は、公爵家として到底許されるものではない。」


 兄であるイーグル公爵テンス家の嫡男、ホックス侯爵トーマスは吐き捨てる。肉親さえも失望を露わにする光景に、貴族達は驚きを隠せない。

 だがそれでも、実兄から糾弾されなからも、彼女は一言も発しなかった。強く唇を引き結び、頑なに第二王子達から目を離さず、彼女は思った。


(なにいってだこいつ。)


 クララはなんJ民だった。


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