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惑星間交渉  作者: 蒼月貴志
6/6

進歩

 ニコルが街道を進んでいくと、宿場町にたどり着いた。ランス村より規模は格段に大きいが、かつて目にした壮麗な首都の建物群に比べればやはり見劣りする。とはいえ、敷石が敷設された街路は文明を感じさせ、せわしなく行き交う人々が街に活気をもたらしている。街からはアトラ山と周りの森を一望でき、昔から王都の貴族たちが保養に訪れるなど、観光地として栄えてきた。しかし彼らの別荘は郊外の閑静な区画にあり、街中に姿をあらわすことは滅多にない。この辺りでは街路を進むと、それに沿うように整然と並ぶ、四階建てを超える高層建築の数々を目にできる。その中に、見慣れない構造物が。

「あれはなんです?」

 夕暮れ時で暗くなりつつある街路の一角が、棒状の構造を持つ何かによって淡く照らし出されている。その足もとに近づき、上を見上げるニコル。

「魚の尾っぽみたいな光が揺らめいてるですよ」

 上を向いて呆けていると、走ってきた通行人と肩が接触してしまった。

「いて」

「あ」

 互いに弾き飛ばされるほどではないが、十分に衝撃を感じる程度には接触する。通行人がニコルに向き直り口を開く。

「すんません。急いでて」

「大丈夫なのですよ。あ、ちょっと聞きたいことがあるです」

「なんでしょ」

 棒の上端で輝く光を指差したニコル。

「これはなんです? 前来た時にはなかったですが」

 そちらに目を向けた男性が、ああ、と声を漏らした。

「街灯、っていうらしいでっせ。最近できたもんで。中身がどうなってるかはよう知らんです。ああ、それ作った発明家がこの街に住んどるとも聞きますなあ」

「街灯……。ありがとうなのです」

「ではあっしはこれで」

 そういうと男は後ろを向き、小走りに走り去ってしまった。

 以前タクミの補講で、天然ガスの燃焼からエネルギーを取り出して辺りを照らす照明の話を聞いたことがある。確か、ガス灯という名前であった。こういうものも、タクミは構造をよく知っているのだろうか。無意識にそのように考えている自分に気づき、頭を振って気を取り直す。

 ともあれ、宿場町についたからにはこの日の宿を探さなくてはならない。あたりで看板を出している建物に目を向ける。階段の上にある入り口の扉はデザインが凝っており、厚い木の板一枚の村とは大違いである。扉を開け、中に進む。天井にはランプを組み合わせているとみられるシャンデリアがあり、室内に何があるか程度には明るくなっている。カウンターに進むニコル。

「こんばんわなのです」

 受付嬢が答える。

「いらっしゃいませ。お泊まりですか?」

「はいなのです。これで一泊泊まりたいですが」

 そう言い、腰のベルトにかけたポーチから銅貨を数枚取り出した。それを見て、眉間にしわを寄せる受付嬢。

「大変申し訳ございませんが、一泊の宿泊料に足りていないようです」

「え、でも、前にこの辺りの宿に来た時はこれで……」

「昨年王都からの馬車鉄道が開通してから、保養目的のお客様方にご贔屓にして頂いておりまして。宿としての質向上のために値上げをさせて頂いております」

 かつては貴族が馬車で来るだけであったこの街に、公共交通機関の鉄道を使った商人などの富裕層が押し寄せるようになったらしい。彼らは別荘など持たないため、必然的に宿に泊まる事になるが、彼らの生活水準に対応するべく、サービスの質向上に躍起になっているそうだ。仕方なく、街路に戻るニコル。その後もいくつかの宿を回ったが、どこも似たようなもので、ことごとく追い返されてしまった。旅人や冒険者用の安宿もあるが、ニコル同様に追い立てられた人々でどこもいっぱいであり、夕暮れギリギリに街に駆け込んだニコルに入り込む余地はなかった。

 暗くなった街路の街灯のもとに座り込み、途方に暮れるニコル。

「うーん。どうするです。どこかの馬小屋でも借りるですか……」

 ため息をついていると、目の前に小銭が投げ出された。驚いて上を見上げる。そこには、仏頂面をした男が立っていた。その顔には見覚えがある。

「タクミ!?」

 びくりと肩を揺らした男が眉間にしわを寄せ、不機嫌そうに口を開いた。

「は? 人違いだ」

「あ、すみませんです」

 確かに背格好も似ており、顔つきも薄暗い街路ではそっくりに思えるほどであるが、頭の上にはニコル同様に耳があり、腰にはしっぽもついている。

 男が盛大にため息をつき、去ろうとする。それを追うように立ち上がるニコル。

「あの! このお金。いらないです!」

 投げ渡された銅貨だけでは、どちらにしても宿に泊まるには足りないのである。

 振り向いた男。やはり似ている。しかし、その口調はタクミとはかけ離れたものであった。

「小汚いなりして、コジキだと思ったから恵んでやったんだ。そんなはした金いらんからとっとけ」

 頭に青筋を浮かび上がらせ、顔を引きつらせるニコル。しかし、街灯を背にしたことで生じた影のおかげで、それが相手に見られた可能性は低い。作り笑顔で、小銭を握った拳を突き出す。

「いらないです。返すです」

 ふん、と鼻を鳴らす男。

「まともに敬語も使えないのか。そんな泥まみれの手袋で握った金なんかいらん。田舎者」

 怒り心頭に発し、小銭を背後の街灯めがけて叩きつけるニコル。しかしそれを見て、男も激怒する。

「なっ、ふざけるなこのガキ! 俺の傑作に傷をつける気か! 価値もわからんくせに!」

 予想外の怒声に目を丸くしたニコルが男に向き直る。

「おじさんの傑作? このガス灯が?」

 ガス灯、という単語を耳にした男の激昂は急速に沈静化した。依然として不愉快そうな顔ではあるが、掴みかかってきそうな勢いはなくなっている。

「ガス灯を知ってるのか? 大抵の町の連中は街灯としか呼ばんが。ふん。どうせ、名前だけ知っているだけだろう?」

 警戒した表情でニコルが答える。

「地中から採れたガスを燃焼させて発光させているということぐらいは知ってるですよ。ロウソクよりも明るくなるです。特にこれは、ガスを出す向きを調節して発光部を広げることで明るくしてるですね」

 目を丸くして口をパクつかせる男。言いたいことはあるらしいが、声になっていない。しばらくして落ち着きを取り戻したようで、ようやく声を出すことができた。

「生意気な田舎小僧め。お前程度に理解されるようでは御終いだ。ついてこい。お前がどの程度のものが理解できるか見てやろう」

 これほど無愛想な男に付き合うのは真っ平御免であった。また、長旅用の装いで体の曲線が隠されているとはいえ、性別を間違えられたことにも腹が立っている。

 ニコルが渋い顔を作り、これを断る。

「お断りなのです。おじさんについていく気はないのですよ。それと私はおん――」

「やかましい。このままじゃあ俺の腹の虫が収まらん。──俺はな、新発明をしてやって、それを理解できない国の連中をバカにするのが趣味なんだ。だからお前みたいな物知り顔のやつがいるとイライラするんだよ。……それに、そうだ。どうせ金もなくて宿に泊まれないんだろう。俺の家にある新しい発明品がなんなのか言い当てられたら、哀れなお前を上等な空き部屋に泊めてやる。──まあ答えられなければ、やっぱりクソ田舎のクズみたいな村から来たクソガキだってことで、追い出すだけだがな」

 裏も表もなく、この男について行くのはニコルにとって最悪の選択肢であるように思えた。人間性が腐って見える男の家に泊まるくらいなら、肥溜めにでも落ちた方がマシだと思ったのである。しかし、ニコルの出身をバカにした最後のセリフは、彼女の闘争心に火をつけていた。

「……分かったです。部屋はどうでもいいですが、ついて行ってやるですよ。でも、もし答えられたら、私の村をクズ呼ばわりしたことを謝罪するです」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる男。

「おお。答えられたらなあ」

 闘気を漲らせ、今にもこの男を縊り殺すのではないかと思えるほどの殺気を漂わせて、後をついてゆくニコル。ここだ、という男が顎をクイっと動かし、自宅を示す。外観はニコルを放り出したホテルのようであり、この男がいわゆる富裕層であることは明白であった。扉を開け中に進む男。ニコルもその後について中に入る。

 階段を横目に廊下を進むと、ひらけた温室のようなところに出た。周囲にはいくつかの机と、紙が散らばっている。高級な紙をこれほど潤沢に使えるとは、よほどの富裕層なのであろう。

 そして何より目を引いたのが、温室の中央に置かれた鉄の塊である。塊はいくつかの部品から構成され、大きな樽のような構造を中心として、様々な歯車が組み合わさっている。上には煙突がつき、歯車の先には車輪、そしてそれが馬車鉄道の軌道を模した鋼鉄の上に乗っている。

 得意げでかつ意地の悪そうな顔をしてみせる男。鉄の塊に目を向け、口を開く。

「さあ、あれがなんだか教えてもらおうか?」

 これが特別な発明であることは、ニコルにとって明白であった。地球の文明についても聞いていた彼女の脳裏には、一つの歴史を変えた大発明が浮かんでいたのである。

 そしてそれが、この問題の答えであろう。

「蒸気機関なのです。ボイラーの中に蒸気を充満させて圧力をあげて、その力でピストンを動かすです。しかも、ピストンの動きを車輪に伝達できるですね。だから正確には、蒸気機関車なのですよ。これさえあれば、鋼鉄軌道の上で馬車を走らせる必要がなくなるですし、ピストンを他のものに繋げば、いろんな反復作業を自動化できるです」

 この答えを聞き、ぽかんとした表情でニコルに見入る男。

 ニコルの方は鼻息荒く、してやったりと得意げな表情を見せる。しかし、動きが固まってしまった男を見て、だんだんと心配になってきたようだ。先にニコルが口を開く。

「ど、どうなのです?」

 この直後、我に返った男が顔を手で覆い、豪快に笑い始めたのである。

「やるじゃねえか、小僧! はっはっは! その通りだ、これは蒸気機関。しかもそれを馬車に応用した蒸気機関車さあ。はっはっは!」

 毒気を抜かれたニコルであったが、すぐに男に詰め寄る。

「さあ、正解したですよ。村をバカにしたことを詫びるです」

 目尻から涙まで流して心底愉快そうに笑っていた男がそれを拭き、ニコルを正面に見据える。

「はあ、これほど愉快な気持ちは久しぶりだ。――ああ、お前さんみたいな立派な小僧を育てた周りの人間たちも、立派に決まってるさ。出身をバカにして申し訳なかったな。心の底からそう思う。すまんかった」

 相手の豹変ぶりに驚きを隠せないニコルではあるが、条件の通り謝罪を聞けたため、それを受け入れることにした。しかし、頭では分かっていながらも、まだそこには血が上っており、興奮冷めやらぬといった様子であった。

 そこで一つの提案をする。

「この機関車に興味があるですが、頭に血が上っていて深く考えられないです。ちょっと冷却時間が必要なのですよ。そこで提案なのですが、この蒸気機関車を走らせてみせて欲しいのです。実際に見てみたいのですよ」

 これを聞いた男がキョトンとした表情でニコルを眺める。

「お、おお。もちろんいいぞ。ちょっと待ってな」

 男が機関車に近づき、火室に乾いた薪を入れる。間に藁を押し込み、マッチで火をつけた。これも極めて希少なものであったが、さすがは富裕層である。しばらくして、取り付けられたボイラー内の圧力メーターが上昇を始める。が、少し上って止まってしまった。

「止まったです」

「ん。おかしいな。どれ、ちょっと」

 そう言った男が、メータとそれにつながるパイプを床に置かれていたレンチで軽く叩いた。いっぺんに倍近い値まで針が振れる。

 不思議なもので、これをみていたニコルの怒りのバロメーターは、ボイラー内圧力とトレードオフの関係でもあるかのように急速に低下していった。代わりに心には、心地よい興奮が沸き立っている。

「……まあ、手作りだからな」

「なのです」

 火室の横のレバーに近づく男。

「坊主。これを引っ張ってみろ」

 言われるがままに近づくニコル。そしてレバーを下に引きおろす。

 すると、どこかから勢いよく蒸気が抜ける音が響き、非常にゆっくりとではあるが、機関車が前進を始めた。

「動いたです!」

 しかし、そのまま速度が上がることもなく、低速運転を続ける。

「思ったより遅いのです」

「今はこれが限界だな」

 そう言うと、再びレバーに近づき、それを引き上げる男。続けて口を開く。

「どうしても薪だと蒸気圧が上がりづらいし、ピストン運動の車輪への伝達もまだ改善の余地がある。それでも出来るだけ効率よく仕上げようと煙管の配置にちょっと工夫があってだな――」

 男が自身のこだわりについて語り出した。それに付き合い、要所要所で質問をするニコル。ますます楽しげになってゆく男を見て、ニコルは自身の誤解にも気づいていた。

 そして、男が機関車の位置を元に戻そうと押し始めると同時に、ニコルが口を開く。

「――おじさんは、発明して周りをバカにするのが趣味じゃないですね。むしろ、発明したものが周りに理解されなくて、がっかりして。孤独だったじゃないです?」

 機関車を押し続ける男。

「話してみて分かったですが、おじさんはとても話しやすい人なのですよ。さっきまではむしろ、孤独感から攻撃的になっていただけじゃないです? そこに発明が理解できそうな私が現れて、どうにか話し相手にしたかったです。それで色々理由をつけて、家に招待しただけじゃないです?」

 機関車を元の場所に戻した男が、そのバンパーに腰掛け、頭をぽりぽりと掻いている。

「……坊主はズバズバ言うなあ。――初めは周りが俺の発明で喜ぶと期待していたよ。だがな、その重要性は誰にも理解されず、結果は変人扱いされるだけ。しまいには、俺の方をバカにし始める始末さ。ちょっと話し相手が欲しかったって言うのは、まあ、その通りかも知れんな」

 男は、夜の帳がおりたガラス張りの温室の外に目をやる。その先では、ガス灯の一つが煌々と輝いていた。

「見返そうといくつも発明をして、ようやく有用性が認められたのが、ガス灯だったんだ。――だから、さっきは感情的になって怒鳴っちまった。それも申し訳なかったな……。孤独、か。確かにそうだったのかもな」

 先ほどまでとは打って変わって、朗らかな微笑みをニコルに向ける男。その表情は、村に残した最愛の人を思わせた。思わず目をそらすニコル。

「も、もういいのですか? 私もそろそろ宿を探すです」

 おや、と驚いた顔をする男。

「なんだ。泊まっていかないのか。もっと話したいんだが――。あと、さっきから気になってたんだが、なんで一人称だけ丁寧に私なんだ?」

 あ、と声を漏らし、口を開くニコル。

「さっき話を遮られたから、誤解があるまま進んでしまったですよ。――私は女なのです」

 それを聞いて呆ける男。しかし、すぐに再び豪快な笑い声をあげた。

「あはははは! そりゃあ悪かった。ハハハハハ。しかし、そうか女か、これはますます愉快じゃないか! 偉そうな男どもが、みんなしてマヌケヅラを見せたこの発明品の意味を初めに理解したのが、連中が日々バカにしてる女だとは! こりゃ傑作だ!」

 ひとしきり笑った後、呼吸を整えて、男が口を開く。

「いやいや。なるほど、それなら心配も理解できる。だが、うちの部屋は全室内側から鍵をかけられるからな。間違ってもおかしなことは起きないから安心してほしい。もし良ければ、初めの約束の通り部屋を提供したいんだが、どうだろう? 夕飯も一緒にどうだ?」

 うーん、と唸りながら考えるニコル。

 おそらく、ニコルは男性よりは強い。そのため、もとより女であるから何かを警戒しているわけではなかった。単に、先ほどまでの街路でのやり取りから、なんとなくここに泊まることに抵抗感が残っていたのである。しかし今となっては、せっかく個室を用意してもらえるのであれば、それも悪い話ではないように思えた。しかも、食事付きである。

「分かったですよ。部屋を使わせてもらうです。えっと……」

「そうこなくっちゃな。おお、自己紹介がまだだったな。俺はアイザック・ガードナー。まあ、没落貴族の一人さ。嬢ちゃんは?」

「私はニコルというです。よろしくです」

「ああ、よろしくな」

 その後二人が蒸気機関について語り合い、夜半になってようやくそれぞれの寝床に着いたのは言うまでもない。 

 翌朝、出発の準備を整えたニコルがリビングに姿を現した。机の上には簡素な朝食が用意されている。奥のキッチンから姿を現した男。

「おう、おはよう」

「おはようなのです」

 男が手に持っていたガラスのピッチャーを机の上に置いた。

「朝食を食べてから行かねえか。昨日今日と唯一のメイドが生家に帰っていてな。俺の手作りで悪いが」

 カバンを机の脇に置くニコル。

「お言葉に甘えさせていただくです」

 村のものとは異なり、表面に適度な歯ごたえを残しつつ、中身がしっとりと焼かれたパン。ちぎって口に放り込むニコル。

 アイザックが水を飲み干し、口を開いた。昨晩話したタクミの知識量に興味を持ったようである。

「そのタクミ先生は驚くほど博識だな。多分、王都の大学の教授連中なんかがやってる研究なんか、子どものいたずらくらいに見えるんだろう。タバコの効能なんて調べてどうなるんだか」

「はいです。タクミはすごいのですよ。もし蒸気機関の改善について相談相手が欲しければ、村に行って会ってみるといいのです。――タバコの研究はわからないですが、何か大発見につながる可能性も否定できないのですよ。逆に有害だとか」

 ははは、と軽妙な笑いを響かせるアイザック。

「それは衝撃的な研究結果だな」

 コップに水を注ぎながら再び口を開く。

「だがまあ、タクミ先生とやらに会ってみるのは面白いだろうな。ちょっと予定を調整しよう」

「おすすめなのですよ」

 口をナプキンでぬぐったニコルが、おもむろに立ち上がる。

「じゃあ、そろそろ出発するですよ。お世話になったです」

「騎士採用試験かあ。――個人的には、ニコル嬢ちゃんには大学への紹介状を書きたいくらいなんだがな」

 ニコルはカバンを背負い、にこりと笑ってみせる。

「そう言ってもらえるのは嬉しいのです」

「休みに村に戻ることでもあったら、またこっちにも寄ってくれや。歓迎するぞ」

「ありがとうなのです。私も、蒸気機関を見られて楽しかったのですよ。次も新発明を楽しみにしてるです」

「おう」

 玄関までアイザックの見送りを受け、握手をして別れる二人。

 ニコルが街路を抜け、宿場町を後に街道に歩み出る。背後では、日中で消灯されている背の高いガス灯が、彼女の姿が地平線の彼方に消えるのをじっと見守っていた。

 部屋に戻ったアイザックが一人呟く。

「タクミ先生ね……」

 椅子に座り込み、ブツブツとひとりごちる。そして頷き、膝を打って立ち上がった。

 彼がその日のうちにランス村へ旅立ったのは言うまでもない。


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