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ツンデレ幼馴染の後悔を無くすために、俺は三か月前に戻った!  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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12/24

終わらない時間はない

「おーい、梓! 昼休み一緒に食べようぜ!」


「はっ!? わ、私は萌と一緒に……って、萌いないし!?」


「弁当だな? じゃあ科学室へ行こうぜ、あそこなら人いないし――」


「う、うん……」


 俺はこの前の事があってから、梓の顔をまともに見れなくなっていた。

 ちょっと前までは大丈夫だったのに、今は目が合うだけで……恥ずかしい。


 今も表面上、普通の態度を取っているが心臓はバクバクであった。




 俺たちは廊下を二人で歩く。

 物理的な距離は以前よりも離れているけど、心の距離は確実に縮まっている。


 梓の歩き方もぎこちないけど、表情が普段よりも明るい。

 梓は俺の方を見る。


「ね、ねえ、なんでちょっと離れてんの? 微妙にムカつくんだけど?」


「はっ? は、離れてなんかねーよ……。じゃ、じゃあ、もう少し近づくぞ? いいのか?」


「あ、あんたが近づいても全然気にしないわよ! ふ、ふんだっ」


 俺は梓との距離を詰めた。

 肩が触れ合う寸前の距離。

 梓の体温が感じ取れる距離。


「あ、わわ……、思ったより近い――ふ、ふん、ぜ、全然恥ずかしくなんかないんだから」


 梓は顔を真っ赤にしながらブツブツと呟く。

 目は明後日の方向を向いていた。


 俺の身体もおかしい。

 身体が熱い。


 尋常じゃないほどの熱を感じる。

 俺は照れているのか?


 冷静さを装って喋ろうとするが、


「あ、梓、菫は元気か?」


 梓は一瞬だけ、むっとした顔をする。

 いや、違う、これは拗ねた感じの顔だ


「や、やっぱり、あんた菫狙いな!? ま、まあ私は寛大だから、こ、こんど一緒にあそ、あそ、遊びに行けば」


 今まではただのわがままだと思っていた。

 だけど、梓は優しい子だ。


 素直な言葉が言えない。言葉を湾曲して放ってしまう。


 身体の中の照れが消えた。


 その代わりに、幸福感というか、全能感というか、得も知れぬ気持ちが生まれた。


 梓に触れたい。


 身体が勝手に動いていた。

 梓の手を握りしめる。


 たったそれだけの事で俺の全身から汗が吹き出す。

 心臓がバクバクする。


「あ、あんた、また勝手に私の手を……」


「悪いな――」


 俺と梓はそれっきりお互いそっぽを向いたまま歩き続ける。

 無言の時間が続く。


 廊下ですれ違う生徒達は俺たちをカップルだと思うだろう。






 うん? 前から歩いてくるのは――


「健太せんぱーい! 久しぶりっす!! うわぁ!? け、健太先輩がいちゃいちゃしてる!?」


 小学生並の身長に、くるくるアホ毛が似合う一年生。

 確か迷子になったわんこを探してあげた時に知り合った女の子だ。


 たまに学校で会えば話す程度の関係。

 この子も中島同様話を聞かないんだよな……。


 俺が口を開く前にアホ毛の女の子がまくしたてるように喋ってきた。


「健太先輩は最近全然私にかまってくれないっす! 時雨しぐれ、超寂しいっす!! ていうか、隣のキレイな人って彼女さんっすか? 超綺麗っすね! 何か菫ちゃんに似ているっす!」


 あ、こいつ菫の知り合いか……。


 俺は梓を見た。さっきまで恥ずかしくて見れなかったけど、こいつのおかげで少し落ちつくことが出来た。


 梓は時雨のマシンガントークに圧倒されてポカーンとしていた。

 それでも綺麗と言われたのが嬉しいのか、俺にしかわからないと思うけどご機嫌な表情をしていた。


「――ふ、ふふ……綺麗……彼女さん……ふふ……違うわよ。……でも悪い子じゃないのね……」


「梓?」


 ご満悦な梓の手を引いて科学室へ向かおう。時雨にかまっていたらご飯食べる時間がなくなる。


 俺は時雨にさよならを告げようとした。


「俺たちは行くぞ、じゃあまたな――うおぉ!?」


 時雨は手を繋いでいない方の俺の手を取りやがった。

 俺に胸を押し付けながら梓を見る。


「あれっすね! 菫に似ている先輩さんと健太先輩は付き合ってないってことっすね! ってことは私が手を繋いでも問題ないっす!!」


「そ、それは……」


 確かに俺と梓は付き合っているわけじゃない。

 梓はしばし考えたあと……時雨を睨みつけた。


 以前のようなきつい睨み方じゃない。

 お姉ちゃんが悪いことをした妹を叱るような感じであった。


 そして梓は、俺の腕に抱きつくようにしがみついた。

 声は無い。


「――――――――」


 赤い顔をしながら時雨を見つめる。

 梓の匂いが俺の鼻孔をくすぐる。


 俺の心がおかしい。

 梓は確かに可愛い。

 だけど、今思っている感情は違う。

 ただ可愛いと思っているわけじゃない。

 駄目だ、自覚するな。




 時雨は俺から離れて肩を落としていた。


「はぁ〜、マジっすか〜。そんなん敵うわけ無いっすよ……。お邪魔虫は消えまっす! 健太先輩! えっと、綺麗な先輩! またっす!」


 時雨はすごい勢いで廊下を走り去っていった。




 廊下には俺と梓が取り残された。

 俺たちは顔を見合わせた。


 梓は俺の腕に抱きついているから距離が近い。

 心臓の鼓動が止まらない。

 思わず抱きしめたくなってしまう……。


 俺は心で思っている事と正反対の行動を取ろうとする。

 梓の身体を引き離そうと試みる。


「あっ」


 梓は声を漏らしながら――僅かな抵抗を見せた。

 梓の意思の現れ。


 梓は下を向いたまま俺に言った。


「……あの子に驚いて……ちょっとなにかに寄りかかっていたいだけなのよ。うん、そうよ……だからもう少しだけ腕を貸して――」


 その声には梓の素が見え隠れしていた。


「あ、ああ、お、俺で良ければ――」


 梓はコクリと頷く。

 そして、ゆっくりと、本当にゆっくりと俺たちは歩きだした。


 科学室につくまでの数分。



 俺は永遠にこの時間が続けばいいと思ってしまった。


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