(62) 誕生祝い
母親を求めて愚図っていた琥珀が、飾られた大きなクリスマスツリーに目を奪われ、泣く事も忘れて目を瞬かせる。
先日、レストランをしていた頃に使用していたクリスマスツリーを、田上が蔵から見付け出して飾ったのだ。
色とりどりのオーナメントと瞬くライトに、琥珀は興奮して手を伸ばす。
「こらこら、あかんでぇ。触ったら危ないさかいな」
琥珀の初誕生祝いとクリスマスパーティーの会場準備をしている田上が、笑いながら琥珀をたしなめた。
「今日は妃奈ちゃんが忙しいさかい、琥珀ちゃんも寂しいんちゃいます?」
黒澤に抱かれる琥珀をあやしながら、田上がカラカラと笑う。
「…料理なんて、仕出し屋に任せて置けばいいものを…」
「わかってないなぁ、兄さん…そりゃ、親心でっしゃろ?」
「…だが、まだ体調だって完全に戻った訳じゃない」
「すんまへん…ウチのオカンのせいですわ」
「え?」
「ウチのオカンが、妃奈ちゃんに色々いらん事言いおったって、栞叔母ちゃんから聞いて…」
「いゃ…妃奈は、子供の祝い事なんて知らなかったんだろう」
「そやけど、妃奈ちゃん追い詰めたんちゃうかて、栞叔母ちゃんも気にしてました」
「大丈夫だ。妃奈もそんな風には思っていない」
そう、妃奈は栞達に責められたとは思っていないだろう。
思い悩むとすれば、自分の無知を恥じているのだ。
琥珀に、人並みの祝い事をしてやれなかった事を悔いているのだ。
だが、妃奈が知らなくとも、それは致し方ない…そういう事は、普通母親から聞いて覚えていく物だろう。
妃奈達女性陣は、午前中から事務所の厨房に入り、賑やかに調理している。
琥珀を抱いて厨房の扉の窓から中を覗こうとした黒澤に、中から出て来た磯村が叱り付ける。
「邪魔よ!黒澤!」
「…済まん」
大きな銀のトレーに並べられたオードブルを運びながら、磯村が黒澤を睨んだ。
「料理の方どないです、ネェさん?」
「私が手を出す隙間なんてないわよ。栞さんが料理上手なのは、周知の事実だし、士郎のお母さんは、大人数の料理に慣れてるし…それにあの娘が、あんなに料理出来るなんて!」
「妃奈は、前から料理は得意だ」
「もう、プロみたいに手際がいいのよ!栞さんも、腕を上げたって驚いてたわ」
「…きっと、松浪組で仕込まれたんちゃいます?」
「そうだな」
「そしたら、今日はご馳走が期待できますわな!」
そう言ってオードブルを摘まみ食いしようとした田上の手を、磯村がピシャリと叩いた。
会場にした事務所には、結構な人数が杯を掲げて談笑している。
琥珀は見知った顔が多いからか、機嫌の良い笑い声を上げていた。
「本日は、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
聖社長夫妻の挨拶に、黒澤がにこやかに対応する。
「これ、琥珀君に…」
大きな包みを差し出しながら、萌奈美嬢がヘニャリとした笑顔を向けた。
「ありがとうございます」
「あの…妃奈さんは?」
「申し訳ございません。未だ、厨房の方に居りまして…」
どこから噂を聞き付けたのか、招待した人数の倍近い人が集まり、妃奈や栞は厨房に籠り追加の料理を作っている。
「妃奈は、ウチに居た時から働き者でね。特に料理の腕は、ウチの自慢の料理人に仕込まれて、玄人はだしなんだよ」
「これは、松浪の奥様…ご無沙汰致しております」
「元気にしてたかい?相変わらず、ちっちゃくて可愛いねぇ、萌奈美さん」
場を取り仕切る様に笑顔を振り撒く松浪夫人に萌奈美嬢が捕まると、聖社長が苦笑いしながら内ポケットから祝儀袋を取り出した。
「堂本の義父より、預かって参りました」
「これは、お気遣い痛み入ります。堂本組長に、宜しくお伝え下さい」
「本当は、こちらに伺いたかった様ですが、今日はクリスマス・イブですので…」
「ご家族で、お祝いになるご予定ですか?」
「えぇ。子供達を連れて、泊まり掛けでフェアリーランドに」
久々に聞いたその場所の名前に、黒澤の胸はドキリと跳ねた。
「…あぁ…周辺に、オフィシャルホテルがあるんでしたね?お子様方も、さぞやお喜びでしょう」
「実は、私達も夜から参加するんですよ」
そう笑いながら、聖社長は萌奈美嬢を目で追った。
「萌奈美も好きでしてね…特に夜のパレードは幻想的で、女性には堪らないらしいです」
「…そうですか」
幼かった妃奈との約束…彼女は、覚えているだろうか?
思えば大人になった妃奈と、まともにデートもしてやった事がない。
2人で出掛けた事も、なかったのではないだろうか?
自分は、そういったブロセスをすっ飛ばし、嫌がる彼女を監禁し、躰を繋げ、子供を産ませ、結婚を迫り…何と傲慢な男なのだろうと改めて思う。
「妃奈は?まだ出て来てないのかい?もう、琥珀に餅を担がせるよ!」
松浪夫人の不機嫌な声に、いつのまにか背後に居た栞が頭を下げる。
「申し訳ありません。もうじき出て来ると思いますが…」
歯切れの悪いその言葉に、黒澤が眉を寄せた時、人を掻き分けてやって来た小塚が、黒澤に耳打ちした。
「所長…森田組長が、お見えになりました」
「…何?」
会場の入口に現れた森田組長は、黒澤の姿を見付けると黙って目配せをした。
「…いらっしゃいませ」
「盛況な様だな」
そう言うと、森田組長は袱紗から取り出した分厚い祝儀袋を、黒澤に渡した。
「ありがとうございます」
そう言って受け取る黒澤を無視して、会場をぐるりと見回す森田組長に、黒澤は訝しんで尋ねる。
「今日は、お見えになれなかったのではありませんでしたか?」
松浪夫人が、持参した一升の大きな紅白の餅の1つを風呂敷に包み、琥珀の背中に括り付ける。
初誕生の祝いに子供に一升餅を担がせるのは、人の一生と餅の一升を掛けて『一生丸く(円満に)長生き出来る様に』『一生食べ物に困らない様に』等という願いが込められているという。
琥珀が約2キロの餅を担ぎ、難なく立ち上がり歩いて見せると、周囲の大人達が歓声を上げた。
目を細めてその様子を見ていた森田組長は、少しだけ口角を上げて言った。
「…やはり、親子だな」
「は?」
「昔のお前も、難なく餅を担いで見せた」
「…」
担いでいた餅を下ろすと、今度はその餅の上に立つ様にと、松浪夫人が琥珀の手を取り促している。
一升餅を大地になぞらえ、餅の上に立たせ、『しっかり地に足を着けて歩いて行ける様に』『一生を強く歩き切る足腰の強い人間になる様に』という願いを込めるらしい。
所によっては、素足ではなく草履を履かせて踏ませる地域もあるそうだ。
「今日、私をここに呼んだのは…あの女だ」
「…妃奈が…ですか?」
「先日から、ずっと煩く電話を寄越していた。昼前に、自分は顔を出せそうにないので、私に出席して欲しいと連絡して来た」
「なっ!?」
「あの女が顔を出さないのであれば、私が出席するのは吝かではない」
そう言うと、森田組長は黒澤を置いて松浪夫人に挨拶をしに行った。
黒澤は踵を返し、厨房に足を踏み入れると怒声を響かせた。
「妃奈!?」
まな板の前で三つ葉を刻んでいた妃奈は、驚いた様に顔を上げた。
「どうしました?何かありましたか?」
「どうもこうもない!!」
黒澤は妃奈の手首を掴むと、強引に厨房から連れ出そうと手を引いた。
「待って下さい!!もうすぐ、祝い餅が来ます!」
「餅なんて、どうでもいい!!」
「どうでもいいなんて…何て事仰るんですか!?」
そう妃奈は叫び、黒澤の手を思い切り振り解いた。
「…森田さんを呼んだそうだな?」
「はい」
「何故!?」
「あの方は、琥珀のお祖父様です」
「…どうせ…お前が会場に出ない事を条件にしたんだろう!?」
「そうです」
事もなげに肯定する妃奈に、黒澤は眉を吊り上げた。
「お前は、琥珀の母親だろう!?何故、一緒に祝ってやらない!?」
「私は…ちゃんと祝ってます」
「何っ?」
「ちゃんと、祝ってやってます」
眉を潜めて黒澤を窺いながら、妃奈は訳がわからないという様な素振りで再びまな板に向かった。
「皆さん、琥珀を祝う為に集まって下さったお客様です。おもてなしするのは、当たり前じゃありませんか」
「……」
「それとも、パーティーに出席しないと、祝ってやる事にはなりませんか?裏方では、祝っている事にはなりませんか?」
「…妃奈」
「祝いの一升餅は、沢山の方々に食べて頂いた方が、その子は幸せになれるのだそうです」
妃奈はそう言うと、コンロに掛けてある2つの大きな鍋の蓋を取った。
「お雑煮と、おぜんざいを用意しました。皆さんに、喜んで頂けると宜しいのですが…」
「…お前は、それでいいのか?」
「何がですか?」
「一生…そうやって、裏方ばかり務めるつもりか?」
その言葉に、妃奈はサッと顔色を曇らせる。
「…いけませんか?」
「……」
「……私は…表に行っても…何も出来ませんし…」
「お前、今…楽しいか?」
「……多分…」
口を真一文字に結んだ黒澤が妃奈に近付くと、彼女は黒澤の様子に怯えて震えながら後退った。
「済みません」
「……」
「…申し訳…ありません…」
震えて萎縮する妃奈を抱き締め様とした黒澤は、厨房の入口から勢い良く入って来た人の気配に、伸ばした腕を下ろした。
「妃奈ちゃん、餅持って来ましたで!」
「士郎、アンタはその鍋を会場に運んで!弘美さんは、餅切り分けて貰えます?」
「わかりました。黒澤!ホストが会場ほっぽり出して、こんな所で何やってんのよ!?」
「…済まん」
磯村の言葉に後ろ髪を引かれつつ厨房を出た所で、黒澤は栞に鉢合わせた。
「どうかしましたか、坊っちゃん?」
「…妃奈が…又、森田さんと妙な約束をした」
「あぁ…電話してらしたんですよ」
「知ってたのか?」
「えぇ。私も、再三会場の方に行かれる様にとお話ししたんですが…妃奈さん、厨房の扉の向こうは、自分の世界ではないからと仰って」
自分は、事を焦り過ぎたのか?
妃奈は未だ、『嬉しい』『楽しい』という感覚がわからないのかもしれない。
『幸せです』と言う彼女の感覚は、普通の人間とは違う次元の物なのかもしれない。
琥珀に対して負い目を感じている妃奈は、今回の祝いも義務感しか感じていなかったのではないだろうか?
自分は、妃奈に負担を強いているだけなのではないか?
遠くで琥珀の愚図る様な泣き声がして、黒澤は声を頼りに琥珀を捜した。
「…あ、黒澤さん。良かった…琥珀君、おねむの様で…」
萌奈美嬢の腕の中で愚図っていた琥珀は、黒澤の姿を認めると腕を伸ばして呼び掛ける。
「…とと、ととっ!」
「あらぁ、お父さんがわかるんですね」
琥珀と過ごす時間が増えた事と、妃奈が父親だと教え続けた事で、琥珀はつい先日から黒澤の事を『とと』と呼ぶ様になった。
琥珀本人としては『お父さん』と呼んでいる積りなのだろうが、自分を呼んでいると思うと可愛さも倍増する。
琥珀の躰を受け取ると、安心した様に躰を沿わせ、黒澤の腕の中で琥珀は指をしゃぶり出した。
「済みません、疲れた様ですので…」
そう会釈すると、黒澤は琥珀を連れて再び厨房に向かった。
「妃奈!」
ビクリと顔を上げた妃奈は、琥珀の姿にオドオドと黒澤に近付いた。
「もう、眠くて限界らしい。寝かせてやってくれ」
「…でも」
躊躇する妃奈に、栞が笑いながら声を掛ける。
「こっちは、大丈夫ですからね。妃奈さんも、休憩して来て下さい」
妃奈は皆の顔を見比べて、小さく頷くと琥珀に腕を伸ばした。
「…かっかぁ…」
甘えた様に呼び掛ける琥珀に頬擦りすると、妃奈は皆に会釈をして厨房を後にした。
「本日は、ありがとうございました」
会がお開きになって挨拶する段になると、妃奈はようやく厨房から姿を現した。
しかし黒澤の隣に並ぶでもなく、事務所の建物の外に、まるで使用人の様な佇まいで来客に頭を下げる。
「妃奈!?あんた一体、どこに居たんだい!?」
誰よりも先に挨拶を受ける松浪夫人の言葉に、妃奈は深々と頭を下げる。
「申し訳ありません、奥様。本日は、本当にありがとうございました」
「立派な祝いの席だったよ。料理も自分達で賄った様だし、頑張ったんだね」
「とんでもありません」
「…って、あたしが誉めるとでも思ったら、大間違いだよ!妃奈!!」
鼻息荒く説教する松浪夫人に、妃奈は唯々項垂れる。
「何で、琥珀の隣に居てやらなかったんだい!?琥珀の親は、黒澤だけかい?あの子は、片親なのかい!?」
「…いぇ」
「琥珀は、ずっとあんたの事を捜していたんだよ!」
「…申し訳ありません」
「謝るのは、あたしにじゃないんじゃないのかい?」
「……」
「全く…いつまでも下働きの積りで居るんじゃないよ!!あんたは、黒澤の女房になるんだよ!?黒澤に恥掻かせて、どうするんだい!」
「…ぇ?」
「黒澤が今日、何回あんたの事で客に言い訳したと思ってるんだい?『奥様は?』『琥珀君のお母さんは?』と聞かれる度に、黒澤はずっと言い訳してたよ。あれじゃ、結婚前から不仲な夫婦だと誤解されちまう!」
「……」
「妃奈…人には、それぞれの立ち位置があるんだ。黒澤の女房としての立ち位置を、間違えるんじゃないよ。黒澤の女房になるって事は、この弁護士事務所の所長夫人になるんであって、使用人の身分のままって事じゃないんだよ?あんたがそんな事じゃ、琥珀は何時まで経っても使用人の子供って事になるんだ。わかってるかい!?」
「…申し訳…ありません」
項垂れる妃奈に、松浪夫人は尻を蹴飛ばす勢いで妃奈に命令する。
「ホラッ!!さっさと黒澤の横に立って、客に挨拶しておいで!」
「はい」
妃奈は小走りで黒澤の隣に行くと、一歩下がって客に頭を下げ様とした。
黒澤はそんな妃奈の腰を抱いて引き寄せると、自分の隣にピッタリと身を沿わす様に立たせ、来客に妃奈を紹介する。
「妃奈が厨房から出て来なかったのは、あんたのせいなのかい、森田さん?」
松浪夫人は態々会場に戻り森田組長の隣に立つと、周囲に聞こえる様に態と声を張って質問する。
「さぁ、私には何の事やら…」
「まだ、黒澤と妃奈が結婚するのを反対してるのかい?」
「いいえ。私は、黒澤の好きにする様にと伝えてありますが?」
薄笑いを浮かべ対応する森田組長に、松浪夫人は柳眉を上げた。
「じゃあ何で、妃奈があんな態度を取るのかね?」
「さぁ?私には、わかりかねます」
「森田さん…組がどうとか、ケジメがどうとかって、あたしは全く預かり知らぬ事だがねぇ…今回の事についちゃあ、あたしはどうにも腹の虫が治まらないんだよ」
「…松浪組長には、ご理解頂いていると自負しておりますが?」
「言っただろう?あたしが…だよ」
互いに視線を絡まそうとせず、黒澤達が来客に挨拶するのを見詰めながら、松浪夫人が話し続ける。
「お宅じゃどうだか知らないけどね…ウチの家内の事は、松浪組の姐である、あたしの領分なんだよ。当然使用人だった妃奈の事も、琥珀の事も、あたしの管轄でね。あんたに好き勝手される謂れはなかったんだけどね?」
「……」
「それに、前にも言ったけど…妃奈はウチの組長の命の恩人なのさ。松浪寅一ともあろう者が、恩人をないがしろには出来ないだろう?」
「…しかし、それは…あの場に松浪組長が同席された事や、連城弁護士を雇った事で帳消しになるのではありませんか?」
「…何か、思い違いしてないかい、森田さん?」
「何をですか?」
「確かに、仁を…連城を雇ったのは、あたしだよ。あんたが、琥珀を連れ去るなんて事をしでかしたからね。だけど、ウチの組長が嶋祢会長に同行したのは、妃奈の為じゃないよ」
カラカラと笑いながら話す松浪夫人に、森田組長は片眉を上げた。
「わからないのかい?ウチの人は、蝶子のゴタゴタで、堂本組に火の粉が飛ぶのを防ぎに行ったんだよ」
「……」
「連城は、日本一の弁護士だよ?世界を股に掛けるネゴシエイターだからね…どんな事で、堂本組に責任を被せられるか、わかったもんじゃない。黒澤も、それだけの物を用意して行ったんだろう?」
「……ご存知でしたか」
「ウチの人が同行したからこそ、連城はその事を嶋祢会長に言わなかったんだろうさ。じゃなきゃ、交渉材料に持ち出し兼ねないからね」
「……」
「ウチの人は、堂本組の相談役だよ?どんな時にも、第一に優先するのはその立場だ。そして、今回…堂本組長が守ったのは、あんただろう、森田さん?って事は、ウチの人は、あんたを守った事にならないかねぇ?」
「…その様です」
眉間に皺を寄せる森田組長に、松浪夫人はフンと鼻を鳴らした。
「思い違いも甚だしいもんだ」
「…申し訳ありません」
森田組長の謝罪に、松浪夫人は笑みを浮かべる。
「で…話を戻すけどね。あの2人の事、許してやる気はないのかい?」
「……」
「こうやって、琥珀の祝いには来てやったんだろう?」
「それは、又…別の話です」
「血縁を優先って事かい。案外と、みみっちい男だね?」
「そういう事ではありません。私の感情はさて置き、私の立場では彼女を許す事は出来ないと…おわかりの筈です」
「堂本組長は許してるって聞いたよ?」
「だからこそです!!」
森田組長の言葉に、松浪夫人はハァと溜め息を吐いた。
「頑固だねぇ……でも、あたしも諦める訳に行かないんだよ。ウチの人の恩人であり、娘の様に可愛がって来た妃奈の為に…そして、あたし達の孫も同然の琥珀の為にね」
そう言って口角を上げると、松浪夫人は悠然と出口に向かった。




