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琥珀色の呪文  作者: Shellie May
41/80

(41) 対決

携帯で指示をされながら散々都内を巡回し、最終的に呼び出されたのは、荒川沿いにある(さび)れた廃工場だった。

車のサイドブレーキを引き上げながら、黒澤はナビに映し出された住所をボソリと吐いた。

妃奈が家を出てから、48時間以上が経つ…彼女は無事だろうか?

坂上に連れ(さら)われ、(ひど)い目に遭っているのではないだろうか!?

…落ち着け…でないと、妃奈を取り戻せない。

大きく深呼吸すると、黒澤はコートを掴んで車を降りた。

古い機械油と鉄錆(てつさ)びの臭い…剥き出しの鉄材で組まれたがらんどうの工場に足を踏み入れると、薄暗い建物の中に1台の車が停まっていた。

黒澤の姿を認めたのか、車内から2人の男が降り立つ。

「黒澤鷲か?」

「そうだ」

「ブツは持って来たか?」

運転席から出て来た男の問い掛けに、黒澤は辺りを窺いながら内ポケットからフラッシュメモリーを取り出して見せた。

「妃奈は?」

「もうしばらく待って貰えるかね?」

答えた後部座席から降り立った壮年の男を、黒澤は睨み付ける。

毛利剛…呼び出しはしたものの、本人直々(じきじき)に出向いて来るとは思わなかった。

やはりこのフラッシュメモリーは、それだけ奴にとってのウィークポイントに違いない。

「スティックメモリーだけか?手帳は?」

「……」

「お前の兄貴は、手帳とスティックメモリーに、情報を残していた筈だ」

「…お前…あの時の…」

運転席から出て来た男の言葉に、黒澤は身構えた。

「そういえば、あの場にお前も居たんだよなぁ?」

「……」

「父親と兄貴を見捨てて逃げた腰抜けが…」

(うるさ)いっ!!手帳は、お前達が放った火で燃えた!!残っているのは、フラッシュメモリーだけだ!!」

黒澤の答えに、運転席から出て来た男はニヤリと笑い、毛利剛に視線を送った。

「挑発するな、菱川」

「構いませんがね…信用なさるんですか、毛利先生?」

「もし手元に持っていたなら、今頃は検察に提出されていてもおかしくはないからな」

「だから…それは、堂本も絡むからだと申し上げましたでしょう?」

菱川と呼ばれた男は、ケッと言って唾を吐いた。

「…菱川って事は、お前…菱川組の身内か?」

「おや?森田組の弁護士さんにも、名が売れているとは光栄だ。俺の名は、菱川正己(ひしかわ まさき)。菱川組の若頭補佐(わかがしらほさ)をしている。以後、お見知り置きを…」

そう言って胸に手を当て芝居めいてお辞儀する菱川を睨み付けた時、けたたましいスリップ音を響かせて、一台のスポーツカーが建物の中に滑り込んで来た。

「…来てやったぜ、親父!」

不機嫌に車から降り立つ坂上に、黒澤は血をたぎらせた。

この男が、坂上恭…妃奈を苦しめ続けている男だ!

夏目警視の話では、茂木良介は坂上に脅され、妃奈誘拐の片棒を担がされたと話しているらしい。

「妃奈は!?無事なのか!?」

「…(うる)せぇな」

坂上は車のトランクを開けると、ガムテープをベタベタと貼り付け、所々血に染まったシーツで簀巻(すま)きにした物体を担ぎ上げ、毛利の足元にドスンと落とした。

「…開いて見せろ!」

「いいのか?真っ()だぜ?」

「…顔を…見せろ」

坂上はシーツの片側を縛ってある紐を解くと、中から細いチェーンを取り出して引き上げる。

ウッと(うめ)き声を上げ現れた妃奈の顔の半分は、鼻から溢れた血で真っ赤に染まり、引き上げられたチェーンの端は、何と細い首に巻かれた首輪に繋がれていた。

「…ッテメェ…坂上ッ!?」

「何だ?鼻血の事か?俺のせいじゃない。クロに薬が合わなかったんだ」

「首輪を解け!!」

「鍵がねぇよ。解く必要もねぇけどな」

「何だと!?」

「コイツは俺のモノだ。どう扱おうと、俺の勝手だろ?」

再びグイとチェーンを引き上げる坂上に、妃奈は苦しそうな(うめ)き声を上げるだけで、何も反応を示さない。

いつもの妃奈ならば、悪態(あくたい)を吐いて坂上を(ののし)るだろうに…やはり、警察で話されていた薬を盛られているのだろうか?

黒澤はツカツカと妃奈の側に行くと、毛利にフラッシュメモリーを投げ付け、シーツごと妃奈の躰を抱き上げた。

「返して貰うぞ!!」

「はぁ?何言ってやがる!」

「そういう約束で、ここに来た。そのフラッシュメモリーは、くれてやる!」

「俺は、そんな事聞いてねぇし……親父、どういう事だ?この女は、俺が飼うって言ったろ!?親父が会いたいって言うから、連れて来ただけだぞ!」

そう言って鎖を引こうとした坂上に、黒澤は妃奈を抱いたまま勢いよく鎖を手繰(たぐ)り寄せ、よろめきながら近付いた坂上に思い切り蹴りを食らわせた。

ズシャリという音と共に吹っ飛ぶ坂上に一瞥(いちべつ)をくれると、黒澤は妃奈を抱いたまま毛利達から遠ざかろうとした。

「待って貰おうか、黒澤君」

今迄静観していた毛利が、黒澤の背中に呼び掛ける。

「…何だ?取引は終わっただろう?」

「こちらの、確認がまだなのでね」

そう言うと毛利は、車からパソコンを持ち出した菱川にフラッシュメモリーを渡した。

「…大丈夫か、妃奈?」

腕の中でグッタリとしている妃奈に呼び掛けると、彼女は息をするのも億劫(おっくう)な様に(あえ)ぎ、うっすらと(まぶた)を開き黒澤を見上げた。

「俺だ…わかるか?」

微かに(うなず)く妃奈に安堵すると、黒澤は妃奈の額に口付けながら囁いた。

「もう大丈夫だ。安心しろ」

「…さて、それはどうかな?」

毛利の言葉に、黒澤はキツイ視線を投げ付けた。

「どういう意味だ?」

「まさか、このまま無事で帰れるとは、君も思っていないだろう?」

「……」

「しかし、君には(いささ)か失望したよ、黒澤君」

「何だと?」

「君の兄は、もう少し骨のある男だった。組弁護士なんかをしながら、現役警察官である私に、罪を告白しろと言って来たんだからね」

「…それで殺したのか?」

「おかしな男だったよ…組弁護士の分際で、私に正義を()くとは…」

「元々兄貴は、検事志望だったからな…新宿署組織対策課の課長をしながら、押収品を横流しするお前の行状が、腹に据え兼ねたんだろう」

「何が悪い?焼却されて灰になる押収品を、生きた金にする…そして、その金は社会に還元されている」

「何をほざくかと思えば…唯お前の懐に入って、選挙の裏金になっただけだろう!?そして今度は、菱川組と結託して、合成麻薬に迄手を出した!」

「それもこれも、君の世話になっている組からの情報だ」

「ふざけるな!!解体した三上組と組んだAsia製薬から提出された情報を、お前が横領したんだろうが!!」

「何とでも言うがいい。私は、葬り去られる物を拾ったに過ぎない」

「世間に、胸を張って言える事か!?」

「心配して頂かなくても結構だよ、黒澤君。私はクリーンなイメージで通っている…世間に知られる事はない」

「クリーンが聞いて呆れる!」

「それは君だとて同じ事だろう?ヤクザに顎で使われる弁護士…それが、君だ」

「それがどうした?彼等も人間だ。法に守られる権利がある」

詭弁(きべん)だな…彼等は、人間の(くず)だよ」

2人の話を聞いていた菱川が、ピクリと眉を上げた。

「お前も、その(くず)と手を組んでいるんだろう!俺に偉そうに言える立場か!?」

「私は、彼等を利用しているだけだ。君の様に使われている訳ではないよ」

「…毛利先生…パスワードが必要の様です」

パソコンでフラッシュメモリーを開こうとしていた菱川が、画面を毛利に見せて囁いた。

「…黒澤君、パスワードを教えて貰おう」

「それは、彼女を安全な場所に連れて行ってからだ」

「馬鹿を言ってはいけない。それでは、取引にならないだろう?」

「何が取引だ…俺は、妃奈を無事な姿で返せと言った筈だ!!」

「それは、しょうがないな。何せ、彼女は息子の所に居たんだ…彼女に薬を与えていたなんて、私の(あずか)り知らぬ所だよ。それよりも…」

菱川からパソコンを奪うと、毛利は彼に向かって顎をしゃくった。

その合図で、菱川は黒澤に向かって銃を構える。

「…パスワードを答えて貰おう」

黒澤は少しでも距離を取ろうと後退するのを諦め、妃奈をそっと地面に座らせた。

「…大丈夫だ。少し待ってろ」

不安そうに見上げる妃奈の頭をクシャリと撫でると、黒澤は彼女を庇う様に前に立ちはだかる。

その時、キーボードを操る毛利の持つパソコンから、けたたましい警告音が鳴り出した。

「余り勝手に打ち込まない方がいい…大変な事になるぞ?」

「何?」

「そのフラッシュメモリーには、トラップが仕掛けてある。警告音がしたという事は、最初のトラップが発動したという事だ」

「…何をした」

「規定時間以内にパスワードを打ち込まなければ、全世界にお前の行状が流れ出す」

慌てた毛利が、パソコンの電源を落とそうとすると、再び警告音が鳴り響く。

「今度は何だ!?」

「要らぬ事をすると、状況は悪化する一方だぞ?」

「……」

「解除するには、正しいパスワードを打ち込むしかない」

「早く教えろ!」

「彼女を安全な場所に避難させてからだ」

「…それは無理だ」

毛利の言葉に、菱川が銃口を妃奈に向けた。

「止めさせろ、毛利」

「君の方こそ、(あきら)めてはどうかね?」

菱川が、妃奈のうずくまる足元を狙い発砲すると、コンクリートが()ぜて妃奈の頬を傷付けた。

黒澤は膝を折り、妃奈を囲う様に盾になり叫ぶ。

「止めろっ!!」

「なら、早く教える事だ。まぁ、その娘と一緒に命を落とすのが、早くなるか遅くなるかの差だがね」

フッフッと笑う毛利に、倒れていた坂上が起き上がり、腹を押さえながら父親に問い質した。

「どういう事だよ、親父!?クロを殺すなんて、聞いてねぇ!」

「いい加減お前も、この娘に固執するのは止めなさい、恭。この娘は、遅かれ早かれ死ぬ運命にある」

「どういう事だ、親父?」

「俺からも聞きたい!何故、ずっと妃奈を(おとし)め様とする?何故妃奈の命を狙うんだ!?」

黒澤の問いに、毛利はニヤリと笑みを浮かべ、真っ直ぐに妃奈に視線を向けた。

「…私を、覚えているか?」

問われた妃奈は黒澤の背に(すが)り、(おび)えた様にフルフルと首を振った。

「記憶を無くしているというのは、本当の様だ。だが…その閉じ込めたパンドラの箱が、いつ開くか…誰にもわからないからね。私は、そんな危ない賭けはしない主義なんだよ」

「……」

「元々は、君が原因なんだよ、黒澤君」

「…何だと?」

不敵に笑う毛利の言葉に、黒澤は(おび)える妃奈を(かば)う様に抱き寄せた。

「6年前…君が、この娘の家に逃げ込むから、私が出張る羽目になったんだからね」

「…貴様…まさか、妃奈の両親を…」

「母親が帰るのを待って家を訪ねた。すると、昼前に娘と出掛けた筈の父親が居るのでね…どこに出掛けたか、預かった物はないか…尋ねている時に、この娘は帰って来たんだ」

「……貴様ッ!?何が尋ねてだっ!!切り刻んで、拷問したんだろうが!?」

「君の両親は、何も知らないと言い続けた。帰って来た君を見て、虫の息で君の名前を呼んでいた…」

黒澤の腕の中で、妃奈はガクガクと震えながら耳を(ふさ)ぐ。

「私は、両親の枕元に座り込んだ君にも彼の行方を尋ねた。だが君は、呆けた様に1つの言葉しか話さなかったな」

「…止めろ…」

「『王子様、助けて』…君は、ずっとそう(つぶや)きながら泣いていた。可笑(おか)しいだろう!?今時、幼稚園児でもそんな事は言わないだろうにと、大笑いしたのを覚えているよ」

「止めろと言っているだろう!?」

妃奈を抱き締めて叫ぶ黒澤に、毛利は勝ち誇った様に高笑いをする。

「おやおや、黒澤君?君は、その娘に何も話してはいないのかね?高橋妃奈…その男のせいだよ!君の両親が死ぬ事になったのも、君が私に殺される運命にあるのも、全てその男が原因だ!!」

ハッハッと笑う毛利は、凍てつく様な視線を投げる黒澤に言葉を掛けた。

「お喋りが過ぎた…そろそろ、パスワードを教えて貰えるかね?」

乾いた声で黒澤が答えるパスワードを、毛利が打ち込む。

「今度は、無事に開いた様だ」

毛利は、満足そうに中のファイルを確認して頷いた。

「コピー等、取っていないだろうね?」

「さぁ…どうかな?」

「まぁ、コピーした所で、君にはもう使い様がないがね……菱川、片付けろ」

そう言うと、毛利は車の後部座席のドアを開けてパソコンを抱えたまま乗り込んだ。

「残念だったな…これで終わりだ」

銃口を向ける菱川の薄い唇が引き上がる。

「…終わりなのは、お前達だ」

黒澤の言葉が終わらぬ内に、建物の入口に何台もの車が横付けされ、ワラワラと警察官が乗り込んで来た。

「動くなっ!!警察だっ!!」

「そのまま銃を捨てて、手を挙げなさい!!」

狼狽(うろた)える菱川は、そのまま震える銃口を妃奈に向けて固まった。

(あきら)めろよ、菱川さん。蜂の巣になっちまうぜ?」

(うるさ)いッ!!」

ノロノロと近付いた坂上の言葉に、菱川がヒステリックに叫ぶ。

「ポリ公に乗り込まれたんじゃ、もう終いだろ?コイツ殺しても、何にもなんねぇって」

「お前も死にたいのか!?」

「…どうでもいぃや…親父も、もう終いだろ?どうせヤクの事もバレてるし」

「畜生ッ!!」

菱川はそう叫ぶと、妃奈に向けた拳銃の引き金に掛けた指に力を込める。

黒澤は妃奈を(かば)う様に抱き締め、自らの身に衝撃(しょうげき)を受ける覚悟を決めた。

しかし、2発の銃声後に訪れたのは、背後に倒れ込む坂上の姿だったのだ。

驚いた菱川は車を振り返ると、一心に首を振った。

透かさず黒澤が菱川の拳銃を持つ手を(ひね)り上げると、警察官が駆け寄り彼を拘束(こうそく)する。

「……ってぇ…」

腹に2発の銃弾を受けた坂上は、ゴボリと血を吐くと、側にあった細いチェーンを手繰り寄せる。

「……クロ…」

地面に()いつくばり腕を伸ばす坂上に、妃奈は(おび)えた様に首を振った。

「……俺の…」

「…イヤッ…イヤッ…」

再びゴボリと血を吐くと、坂上はそのまま地面に沈んだ。

「イヤァァァーーーッッ!!」

絶叫を上げる妃奈を抱き締める黒澤の背で、夏目警視の冷ややかな声が響く。

「車から降りて頂けますか?」

「私は、都議会議員の毛利剛だ!私は、この件には一切関係ない!!」

「貴方の都議会議員の職は、既に剥奪(はくだつ)されています」

「何だと!?」

「今回の拉致誘拐事件(らちゆうかいじけん)の事、署でゆっくりとお話を伺います」

「どこの署だね?」

「新宿署です」

途端に安堵した様な表情を示した毛利に、夏目警視は抑揚(よくよう)の無い声で続けた。

「その後、本庁の方でもお伺いしたい事が山の様にありますので、覚悟なさって下さい」

「何!?」

「そのフラッシュメモリーの件も、先程話されていた拷問殺人(ごうもんさつじん)の件も…勿論(もちろん)、菱川組との関係や合成麻薬の件も…」

「!?」

「会話記録と共に、本庁に提出させて頂きます」

「待てっ!とっ、取引きをしようじゃないか!?私の持っている情報で、署の上層部に掛け合って…」

「まだ、何か隠し持っている物があるのですか?それは、興味深いですね?」

「上層部の人間に取り合ってくれ!そうすれば…」

「残念ながら、取引きはしません」

冷たい夏目警視の言葉に、毛利は馬鹿にした様な表情を見せた。

「君では話にならん!責任者を呼びたまえ!!」

「責任者は、私です」

「何だと?」

「日本の司法取引は、まだまだ実行には時間を擁するでしょう。()してや、貴方のような罪状(ざいじょう)の数々…司法取引をしたところで、極刑(きょっけい)は免れません。貴方も元警察官なら、ご存知の筈です」

「それは、建前だろう!!もういい!署長に話すから連れて行け!!」

「無駄ですよ」

そう言って、夏目警視は自分の警察章を毛利に掲示した。

その名前に、毛利の顔色がみるみる変わる。

(ちな)みに新しい新宿署の署長は、貴方が横領した5年前の新宿薬物事件の捜査本部長をしていた人物です」

項垂(うなだ)れる毛利に、夏目警視の後ろに控えた三田村刑事が手錠を掛けて連行する。

(きびす)を返した夏目警視が、黒澤達の元に来て、目の前で絶命している坂上の脈を確認すると手を合わせた。

「大丈夫ですか?」

「えぇ、何とか…」

「直ぐに救急車が来ます」

そう言うと、夏目警視はハンカチを取り出して妃奈の鼻血で汚れた顔をそっと拭き取った。

「辛い話を聞かせる事になってしまいましたが、大丈夫でしょうか?」

黒澤は、ハンカチを受け取りながら、放心した様に腕に収まる妃奈の髪を撫でてやった。

「妃奈の信頼する精神科医の居る病院に、入院させようと思います」

「鷹栖総合病院ですか?以前入院されていた?」

「えぇ」

「わかりました。こちらから、病院の方には連絡を入れておきます。その旨、救急隊員にお伝え下さい」

片手で携帯を扱いながら話すと、夏目警視は直ぐに通話のボタンを押して話し出した。

「…受け入れて頂ける様です。落ち着いたら、お話を伺いに参りますので、宜しくお願い致します」

夏目警視は頭を下げると、黒澤の装置していた無線機を回収し、警察官達の元に戻って行った。

「…妃奈」

腕の中で目を閉じて震える妃奈を、黒澤は強く抱き締めた。

「…お前が無事で…本当に良かった…」

深い溜め息と共に吐かれた言葉に、妃奈の瞳から涙が(あふ)れた。


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