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 ハシゴを降りきると、今度は真っ直ぐに道が果てしなく続いているのが見えた。


 この地下、本来暗いハズのこの洞窟をライトで明るく照らしている。


 やはり地下で文明が発達していた、という可能性が高い。ということだ、心が熱くなった。


 僕は灯りが示すままに、歩き出す。


 何度も何度も同じ道ばかり歩いてきた僕にとって、この新しい道というのはとてもワクワクした。気分がいい。


 歩けばこつん、こつんと音がする。響く。この先に一体何が待っているのだろう。一歩進むたびに期待が膨らむ。夢がすぐそこにあると思うと足取りも軽やかになっていく。


 しかし、一直線な道のりだ。


 アリの巣のように分かれておらず、ただ長い長い道のりが続いているだけ。


 これまで終わりが分かっていた旅しかしてこなかった僕は、少しづつ不安を覚えていった。


「早く、早くついてくれ」


 そして、得てしまった確かな希望が先ほど安定させた心の振り子を大きく揺らした。


 人に会いたい。


 確かな願いが、僕の胸の中に再来した。


 密閉この言葉を、僕は一瞬だけ呪いのように思ってしまった。


 パンドラの箱に残っていたのは希望ではあるが、箱の中に入っている時点で希望も災いなのだ。








「な……なんだ、ここは?」


 長い長い道のりを越えて、僕の目に映ったのは、目を疑いたくなるような光景だった。


 シンプルにこの長い長い道がただの抜け穴で、別の穴に繋がっていた。と言うのであれば僕がショックを受ければいい話だ。


 目を疑うと言うことは想像すらしなかった出来事に出くわしたときに使う表現だ。僕はこの穴の中に人がいないところまではちゃんと覚悟していた。


 だが目の前に広がる真実は、その想定の斜め上を突き進んだ。


「なんかの研究室みたいな物……かな」


 広い空間に、よくわからない機械が大量に並び、机には大量の本があった。


 でも、この光景、どうも初めて見たような気がしない。


 いつかどこかで、僕はこの場所を見た。


 遠い昔、果てしなく昔、記憶の片隅のさらに奥。


 思い出したくても手が届かない。指をかすめてさらに奥へ行き、そのもどかしさで混乱する。


 外の殺風景とは打って変わって、この地下空間だ。例えるなら冷水をぶっかけられて火で炙られたみたいな混沌。頭がおかしくなるのもわかる。わかってほしい。


 いつこの異質な空間に色々と目をやる。明かりを放つ電子機材などが眼に映るが、僕は何かに吸い寄せられるように、一つの本を手に取った。


 とても厚みある本だ、重量感があり、軽く千を超えるであろうページ数。


 タイトルは……。


「永久の希望……?」









 __________________________

 __________________










 わたしの罪をここに綴る。


 この本は、君たちに希望を与えるものであると同時に、果てしないわたしの目的に巻き込ませてもらう為の本である。


 偶然ここにたどり着いた者、本能がここに来させた者。記憶を発見しここに現れた者。


 誰であろうと、このわたしの長い戦いに巻き込ませてもらうことを許してほしい。


 拒否権はない。ここに来た時点でもうわたしの運命からは逃れることはできない。


 それではこの日記を見ている者に、ここから先の内容を読んでもらおうと思う。だが名を語る必要はあるまい、それに意味はない。


 わたしが君たちに知って欲しいのは、君たちにわたしが与えた絶望と使命。


 そしてわたしの間違いと、願いなのだから。






 ─────────────

 ──────





 見開きの1ページには、そう書かれていた。


「頭が、痛い……」


 そして同時に、直感していた。


 きっとこれを読めば、僕がどうして一人でこんなところにいるのか、きっと分かる。そして多分、自分が何者なのかも分かる。


 なのに、答えがすぐそこにあるというのに、手が伸ばせない。


 ページをめくるその指が重い。


 自分でも何故だか分からないのだ、ただ悪い予感がする。これを読めば、『戻れなくなる』気がしてならない。


 自分が、自分でなくなってしまうかのような。そんな思いが心に宿る。


 何故そう思うのか、何故そんな恐怖を覚えるのか。


 僕は一体何者なんだ。


「……きっとその答えが、ここにあるんだろうな」


 しかしだ、もとより何かに戻ったところで何かがあるわけじゃない。もう僕は前に進むしかないんだ。たとえそれが絶望しかない無駄な旅だとしても、意味の無い行動にはしない。


 鉛のような指を動かして、僕はページを開く。永久の希望の一欠片を、目の当たりにする。









 ─────────────

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