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僕を殺す

作者: aaaa

 電車の中でスマートフォンを操作している人は珍しくない。歩かなくていい状況であれば、連絡が来ていないかとかゲームをしたりニュースを読む人はいるだろう。

 僕もそんな中の一人だ。でも目的は違う。僕は僕を殺したくてスマートフォンを操作している。

スマートフォンでニュースを見たりゲームをすることは余暇を楽しむ手段なのだろう。僕も同じようにニュースを見てゲームをする。でも僕は違う。余暇を楽しむためじゃなく僕を殺すために操作する。

 なぜそれが僕を殺すことになるのか?それは操作する間、僕の頭は考えることを辞めるからだ。

 文字を目で追う間、キャラクターの操作に熱中する間、僕の頭はそのことだけで一杯になる。僕は現在について、過去について、未来について考えるのをやめる。友人関係も忘れて、勉強も、仕事も忘れる。自分の将来について管理することを放棄する。

 僕は将来について考えるのが怖い。夢はある。でもそれが自分の努力によって手に入らないことが何より怖い。努力が、才能が、人生が否定されることが恐ろしい。昔、人間は暗闇に化け物を見出した。今は夜も暗闇が下りず化け物は現れない。だが僕の心には現れる。先の見えない将来の中に、叶うか分からない夢の中に化け物は巣食っている。人の中から不安は、疑いは、恐れは消えない。化け物は消えず、心の中に生まれるようになっただけだ。

 その淀んだ心の中に、夢を見る自分もいる。だが現実では努力を一つもせず、ただ時間を眺めるだけだ。僕はそんな自分が憎い。他人が夢を疑わずに努力するのが羨ましい。妬みもあるかもしれない。だか人の邪魔をすれば僕は本当に死んでしまうだろう。

 何もしない自分を罰するために僕は僕を殺す。ほんとうに死ぬ勇気もない僕を殺す唯一の方法だ。

 僕の姿を見た人は僕を笑うだろう。どうか大いに笑ってほしい。歩けばわかるはずの道を歩こうともせずただ恐れる間抜けを、歩く意思はあるのに足を動かさない阿呆を笑ってほしい。

 そして僕を見て散々笑った後に歩き出してほしい。先になにがあるか分からないのなら確かめるしかないと言って歩いてほしい。

 こんな間抜けは一人でいい。どうか笑ってくれ。どうか歩いてくれ。


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