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第四幕 第七場 オリンピックホテル 二階廊下

 午後十一時。

 階段の下から、遠藤がVHSのビデオテープを持って上がってくる。

 そのまま猪俣の部屋の前に行き、ドアを叩く。

「猪俣さん、これはどういうことなんですか?」

 中からの反応を待つが、何の音沙汰もない。

 もう一度、ドアをノックする。

「猪俣さん?」

 ドアに耳をぴたっとつけて、部屋の中の様子を窺う。

 しばらくそのままの体勢で待つが、やはり反応がない。

 ドアから耳を離し、階段の方を見る。

「猪俣さん」

 大きな声で呼ぶが、反応はない。

「猪俣さん、開けますよ。いいですか?」

 しばらく待つが、反応が返ってこないのを確認し、鍵穴にマスターキーを差し込む。

 恐る恐るドアを開ける。

「猪俣さん?」

 部屋の中に向けて、小さな声で呼びかけた。

 それから遠藤が部屋の中に踏み込んだ瞬間、ドアが閉まる。

 少しの間。

 それからすぐにドアが開き、中から遠藤が泣きそうな顔をして出てくる。

「どうしてそんな」

 首を振り続けている。

「なんで猪俣さんまで」

 そう言うと、すぐに犬飼の部屋に向き直る。

 何も言わずにマスターキーを使い、ドアを開ける。

「ケンタ君」

 部屋の中に向かって、力強く叫んだ。

 しかし反応はない。

 中に入り、ドアが閉まり、しばらく時間が流れる。

「チキショー」

 微かな声が、部屋の中から聞こえた。

 それからドアが開き、中から遠藤が出てくる。

 膝から崩れ落ち、やがては廊下に仰向けになって横たわる。

「どうなってんだよ」

 遠藤は神様にでも訊ねるかのように呟いた。

 時間だけが流れていく。

「おかしいのはどっちだよ?」

 遠藤がときどき呟き、さらに時間が流れる。

 遠藤が突然、笑い出す。

 さらに時間が流れる。

「おまえバカだろう?」

 遠藤の呟きは誰かと会話をしているようだが、そこに遠藤以外の姿はない。

 時間だけが流れる。

「二十代最後の日が、こんな日になるとはな」

 自分の言葉にハッとして、ガバッと起き上がる。

「そうか」

 と言って、大きな口を開けて笑い出すのだった。


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