第二幕 第八場 オリンピックホテル 二階廊下
午前六時。
朝食をトレーに載せて、洋子が階段から上がってくる。
ちょうど同じタイミングで奥の部屋から牛久と優子が出てきた。
「おはようございます」
洋子の挨拶に、二人も挨拶を返した。
「その朝食は、どちらの部屋へ?」
「これはウチの子に食べさせる分なんです」
牛久の問い掛けに、洋子が答えた。
「そうでしたか。ちょうどよかった。それなら僕たちの分も用意してもらってもいいですかね?」
「はい。畏まりました」
牛久の要望に応え、洋子が確認を求める。
「用意ができたら、お部屋までお持ちすればいいんですね?」
「これから私たち朝風呂に行こうかと思って。ええと、だから、どうしたらいいかな?」
優子は牛久に判断を任せた。
牛久が引き継ぐ。
「では、ロビーに二人分の朝食を用意していただけませんか? 七時くらいまでに用意してくれれば助かります」
「はい。承知いたしました」
了解し、洋子がメニューの確認をする。
「朝食は和食と洋食がございますが、どちらになさいますか? 和食は焼き魚に定番の小鉢がついて、洋食は目玉焼きとウインナーにパンとスープがつきます」
「私は和食がいいかな」
即答したのは優子だ。
牛久は悩む。
「僕も和食がいいんだけど、そのスープが美味しそうなんだよな」
「これですか?」
洋子がトレーに載っているコーンスープを見ながら説明する。
「これは美味しいですよ。特製の濃厚なコーンスープで、猪俣さんの自慢の一品です」
「ああ、それにしよう」
牛久が宣伝文句にやられた。
「ああ、私もそれにしようかな?」
今度は優子が悩み出した。
そこで洋子が気を利かせる。
「でしたら、和食にスープをお付けしますよ。ついでにパンもあった方がいいですよね。それでいかがですか?」
優子が微笑む。
「言うことないです」
牛久がすまなそうな顔で懇願する。
「いや、ワガママばっかりで申し訳ありませんが、コーヒーもいただけませんか? できれば冷めないようにポットに入れて、電気で保温できるタイプがあるといいんですが」
洋子が笑顔を見せる。
「よかった。一台だけ残しておいたんです」
「ありがとうございます」
そう言って、牛久が丁寧に頭を下げる。
「呼び止めてしまってすいません。ささ、スープが冷めないうちに、お子さんの元に運んであげてください」
洋子が一礼する。
「それでは失礼いたします」
そこで双方別れるのだった。




