第二幕 第四場 オリンピックホテル 二階廊下
午前二時。
夜更けということもあり、犬飼と遠藤は静かに廊下を歩いている。
そのまま馬渡の部屋の前まで進み、そこで犬飼が遠藤に確認する。
「一緒に調べてくれませんか? ほら、こうして手袋も用意しましたし」
犬飼が手袋を遠藤に渡そうとするが、遠藤は受け取らない。
「結構です。僕はここで待ってますから、犬飼さん一人で調べて下さい」
「……そうですか」
犬飼は残念そうに手袋をズボンのポケットにねじ込む。
遠藤が急かす。
「さぁ、犬飼さんは明日の朝も早いんですから、さっさと終わらせてしまいましょう」
「そうですね」
犬飼は鍵を開けて、一人で馬渡の部屋の中に入った。
遠藤はその様子を入り口からじっと見つめるだけだった。
犬飼が入り口に戻ってくる。
「見たところ、見えるような場所に遺書のようなものはありませんね。ベッドの横にあるメモ用紙も白紙ですし、文字らしきものは一切ありません」
「だったらカバンかバッグの中かもしれない」
指示を受けた犬飼は部屋の中へ戻り、バッグを持って入り口に戻ってくる。
「部屋に入ることに抵抗があるなら、ここで調べればいいわけですよね?」
そう言って、犬飼はニコッとした。
遠藤は仕方ないといった感じだ。
「まぁ、見ているだけなら咎められないだろうからね」
その言葉に頷き、犬飼はバッグの中を確認する。
「財布があると思うんだけど」
遠藤は大事な点を伝えた。
犬飼は手を動かしながら説明する。
「着替えと、他には、洗面道具と、筆記用具はありませんね。あっ、こっちか、ありました。財布です」
遠藤が安堵する。
「よかった。これで泥棒を疑わずに済むね」
犬飼は財布の中を検めながら説明する。
「現金は八千円。それに銀行のカード。免許証はありませんね」
遠藤が犬飼の手元を覗きながら尋ねる。
「学生証は?」
犬飼がカード類を広げる。
「ありません。保険証もありませんね。会員証がありますけど、電話番号が書かれたものは、……ないですね」
遠藤が犬飼の手元を覗き込む。
「レンタルショップの会員カードは札幌の店だから、住所は間違いなさそうだ。といっても、それを確認したところで意味はないんだけどね」
犬飼が財布をバッグに戻す。
「そうですね。特に新しい発見はありませんでしたね。これは、やはり警察が来てから、すべて任せるしかなさそうですね」
「そうだね」
遠藤は同意し、あくびをかみ殺した。
犬飼が微笑む。
「もう休みましょうか」
「その方が良さそうだ」
遠藤は自分の部屋の鍵を手に隣の部屋に移動した。
「おやすみなさいませ」
犬飼が一礼する。
「おやすみなさい」
遠藤も挨拶を返した。




