2.
「……暗黒神…………」
俺は聞かされた名をもう一度呟いた。
リーフと練習をした後、宿に着いたのはすっかり暗くなってからだった。部屋に入った俺を真っ先に出迎えたのは涙目のシエルだった。遅くまで何してただの、心配しただのを聞かされた。
シエルをなだめつつ階下に降り、アイゼンと合流。昨日入手してきた情報を聞かされた所だった。(昨日は夜も遅く、そんな暇無かったため)
「あぁ、そいつは確かにそう言った」
アイゼンは言葉を切って料理を口に運ぶ。この宿屋の料理はレストランでも開けるのではないかというくらい美味い。ちなみに今夜のメニューは以前訪れた港町産の魚を使ってるらしい。
「それより、その“ソイツ”が気になるね」
シエルも続けた。
「怪しいじゃない? そんな男。一体何者?」
「まぁまぁ」
と、俺はシエルをなだめる。どうやら俺が遅くに帰ってきた事にまだ気が立ってるらしい。
「その“ネザー教団”ってのも気になるな」
「あぁ」「えぇ」
俺の言葉に二人が頷く。
しばらく料理を口に運ぶ音と店内の喧騒のみになる。しかし唐突にシエルが俺の名を呼んだ。
「ねぇ。リアン」
「ん? 何?」
「どうして今日こんな遅かったの?」
俺は思わず料理を運ぶフォークを止めてしまった。
「いやですね、ちょっと魔法術の練習をちょっと……ってシエルさん? なんで涙目に? さっきも同じような事があったような……」
シエルは目にうっすらと涙を浮かべ、俯いてしまった。それを横から見てたアイゼンがニヤニヤ笑いを止めない。
「えっと……あの……遅くなってスイマセンでした」
俺はシエルに頭を下げた。
「今度からは早く帰ってきます」
するとシエルが顔を上げた。目のあたりが赤くなっている。
「泣いちゃってごめんね。本当に心配したんだから」
「……シエル……………」
俺とシエルがなんとか仲直り(?)に落ち着きそうになった瞬間。
「ヒュ〜お二人さんお熱いねぇ〜」
俺とシエルは声の方を見た。アイゼンは周りに聞こえるくらいわざと大きな声で冷やかしたのだった。
それを聞いた野次馬共、冷やかし屋、等などが周りに集まってくる。
「なに? こんな大衆の面前で?」
「妬かせるねぇ」
いろんな奴のいろんな言葉(冷やかし)が飛び交う。
「は? 何言ってんだよお前ぇら。おい!! アイゼン!!」
俺の抵抗虚しく、周りの視線は続く。俺はシエルをチラッと見やると赤面したシエルがそこにいた。
「え、ちょっと、どういう?」
シエルを見た周りの冷やかし屋はこれをガチだと悟ったらしく、空気を読んで散った。
「なんでもないもん!!」
シエルは俺に向け言い放ち、プイっとそっぽを向いてしまった。
俺は周囲からのジトっとした視線に晒され続ける。そして全ての元凶たるあの男はニヤニヤ笑いを崩さなかった。
アイゼンが悪役のようになってしまいましたが、普段の彼はこんな感じです。(戦闘とかならめっちゃカッコイイよ~)