1.
――アルバート王立魔法術学院――
現国王――アルバート・ラグス・ディメンティによって建てられた学校。八歳からの入学を許可しており、毎年数多くの願書が寄せられる。勿論試験があり、かなり厳しめの座学筆記試験となっている。
アルバート王立魔法術学院は一学年内の成績順位を作る。
ここは魔法術学校だ、成績内容は魔法術の練度が主である。次いで、座学筆記の能力――もっとも、こちらはあまり重点が置かれてないが。
そんな魔法術学院の玄関をくぐった少年は廊下に貼りだされた大きな紙を見て肩を落とし、大きな溜め息を一つ。
「今年もこの時期がやってきたな。どうせビリなんだろうな」
整った顔立ち、優しそうな碧い瞳、流れるような金髪は先端の方でクルリと巻く。
一見おとなしく見える彼の物腰は性格をそのまま映し出していた。
少年の名はリーフ・トロンベ。農民の出だが座学が優秀で入学できた。しかし入学後の授業の魔法術の実習についていけず、学年ビリに……
「みんな上手く行くのになぁ。どうして僕だけ」
大きな張り紙。一番下に『リーフ・トロンベ』の名前が記されていた。
「やっぱりかぁ……」
彼は再度肩を落とす。
「二百五十人中、四十三位の俺に座学教えてるんだ、誇れって!」
「そうよ。魔法術だけが成績じゃないわ」
クラスメートに背中を叩かれたり、髪をクシャクシャにされたりとモミクチャにされた。
みんなの優しさが少し嬉しかった。
「はぁ」
街を歩きながら溜め息を吐く。
放課後はいつもクラスメートと喋ったりして帰るが、今日はそんな気分になれず一人でいつもとは違う帰り道を歩いていた。
「もう最終学年なんだよなぁ」
悪い成績で卒業したら経歴に汚点が付く。リーフは母に言われた事を思い出し、また溜め息。
色々思考していたため気付くのが遅れた。どこからか唸り声が聞こえてくる。隣の公園の方だった。
「なんだろ?」
恐る恐る覗いてみると、右手を開いて前に突き出し何か式句のような物を唱えてるのは黒髪の少年だった。
(これは…………火属性の式句!?)
少年は式句を全て詠唱し終えた後、カッと目を見開いた。
しかし、少年の手の平から出たのは、プスンと頼りない音を漏らした黒い煙だった。
「だぁ!! 〜〜やめだやめだ」
術式の不発を起こした少年は両手を広げ、地面(芝)に身を投げ出した。
魔法術が上手くいかない所を自分と重ねてしまい、思わず声を掛けてしまっていた。
「術式のイメージが確立されて無いからだと思うよ。発動時、発動後を強く意識して式句を組み立ててみて」
少年は声のした方を見やった。
「君は?」
「あ、差し出がましい事言ってごめん。僕はリーフ・トロンベ」
少年はすぐに優しそうな笑顔を作った。
「俺はリアン。リアン・ディールだ。よろしく」
リアンと名乗った少年は立ち上がってリーフに手を差し伸べた。
「う、うん」
リーフもしっかり握り返した。
「とにかく、イメージすればいいんだな?」
「えっと、術式の発動時と発動後を強くイメージだよ」
「分かった」
リアンは右手を突き出し、式句を唱えた。
「駄ぁ目だぁ」
右手から出たのはまたしても黒煙。もしかしてリーフと同じく、魔法術の適正が無いのだろうか。
「なぁリーフ」
突然名前を呼ばれ、ビクッとした。
「な、なに?」
「駄目だった所を教えてくれ。今のなんかいい感じだった気がする」
最後のあたりは苦笑気味に笑った。
この少年は全然諦めていなかった。自分に足りないのはこんな部分じゃないかと少し思った。
「分かった」
二人の少年は日が暮れるまで練習を続けた。
視点が違いますが、主人公は変わったりしませんのでご安心を。