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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
間章
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間章

 ラグス王国―王都―


 その都は数多くの歴史を積み重ねてきた。内乱、盗賊団による大襲撃等、負の歴史の他に、貿易商の発展、商業の自由化、国民の意見を取り入れた政治等、長い歴史を刻んできた古都。

 そんな街の宿屋でシエル・ラーグナーは一人の少年を待たせていた。


「あぁ、無い!!」

 あたふたと鞄の中の荷物を探る。財布が無いのだ。

「どうしよう、落としたかな」

 探す。鞄の中やベッドの下。引き出しの中も探す――しかし何処にも無い。

 シエルのそんな様子を見かねた少年は頭を掻きながら、

「もういいよ、今日は俺が持つから」

「でもぉ」

 シエルは少年の顔を申し訳無さそうに見た。しかし黒髪の少年は笑いながらシエルに言った。

「いいって、いいって。ほら早くしないと時間無くなっちゃうぞ」

 少年に促されるままシエルは宿を出た。



 街はざわざわと喧騒に包まれていた。ゆったりと歩く者もいれば、急ぎ足で走り去ってしまう者まで様々だ。大通りに出店している店も様々で、喫茶店やレストラン等、洒落た店から、骨董品等を取り扱う怪しい店が軒を連ねる。

そんな中の一つ、古い武器露店でシエルは足を止めた。

 店のシートに並んだ一つの短剣がシエルの目線を釘付けにさせた。


「欲しいの?」

 横から黒髪の少年――リアン・ディールに声を掛けられる。シエルはそくざに首を横に振る。

「別に……」

 シエルは踵を返し、先に進む。

「そういえば、シエル。お前、獲物無いよな」

 リアンに言われ、シエルはドキリとした。思わず足が止まる。

「おっちゃんこれ幾ら?」

 振り向いた時にはもう、リアンが交渉に移っていた。

「ちょ、自分で買うって」

 言ってシエルは腰のポーチに手を伸ばして思い出す。お財布、失くしたんだった。


「五万セルだよ」

「うげ!!」

 値段を聞いたリアンは財布を確認、呻き声を漏らした。

「(ギリギリじゃねぇか)」

 リアンの声は隣に居たシエルにやっと届く大きさだった。武器を並べたシートに自分も座るおっちゃんがリアンを見上げ帽子のツバを上げた。そこから覗けるおっちゃんの顔はからかうような笑みが満ちている。

「彼女にプレゼントかい?」

「「えっ?」」

 シエルとリアンはお互いに顔を真っ赤に染めた。

「そ、そんな関係じゃ無いっすよ」

 リアンは慌てて否定する。そんな姿が可愛くて、思わずからかいたくなってしまう。

「そんな関係って、私じゃダメだっていうの?」

「えっ!? シエル? いや、そういうわけじゃ……」

 黒髪の少年は顔を赤くしながら、これでもかというくらいアワワと慌てている。そんな姿がおもしろくて、クスッと笑ってしまう。

 武器露店のおっちゃんは豪快に笑い、

「ほら、嬢ちゃん泣かしちゃいかんぞ、涙を飲んで七割引きしてやるから喜ばしてやれ」

「ぇえっ!! いいんですか!?」

 リアンは驚愕に目を見開く。おっちゃんはニカッと笑った。

「いいって。面白いものも見れたしな。仲良くしろよ」

 値引きしてもらい一万五千セルで買ってもらった。短剣はシンプルなデザインで、白い刃は太陽の光を照り返し、純白の眩い光を放っていた。



 王都のとある酒場。むさ苦しい男共がテーブル席で昼間からどんちゃん騒ぎを楽しむ中、カウンター席の隅っこで色々な人に話を聞く青年が一人。名はアイゼン・グリッダ。長い剣と巨大な盾を背負う騎士風スタイルだ。

「そいつは災難だったな。で、その後そいつらはどうなったんだよ?」

 マスターが――この店ではオヤジのイメージが強いが自分で言い張る――身を乗り出す。

「驚く事に、てめぇで、てめぇの胸を突き刺しやがったんだ。いやぁめちゃくちゃビビったぜ」

「へぇ〜そんな事がぁ、ねぇ」

 マスターは顎に手を置き考えるが、すぐに反対側のカウンターから注文が入った。

「ポロン酒一つ!!」

「あいよ!!」

 マスターはそそくさと厨房の酒樽へ向かう。

「手がかりは、無し。か」

 アイゼンはカウンター越しの男が頼んだものと同じ、ポロン酒――程よい甘味と、それほど高くないアルコール濃度がアイゼンの好み――の入ったコップを弄ぶ。唐突に隣から声が投げられた。

「そいつらなら知ってるぞ」

 ボソっと聞き取りづらい声量で隣に座る男が呟いた。

 男は無精髭をたくわえ、髪もボサボサ。だが異様な威圧感を醸し出していた。布地の白いシャツを着ている。歳は三十代前半くらいだろうか。

「本当に知ってるのか!?」

 アイゼンは男の顔を覗きこんだ。男は彼に目も向けずタバコを吹かす。

「奴らはネザー教団。ここ数日この国で活動している異教徒だ。伝承に出てくる魔王だの、暗黒神だのを崇拝している」

「あんた、一体?」

 アイゼンは話の内容よりも、暗黒神とやらを知っているこの男について知りたくなった。

「なぁに、ただのタバコ好きのおじさんだよ」

 男は自嘲的なセリフを残して席を立った。

 残されたアイゼンはコップに注がれたポロン酒の水面に映る波紋をワケもなく見つめていた。

書きたかった物を書きました。

後への微妙な伏線を入れてみました。

次回は急展開!?

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