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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
終章~三人の英雄たち~
49/50

9.

 大きな扉が開き、俺たちは血みどろの空間へ足を踏み入れる。

 鼻を刺すのは、鉄のような異臭と肉体が腐った臭い。

 思わず顔をしかめるくらいだった。


「とうとう、ここまで」

 幼さの残る少年の声だった。

「君がリアン・ディール。その横にいるのがシエル・ラーグナー、アイゼン・グリッダ」

 声の主はふわりと空中を降下してきた。降下している間も口を動かす。

「その様子だとそこのゼノを倒した様子だね」

 黒っぽいローブに身を包み、その右手には巨大な杖を持つ。緑がかった白髪は短く切り揃えられている。そしてその口元には歪んだ笑み。その瞳はライトグリーンの色を宿しており、瞳の奥に笑みの色をたたえている。

 声の主はトンと小さな音を立て、静かに着地した。

「君たちを殺せばこの戦いに勝利する事になるね」

 続いた言葉に俺たち全員が衝撃を受ける。

「見るかい?」

 ローブの少年は左手を振るう。それだけの動作で遠隔視の窓が三つ開いた。詠唱も無しに高難度術式の遠隔視を三つ開いた。それだけで高位の術者であると容易に想像出来る。

「君たちの他にここに辿り着けるのは三人の軍団長くらいだろうけど……見て」

 映った光景に俺たちは驚愕の色を隠せなかった。

 窓に映る一人は巨大召喚獣と限界の戦闘を続ける。

 一人は左足を失い、仲間に守られながら生きている。

 一人は口の端から血を流しながらも、意識の集中を途切れさせない。


「これは!?」

 アイゼンの口から思わず驚きの言葉が漏れる。ローブの少年は両手を大きく広げ高々と笑い、続けた。

「そうさ、僕の召喚獣さ。魔導兵だけじゃ心もとないからね。僕の召喚獣に今頃悪戦苦闘しているところだろうさ」

 窓は消える。同時にローブの少年は脇の闇を見つめ、何かを呼ぶ。


「はい」

 出てきたのはメイド姿の女性だった。女性は目を伏せ指示を待っている。

「見ていろ、僕が開発した闇の術式だ」

 俺たちに向かい、笑いかけた後、左手を女性に向ける。

 女性は目を見開き左胸を抑え、悶える。

 ローブの少年は段々と開かれた指を閉じる。

 その閉じていく度合いと比例して、女性の苦しみ悶える様子が激しさを増す。

「一体、何を?」

 眼前の光景はまさに奇妙だった。

 左手をかざしただけで苦しむ女性。


 ローブの少年の指が完全に閉じ、拳を作った。

 ぐちゃりと何かが潰れる音を最後に、女性は倒れ動き出す事は無かった。

「指定した座標ポイントを不可視の力で潰すんだけど、ちょっと反則的かな?」

 苦笑混じりに言うと、ローブの少年は左手をシエルに向ける。その顔には薄い笑みが張り付いていた。


「次はお嬢さんだ」

 何かが俺の横を通り過ぎた。俺の中の感覚的な何かが危険だと叫んでいる。

「ぅ……ぐ……」

 シエルは胸を抑え、屈みこむ。


「やめろ!!」

 俺の左手が勝手に動く。俺の意思を受けた左腕が“動かす”という命令より先に振るわれた。

 俺の左手に収まる黄金の剣が輝きを増す。


 バギンと何かが壊れる音が響いた。

 シエルの顔から苦しみが消え、ローブの少年の顔からは笑みが消える。

「ゼノと戦った事で得た聖剣か。再臨伝説だっけ?」

 ローブの少年は杖を掲げ、何か呟く。


「これで、召喚獣に割いた魔法力マナは僕に集約する。安心していいよ。この城に結界を張った。もう誰も入れない。誰も邪魔出来ないよ」

 俺は聖剣の剣先をローブの少年に向ける。


「じゃあ、終わらせようぜ。この戦いを」

「いいだろう。君たちが死ぬ前に教えてあげるよ。僕の名前を」

 ローブの少年は僅かに瞑目し、告げた。

「ラーガ……なんて呼ばれているけど、僕の本当の名前はレイス。レイス・シュトリーネン」 

 レイスと名乗った黒のローブの少年は杖を構えた。





「なんだ?」

 王国軍軍団長マグナ・ザクロフは異変を目の当たりにし、当然の感想を漏らす。

「召喚獣たちが消えて…………」

 隣で戦っていた兵士も同様の感想を口からこぼす。

「見ろ!!」

 兵士の一人が指差した方向を見て、マグナは驚きをあらわにする。

 その方向は城のある方。その城のてっぺんからは巨樹が伸び、大空を蝕んでいる。その根本。

 そこにはドーム状の巨大な虹色の膜。城を全方位囲み、万人の侵入を許さない膜の壁が広がっていた。

「クソッ!!」

 マグナは歯噛みする。血が滲むほど拳を強く握る。

(弄ばれていたのか)

 あんなものを使えば召喚獣や紫鎧など使わなくても良かった。最初からあの結界を使えば、手を出せずに敗北していただろう。


「一時撤退!!」

 マグナは結論を出し、指示として叫ぶ。

 敵は居ない。しかしこのまま城の近くにいると大樹の枝からの電撃を受けるため、撤退する指示を出した。

 兵はぞろぞろと自陣へ帰る。

 マグナは一度だけ、視線を城に向けた。

(潜り込んでいるのなら、頼む。世界を救ってくれ)

 とある三人の若者たちを含めた十二人の精鋭の顔を思い浮かべたがすぐに視線を自陣に戻した。





 バチバチと音を立て、黄色の閃光が収束する。

 直後、それは放たれシエルとリアンが立っていた地点を襲う。

 シエルとリアンはすぐさま飛び退き、それを回避。


「おおいなる大海の怒りに触れた愚か者よ、波に呑まれ撃滅せよ」


 巨大な水の奔流がシエルの足元から飛び出し、レイスを襲う。

 水が通り過ぎた後。そこに残るのは黄土色の壁。

 壁はボロボロと崩れ、そこに無傷のレイスの姿。

「ぅおおおおおおおおおおおお」

 アイゼンの咆哮が空間を反響しする。アイゼンは巨樹の巨大な枝から跳び下りて斬撃を繰り出す。

 レイスはそれを杖で受け、左手をかざす。

「が、ぁあ」

 アイゼンが目を見開き苦痛に顔を歪ませるが、その剣戟の威力は衰えない。

「ぁぁぁああああああああ」

 アイゼンは気合いで杖を押しのける。

 そこにリアンが駆け、右手に握る愛剣を振るう。

「くらぇええええええ!!」

 アイゼンが作った好機。渾身の一撃。

 リアンが振るった斬撃はレイスの胴に深々と食い込む。


「ぐ、ふぁ……」

 レイスは大きく血を吐き出した。

 数歩後ずさり、右脇腹の傷を抑える。

「中々………やる……ね。そろそろ僕も……本気…………出そうかな?」

 言うとレイスは杖を構えた。




「大地を焼く業火、何者も飲み込む激流、雷鳴轟くいかずち、万物を切り裂く烈風、全てを叩き潰す大地の力を我の闇でまとめる。この肉体よ、変化へんげし鬼神と化せ!!」


 杖は赤、青、黄、茶、緑、紫の色の光をめまぐるしく変える。

 その光はやがてレイスの全身に広がり、赤黒い肉塊を形作る。

 むくむくとその肉塊は膨張を続け、人の数倍の大きさまで膨れ上がる。

 やがて肉塊は人の上半身の形になり段々と輪郭を鮮明にする。

「………………鬼?」

 シエルは戦慄した。目の前に出現した存在は初めて見るが、明らかに悪気を帯びていた。

「この空間は狭いからこんなモノか。ホントなら下半身も作る予定だったけど、まぁ十分か」

 レイスの声は幼さをかなぐり捨て、まさに悪鬼のものとなっていた。

 巨大な腕は人の数十倍も太く、全てを叩き潰すかのよう。顔の造形はまさに悪鬼そのもの。目は四対、計八個。それぞれがおどろおどろしい黄緑の光を発している。鼻は潰れていて穴だけ開いた状態。口は常に半開きで、そこからしゅうしゅうと息遣いが聞こえ、シエルは背筋に鳥肌が立つ。


 シエルはもう一度先ほどの式句を詠唱。再度術式を放つ。

 水の奔流は悪鬼が腕を振るうと弾かれるように消えてしまう。

「どうしたら…………」

 リアンは右手の愛剣を鞘に戻し、両手で聖剣の柄を握る。


「あとは、頼む」

 リアンは一言残し、駆け出した。

 追いすがろうとしたが、彼はシエルたちの反論は聞かない様子だ。

(駄目。絶対無事で……)

 シエルは強く願った。





 俺は聖剣を握る両手に力を込める。

(力を貸せ!! 神器。俺に悪鬼を祓えるだけの力を!!)

 願った、直後。黄金の聖剣の輝きが更に増した。

(これは!?)

 空間自体が赤い光を照らし返す。

 張り巡らせられた枝々に赤い炎が所々に見える。

 視線を両肩の後ろに移す。

 そこからは巨大な三対の赤い炎の翼。恐らく聖剣から流れ出る膨大な量の魔法力マナが俺の体を通して可視化され、にじみ出ているモノだろう。


 俺は体が軽くなるように感じ、トンと地面を蹴る。

 ふわりと体が浮かび上がり、悪鬼の顔と同じ高さになる。

 顔を下に向け、シエルたちを見る。不安気な表情だった。

 俺は一つの笑みを送り、視線を悪鬼に戻した。腕が振るわれる直前だった。

 俺は右手の聖剣を一閃させ悪鬼の腕を薙ぐ。

「これで本当に終わりだ。お前の野望もここまでだ……」

 俺は静かに告げ、聖剣を悪鬼の眉間に向ける。

「最初で最後の仕事だ、神器!! 目の前の魔を貫け!!」

 叫んだ直後、聖剣から真っ白の光の奔流が悪鬼に注がれた。

 爆音が響く。

 とてつもない総量の純白の魔法力マナが悪鬼に降り注ぐ。


 閃光。のちに爆発。



 悪鬼は完全に姿を消した。残ったのは野望に駆られた一人の少年。

 炎の翼は完全に消失し、俺は慣性のまま床にめがけて落下する。

 このままでは地面と強く激突する。この高さだ落ちたらひとたまりもないだろう。

 僅かな浮遊感の後、速度を上げながら落ちる感覚。

「こんな世界も悪くなかった」

 人生の幕切れとしては相応しいのではないだろうか。

 人類を救っての戦死である。


 俺は瞑目し、静かにその時を待った。




 しかし地面とぶつかる衝撃はこなかった。

「もう、心配かけて――」

 その声の主を俺は知っている。

 俺はその声の主を深く愛し、守りたいと思った存在。

 俺はゆっくり目を開き、抱き止めてくれた少女を確認する。確認するまでもなく分かっていたが目を開かざるにはいられなかった。

「……シエル………………」

 俺はその少女の名前を呼び、少女の頬に手を添える。その頬はうっすらと、少し濡れていた。

「………リアン!!」

 少女はたまらず叫び、その瞳から大粒の涙を零した。その雫が俺の頬に落ち、ゆっくりと伝って落ちる。


 視線を移すと、青年が仕方ないといった笑みを浮かべていた。

 俺は誰よりも大事に思う二人に笑顔で告げた。


「ただいま――――」

いよいよ完結です。今までありがとうございました!!

リアンたちの冒険譚はいかがでしたでしょうか。

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