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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
終章~三人の英雄たち~
47/50

8.

 押し寄せる敵を捌き、スレイは歯噛みする。

 このままではいずれ体力が尽きて倒れてしまう。

(この戦いはいつまで続く?)

 答えの無い問いを胸に秘め、得物を振るう。


 突然、凛とした悲鳴が響いた。

 スレイは視線を移し、愕然とする。

 命を救ってくれた恩人、女性の傭兵が倒れ紫鎧の白刃の元に晒されている。女性のナイフは地面に転がっており、弾かれた事が容易に想像出来る。



 ゴブリンの蛮刀が振り下ろされる。

 スレイの体は考えるより先に動いた。

 蛮刀が女性傭兵を斬り刻む寸前、その刃は止まった。

 彼女が目を開けると、名も知らない兵士が体を張って刃を止めていた。

「すまねぇな、アンナ。俺、馬鹿やらかした。お前の元には帰れなさそうだ」

 名も知らぬ兵士はニヤリと笑い、倒れる。

 彼の背中からは決して少なくない量の血が溢れている。

 女性傭兵は両手をかざし、目を細める。

 数秒ののち紫鎧は爆散した。

 すぐに視線を名も知らぬ兵士に戻す。

(酷い流血。いまのあたしにはこの傷は)

 背中の装甲は斬り裂かれ、背中の左側を傷が走る。

 ピンクや赤黒い臓器が露出し、周りからは大量の鉄臭い赤い液体がドロドロと溢れ出る。

 むごたらしい惨状を目にし続けられず、思わず目を背けてしまう。

「お前は、生きて……くれ。俺の分も……な」

 差し出された手をしっかりと握り、涙が彼の手の甲に落ちる。

 名も知らない兵士の手の力が抜ける。どんどん冷たくなる手を握りしめていたかったが、敵はそうさせない。

 彼女はボウガンの弦を引き、矢をかけ、射出する。

 高速で射出された矢は迫るコボルトの頭部を正確に貫き、コボルトは仰向けに倒れた。

 彼女は目尻に溜まった涙を拭い、背中を名も知らぬ兵士に向ける。

「この戦いが終わるまであんたを守りぬく」

 治癒術を扱えない彼女に出来る最善の弔いだった。





 少女は駆ける。生い茂る密林を青年と共に疾走する。

 枝で頬を切っても構わず走る。

(リアン、すぐに行くから)

 少女は駆ける。金髪の青年と共に、幾度の冒険を重ねた仲間の元へと突き進む。





 モウリョウコウは薙刀を振るい、群がる敵兵を一掃するが疲労の色は隠せない。肩で息をし、四肢はダルそうに垂れ下がる。

 一騎当千の獅子もこの連戦だ。常に個対多を続ければ必然疲労も溜まるし、限界も来る。

「ぐぅぅぁぁあああああああ」

 猛令甲は咆哮し、薙刀を一閃。

 漏れてきたキュクロプスを一撃で屠った。

「まだまだぁぁあああ」

 構わず、薙刀を振るい続ける。

 孤軍奮闘。

 そんな言葉が一番似合う戦い方だった。

 近づく者は容赦なく斬り捨て、全てを屠る。

 故に味方には近づくなと指示してある。


 前方の敵を殲滅した直後、左膝を鈍い痛みが襲い体勢を崩して左に倒れた。

(何!?)

 思考が追いつかなかった。

 左足を見ると、そこにあるべき足は無かった。

 意識してしまい、壮絶な痛みが伝わる。

「ぐ、おぉ」

 思わず左足を抑え、悶えてしまう。

 そこにゴブリンやコボルト、スカルウォーリアが数体迫る。

(ここまで……か……)

 猛令甲は目を伏せ、死の瞬間を待った。


 しかし、一向にその瞬間は訪れない。

「猛さんは死なせませんよ!!」

 近くで声がした。

 若者の声だった。

 苦痛に歪む目を見開き、若い兵士の存在を確認する。

 兵士は数人。一人はコブリンと鍔迫り合い、一人はスカルウォーリアをハンマーで粉砕し、一人は猛令甲を見つめている。

「猛さんは帝国の希望、俺らの希望ですから。一人で野垂れ死んじゃかないませんぜ」

 兵士はニカッと笑い、コボルドに斬りかかる。

(良い部下を持ったな)

 僅かに目尻に涙を溜め、兵士なかまたちの勇士を見上げた。






 煉獄へと続くかのような通路を走る。

 脇に灯された紫の炎を風で揺らしながらシエルは走る。

「こんなに反響してるのに、誰も追って来ねぇな」

 アイゼンが周囲をキョロキョロと見ながら言う。いささか緊張感の欠けた声音だが彼の目は真剣そのものの色をたたえている。

「どうやら、音には反応しないみたい。視界に入らない限り大丈夫」

「つっても、奴らがどこで見てるかも分からないけどな」

 苦笑混じりにアイゼンが告げた直後。巨大な爆音。

「なにが!?」

 シエルは立ち止まるが、その音源がこの奥の通路にあると分かった。

「行ってみようぜ」

 アイゼンに促され、彼女らは駆け出す。



 黒髪の少年は戦闘に魅せられた者を退け、一本の黄金の剣と向き合っていた。

「これは?」

 まるで伝承に出てくる聖剣のような造形だ。

「まさか!?」

 しかし本当に聖剣ならば、強大な力を得る事が出来る。この争いを止められるだけの力を。

 少年は両腕を伸ばして聖剣の柄を握り力を込める。

「抜、け……ろ………………」

 しかし聖剣は深く突き刺さりビクともしない。

 駄目か。

 諦めかけたその時、少年の手を優しく包む手が二つ。


 一つは無骨だが優しさを併せ持つ男の手。


 もう一つは細く華奢だが全てを包み込む愛に溢れた女性の手。


 少年は後ろを振り向かずともそれが誰のものなのか分かった。

 少年と後ろに立つ二人は合図も無しに、六本の手に力を込める。


 固く凍ったかのように微動だにしなかった聖剣はいとも容易く抜けた。

 少年と二人は勢い余り、尻もちをつく。

 少年はここで初めて振り返る。

 笑顔で応じたのは濃い紺色の髪の少女。

 不敵な笑みで少年の視線を受け止めたのは金色の短髪を持つ青年。


 三人の英雄たちは立ち上がる。全ての元凶を倒す為、この無益な争いを止める為。


 最後の扉は開かれた。

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