7.
眼前の敵を屠り周辺の状況を確認する。
スレイ・リャッカは無我夢中で得物を振るう。
生き残る為、周りの仲間を守る為。
「危ない!!」
騒乱の中、凛とした女性の声が響く。スレイは咄嗟に後ろを確認した。
リザードマンの持つ蛮刀が迫る。
しかしその刃がスレイを切り刻む事は無かった。
リザードマンはその脳天から青い血を吹き出し倒れ、無数の粒子となって消えた。そこに残ったのは一本の矢。
「気をつけて」
声の方を見ると、一人の女性がしゃがんでボウガンを構えていた。
女性はウィンクをすると、迫るゴブリンの刃をナイフでいなす。
服装からしてフリーの傭兵のようだった。
「ありがとう」
聞いていないかもしれないが感謝の言葉を口にし、新たな敵に刃を向ける。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ―――――」
隣で聞こえている息遣いが途絶え、ドサリと倒れる音が聞こえた。
見るとローブ姿の男が疲労に色を出し、力無く倒れている。
「そろそろ限界が近いな」
男が運ばれた方へ視線を移すと、同様に倒れた者たちが十数余名。
周りでは詠唱の声が響き渡る。
コット・ルーチンは視線を戦場へ戻す。
(速く争いを終わらせてくれ、マグナ、猛)
心中で願いを叫ぶ。その思いは両者に伝わらない。
単眼のサイクロプスは巨大な棍棒を振るう。集まった兵が吹き飛ばされる。
数多の兵の悲鳴、絶叫、雄叫び、咆哮がマグナの耳に入る。
マグナは大剣を振るい、キュクロプスの足を斬り飛ばす。
キュクロプスは左に倒れた。すぐさま兵が迫り頭部を叩く。
キュクロプスは消えた。しかし新たに巨大蜘蛛が出現する。
(敵の魔法力は文字通り無尽蔵か!?)
内心嘆き、巨大蜘蛛へ駆ける。
リーフ・トロンベは黄土色の岩石戦士の鉄槌を横に転がる事で避け、術式をぶつける。
ゴーレムは風の切断魔法術を受け、上半身を落とす。
「あと、一体!!」
振り向くと、そこには迫ってくる岩の拳。
「ッ!?」
反射的に両腕を交差し守る体勢を作るが、そんなもの気休めにもならない。
その拳がリーフの腕にぶつかる寸前、けたたましい金属音が響く。
「ギリギリじゃねぇか、危ねえ」
兜で顔を覆っていた為顔は伺えなかったが、その声音は中年の男のものだった。
男は剣で拳を受け止め、拮抗しあっている。
「小僧!!速く、術式を組み立てろ!!おやっさんにはもう、何かを撃てる程の魔法力は残っちゃいない」
リーフは杖をクルクルと回し円を描いている。男の声に応え、詠唱を開始した。
「風を司る天使よ、今、全てを切断する風の刃を形成する力を僕にあたえてください」
杖が描く円の中心に緑の光点が生まれる。リーフは構わず詠唱を続ける。
「今僕が扱える量の天使の力を術式に注入。更に威力を上げる為残りの魔法力を術式に注入」
緑の光点は更に輝きを増す。
岩石兵が左の拳を使い、名も知らない兵士を殴り飛ばす。
「っがぁ」
大きく飛ばされ、男は転がる。その男は痛みに悶絶し、地面を転がる。
「速く!!撃てぇ!!」
視線をゴーレムに戻す。
ゴーレムは顔をリーフに向け姿勢を戻す。
リーフは構わず詠唱を続ける。
「風の刃を形成、力の内包を確認。大地を駆ける大いなる風よ全てを貫き、全てを壊せ!!」
叫んだ。杖を振るい、緑の光球は風の刃となりゴーレムに迫る。
ゴーレムは両腕を交差する。しかし風の刃は軽々と腕を切断し、ゴーレムの上半身を吹き飛ばす。
残された岩石兵の下半身は力無く倒れる。
力が入らない。倒れた頭の視線の先で、中年の兵士がサムズアップのサインを決めている。
リーフは笑った。そして、意識が遠のく。
(リアン、頼んだよ。こんな争いを止めてくれ)
リーフの意識はプツリと切れた。
目が覚めた。そこは争いの跡が残る、静かな所だった。
「ここ・・・・は?」
シエルは体を起こし、周辺を確認する。
眼前に広がっていたのは少なくない量の血。どうやら密剣は去ったようだ。
(死んでないといいな)
未だ朦朧とする意識を奮い立たせ、立ち上がる。
「リアンは?みんなは?」
周囲を確認するが、物音一つしなかった。
巨樹に向けて歩を進める。
すると、倒れている人が。
見紛う筈も無かった。
「アイゼン!?」
駆け寄り、生死を確認する。
(生きてる)
気絶しただけのようだが、腕の損傷が酷い。
ホッとしたが、すぐに意識を切り替えた。
「海の力を利用する。命を生み出した母なる海。色は青、属性は水。命を生み出す原理を用いて傷を癒せ!!」
シエルは両腕をアイゼンの右腕にかざす。
少しの時間を経てアイゼンの右腕の治癒が終わり、彼が目を覚ます。
「あ、れぇ?腕が・・痛く・・・・無い?」
アイゼンは薄く笑い、シエルを見上げた。
「お前さんか、サンキュな」
アイゼンは左手で剣を鞘に戻し、右拳を強く握る。
「行こうか、アイツの元へ、アイツの戦場へ」
シエルはコクリと小さく頷いた。




