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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
終章~三人の英雄たち~
44/50

5.

 独り。

 

 俺は生い茂る密林を独り、駆けていた。

 敵の気配が無かった。俺は剣を鞘に戻す。

(城までは、あと少しか。五分もいらないな)

 はやる気持ちから、走る速度を速めた。

 曇天の空に黒い枝が触手のように蝕んでいる光景を歯を噛み締め見上げた。



 瞬剣は得物を鞘に戻す。

「どういうつもりだ」

 アイゼンは問いかけを漏らす。長剣を握るその手に油断は無く、依然強く握りしめられていた。

「極東には“抜刀術”というものがあってだな、俺の異名にピッタリだと思ったわけだよ」

 瞬剣は腰を落とし鞘を左手で抑え、右手は“カタナ”の柄にあてがわれている。

「俺の間合いに一歩入ったら最後、真っ二つにしてやんよ」

 アイゼンは長剣を引き、盾を前に突き出して告げた。

「なら、魔法術がある。と言えば貴殿に失礼だな。腐っても騎士だろう」

 瞬剣は薄い笑みを浮かべ僅かに瞑目し、カッと見開く。そして勝負の一言が口から漏れた。

「いざ、尋常に」


 目つきが一変する。騎士の顔だ。その瞳の奥に揺れるのは、どんな感情なのだろうか。アイゼンには読み取る事が出来なかったが、強い感情だと云うのは認識出来た。


「「勝負!!」」


 アイゼンと、瞬剣は同時に叫んだ。

 勝敗は刹那のうちに決まった。


 アイゼンは戦闘民族としての本能をむき出しに、瞬剣の間合いに飛び込む。

 瞬剣はアイゼンの飛び込みに合わせてカタナを鞘走らせる。



 両者は交差し、動かなかった。

 アイゼンは長剣を突き出した姿勢で、瞬剣はカタナを振り抜いたままの姿勢で固まった。


 勝負はついていた。


 瞬剣は倒れ伏した。

 右腹部に深い損傷を負い、斬撃の衝撃と出血多量で意識を失ったようだった。

 アイゼンも無傷では無かった。右手首と肩の関節は砕け、肋骨も数本折れていた。


 アイゼンは近くの木にもたれかかり座り込んだ。

(峰打ちかよ、これじゃ完全に俺の方が悪者みてぇじゃねぇか)

 アイゼンは得物を地面に置き、左手を瞬剣に向けた。

「(母なる海。生命を作りし現象を利用、対象の傷をいやしやがれ)」

 小声で式句を唱える。

 すると、瞬剣の傷から止めどなく流れていた朱い液体が止まった。

「俺は止血ぐらいが限界なんだ。まぁ、勘弁してくれや」

 アイゼンは小さく微笑み、天を仰ぐ。

 木々の葉の間から覗けるのは曇天を侵食する黒の触手。


 触手のような枝々に蓄積していた電撃が墜ちる。

 それは遥か彼方に墜ちた。

 こればかりは人が居なかった事を祈るしかない。

 激しい憤りを感じるが、愛剣も握れない今のアイゼンは足手まといになるだけだ。

(頼むぜ、相棒……)

 アイゼンは雷を墜とす元凶の大樹を見やる、そしてその根本へと走る少年を脳裏に思い描く。

「俺は少し疲れたぜ――」


 アイゼン・グリッダの意識はそこで途絶えた。




 モウリョウコウは薙刀を振るい、リザードマン二体を薙ぎ払う。

「キリがないではないか」

 更に二体のスケルトンをバラバラにし、毒づく。

「隊長!! どうするんですか!? このままじゃ戦力が削られる一方ですよ!!」

 背中から声がかけられた。小隊長の一人だろう、聞いたことがある声だった。

 声の主に叫び返そうとしたその時、火球が猛令甲のすぐ横を薙いだ。

「ァァァアアアアアアあああああああああああ!!」

 先ほどの声の主の悲鳴が聞こえた。見ると、全身をムゴイ火傷が覆っていた。

 猛令甲は歯を噛み締めた、血が滲むほど強く。叫ぶ事はしなかった。爆発する感情をなんとか抑える事に成功していた。

 火球が飛んできた方向を見やると、そこには邪悪極まる面相をこちらに向けた邪龍。報告にあった、村の近くに出現した竜だ。

かたきはとるぞ」

 猛令甲は静かに告げ、地面を蹴った。

 薙刀の刃の部分を炎が覆う。

 一瞬で邪龍との距離を詰めると、薙刀を横薙ぎに振るった。

 邪龍はその速度について行けず、大きく横に吹き飛ばされる。

「でぁぁぁああああああああ」

 猛令甲の追撃は終わらなかった。大きく跳躍し、薙刀を勢い良く叩きつけた。

 邪龍は為す術もなく絶命し、他の召喚獣のように闇属性の黒い粒子となって消えた。


――ォォォォオオオオオオ!!――


 混戦を続ける兵士たちが一気に雄叫びを上げる。戦意も上がり、各地で黒の粒子が散る。

「行くぞぉ!! 前線、押し切れぇ!!」

 猛令甲は叫ぶ、またも雄叫びが上がった。

 そこで猛令甲の頭に声が響いた。


『共和国軍団長のコットだけど……聞こえる?』

「ん? なんだ!?」

 僅かに驚いた、だがしかし猛令甲の戸惑いを無視してコットは続ける。

『前衛の兵士全軍に告げる、全員出来る限り脇によけてくれ。これより中隊が戦場を突破する。巻き込まれたくなかったら脇によけろ』

 猛令甲は周りの兵を見る。唐突の指示に戸惑いを隠せない様子だった。

 声は続く。

『戦場の遥か前方に大型の召喚獣を多数確認した。中隊はこれの迎撃に当たるからみんなどいてくれ。以上』

 それ以上声が聞こえることは無かった。

 しかし兵士は目の前の敵に集中しているか、戸惑いキョロキョロと周りを見回している。

 猛令甲は叫んだ。作戦の成功に少しでも貢献出来るように。

「聞いたであるか!! 儂たちが目の前の敵に集中出来るよう中隊が前に出る。儂らは左右に別れろ!!」

 兵士たちはお互いに顔を見合わせ、頷き合った。

 目の前の敵を早々に倒し、全軍が左右の脇に一斉に別れた。直後、馬に乗るマグナを先頭にし、中隊が一気に駆け抜ける。その進行方向にオークやらゴブリンやらがいたが、中隊は無視して走り抜けた。

 猛令甲はマグナと目が合った。

 “前は任せろここは頼む”そう、目で語っていた。

 猛令甲は頷いて返し、ゴブリンを串刺しにして放り捨てた。

「中隊は大型らを倒しに行った!! 儂らはここでこやつらを全滅させようぞ!!」

 猛令甲の呼びかけに中隊|(元前衛)は雄叫びで答えた。

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