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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
終章~三人の英雄たち~
42/50

3.

「大丈夫であろうか」

 しわがれているが、威厳のある声が小さめの天幕に響く。

「信じましょうぞ、ノルマン殿」

 アルバート・ラグス・ディメンティ。ラグス王国、国王の声が答えた。

「異教宗派など、私たちの軍勢が一気に蹴散らしてくれましょうぞ」

 不敵な笑みを浮かべたのはグローザ帝国、大統領、ロード・デルクス。

「まぁ、まぁそう言わずに、皆で戦っているのですぞ」

 愛嬌溢れる笑顔を振りまくのは、ノルマン・サースティ。共和国最高議会の議長だ。

 国家主要人物である彼ら三人がいるのは、ネザー教団討伐同盟軍野営地の更に前線から離れた安全地帯。

 彼らに出来るのは、祈る事、ただそれだけだった。



 鋭い金属音が断続的に木霊する。

 シエルは“密剣”と呼ばれる敵と激しく剣を打ち合わせる。

(中々やる。斬撃や体術による攻撃が鋭い)

 シエルは木々の枝を跳び移り、距離を取ろうとする。しかし密剣もシエルに追随する。

(振りきれない!? なら……)

 シエルは短剣を構え、跳び移った枝で止まり、振り返った。

 密剣は不意を突かれたと言わんばかりに、体勢を崩した。その隙を見逃すほどシエルは甘くない。

「そこっ!!」

 気合いと共に短剣を一突き。しかし密剣を倒すことは一筋縄では行かない。

 密剣はシエルの放った突きを、両の手で握る暗器の剣でいなし、シエルの鳩尾みぞおちに鋭い蹴りを入れた。

「ぐっ!!」

 低い呻き声を発し、シエルは肺の中の空気を一気に吐き出し、軽い酸欠状態になった。

 シエルは蹴られた勢いを殺せず、木の枝から地面へ真っ逆さまに墜ちる。

「っはぁ!!」

 空っぽの肺に酸素を取り込む。なんとか受け身の体勢を取ることに成功し、着地した。

 しかし密剣の追撃は終わらなかった。

 密剣はローブをはためかせて死神の如く舞い降り、その手に握る暗器をシエルもろとも地面に突き立てようとした。

「ッ!?」

 シエルは地面を転がる事でそれを回避。なんとか短剣を構え、目の前の敵と相対する。

「あなたはっ、何故こんな事を!?」

 シエルの口から自然と問いが漏れた。自分でも意識していなかった。

 ただ、答えは無かった。

 答えの代わりに鋭い斬撃がシエルに入れられる。

 密剣の表情は揺るがない。

「何故!? こんな非道な事を!?」

 今現在も、天を覆う枝々はその間から紫光のプラズマを覗かせている。それらは、いつ落ちても不思議では無いくらい成長していた。

「あの人についていくため……」

 小さく聞き取りづらい声に気付くのに、また、それが密剣のモノだと理解するのに数瞬の時を必要とした。

 驚くほど澄んだ声だったのだ。同性であるシエルがうっとりするほど、美しい声だった。

「私が信じる、人のために、私は闘う」

 解答が告げられる間も剣戟は止まない。

 シエルは浴びせられる剣戟に対処しながらも自分の主張を口にする。

「あなたのつまらない事情が多くの人間を殺していい理由に絶対にならない!! いえ、どんな理由があろうと大量虐殺は決して許されない!!」

 シエルは短剣を横薙ぎに振るった。密剣はシエルの攻撃をしっかりガードした。

 しかし、それが仇となった。



「いつの間に!?」

 驚愕をあらわにしたローグル・レイの叫び声が響く。

 ガードの影響で後ろに下がるローグルの体は後ろからの脅威を感じた。

「ぁあっ!!」

 青髪の少女剣士が雄叫びを上げ、短剣を縦に振り下ろした。

「だが、まだ甘い!!」

 少女の斬撃にローグルは暗器を掲げ、対処する。しかし斬撃は来なかった。

「ッ!?」

 少女の短剣はローグルの掲げた暗器に当たると、ぼやけるようにゆらゆらと輪郭が揺れた。

「こっちよ!!」

 少女は先ほど短剣による横薙ぎ攻撃を放った場所から走りこんできていた。

 少女が短剣の剣先をローグルに向け、突進してくる。

「このまま、やられてたまるかぁ!!」

 ローグルは叫んだ。守りを捨て、暗器を向かってくる少女に向けた。


 二人の少女は互いに密着する。互いの得物は急所への狙いを外し、濃い紺色の髪の少女は左腕の肘の関節に、“密剣”と呼ばれる少女は腹部に斬撃を食らった。


 シエルの視界がぼやける。

(これは、毒!?)

「神経……毒……」

 密剣の声が聞こえる。その言葉の意味が示す事を理解するのに数秒の時間を有した。

「これ……で………しばらく……あなたは…動けない」

 苦しげな吐息と混じり、言葉が紡がれる。

 シエルの体に入る力が抜け、地面に倒れ伏せる。

(ここまで……かな)

 自分はここで殺される。愛する少年との約束は果たせそうに無い。

 その笑顔を一筋の涙が伝った。


 直後、地面を伝い衝撃が伝わる。

(なに……が)

 はっきりしない意識で音のした方(自分が倒れた時、首を倒した方)に目を凝らす。

 ぼんやりとする視界で確認出来たのは大量に流れ出る朱い液体。鼻につくのは鉄臭い匂い。


 どうやら密剣は出血多量で倒れたようだった。

 しかしその事実が確認出来たのは少女が意識を失ってからであった。

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