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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
終章~三人の英雄たち~
41/50

2.

 マグナ・ザクロフは愛馬の馬上で敵陣を監察していた。

「敵は、報告に聞いた紫鎧だな」

 自身が作った光属性の望遠術式を覗きこみ、マグナは呟く。

「あの様子じゃ、弓による攻撃は見込めそうに無いな。モウリョウコウ殿率いる前衛が善戦してくれればこちらも楽が出来るな」

 敵勢は紫鎧のみで構成されていた。数はざっと見積もって一万。討伐軍総数の五分の一程度だ。

 武装は全て大剣。つまり近接のみということになる。

「術式の警戒はコット殿に任せるか」

 マグナは望遠術式のレンズを腕の一振りと共に消した。


「全体、聞け!! 奇襲部隊はあてにするな!! 相手は紫鎧の魔導兵だ、術者の魔法力マナを全て削り切る覚悟で行くぞ!!!!」


――オォォォォォォォォォォ!!!!――

 直後、兵たちの戦意が高まる号声が谷中に響いた。




(奴は、必ずここに来る)

 剣の柄を人撫でし、ゼノは目を伏せた。

 彼は城内の核。死黒大樹しっこくたいじゅの根本に立っていた。

 巨大な空間の中央を大樹の幹が貫き、天へとその梢を伸ばす。

 術者はゼノの遥か上方。城内の空間の中腹に居た。

(二人が向かったか。オマケの二人はあいつらが片付けるだろう。本命はもらう)

 幹からは細い枝、太い枝、様々な枝が伸び、空間を侵食している。ある枝は幹から壁までの途中で止まり、ある枝は壁にぶつった後ツタを伸ばす。

「はやく来い、はやくろうぜ」

 無意識のうちに思考の半分が自らの口から零れた事に、ゼノは気付かなかった。




 猛令甲は暴れていた。理不尽に、ではない。紫鎧を相手に無双していたのだ。

「手ぬるいわ!! 雑兵如きにこの猛令甲を止められると思うな!!」

 帝国兵士も紫鎧と交戦を開始する。

 とある兵士は紫鎧と互いの大剣を打ち合い、とある兵士は紫鎧を槍でなぎ払い、とある兵士は大剣に体を叩き斬られていた。

「押し込めぇ!! このまま押し切るぞぉ!!」

 猛令甲は薙刀を掲げ、軍の兵士たちに活を入れるべく声を張った。

――応ッ!!――

 帝国兵士は各々の得物を掲げ、短く応じた。



 その時だった。敵側の陣営の更に城に近い場所に、巨大な紫の光が満ちた。

「なんだ!?」

 スレイ・リャッカが訝しむ視線を光の方に向けた。

 スレイの視界に、全員の視界に入ってきたのは、一頭の竜。それとその足元に広がるのは巨大な紫の魔法陣。


 そしてスレイは見てしまった。ひしめき合う異形の怪物たち。

「ひっ!!」

 スレイの喉から悲鳴のような声が漏れた。

 ゴブリンをはじめとする、オークやオーガといった亜人たち。リザードマンやフィッシャーマン等の魚人たち。魔法術のみに効果を示す、実体を持たぬ幽霊ゴーストの群れ。そして獰猛なアギトの合間から時折火花をちらつかせる邪悪なる竜。

「臆するな!! 帝国の誇りを思いだせ!!」

 失いかけていた戦意に浴びせられた鼓舞の叫び声。それは猛将――猛令甲のモノだった。

(故郷で待つ、レインのために。俺は死ねない!)

 婚約者の名前を意識のウチで反芻し、戦意を高める。

「俺は、死ねないんだぁ!! 勝って、生き延びる!!」

 共和国の誇りを胸に秘め、自らの覚悟を叫んだ。

 スレイに続くように、各々が雄叫びを上げ始めた。


 召喚された獣に屈して、逃げ出す者は誰一人として討伐軍に居なかった。




「お疲れ様ですラーガ様」

 側近から飲み物を受け取ったのは、教団のトップ――最高司祭ラーガ。暗黒神とも呼ばれる。

「これで、戦況は変わるかな」

 側近の侍女を下がらせ、魔法術によって作られた窓を覗きこんだ。そこにはラーガが召喚した召喚獣と交戦を開始した討伐軍の様子がはっきりと映されていた。

「軍団長もいるし、時間稼ぎもいいところだな」

 ラーガはローブの胸元の部分を緩めた。

「もうすぐ、見れる。今まで………………夢見ていた魔法術式を」

 ラーガは側近の侍女から受け取った飲み物で口の中を潤した。飲み物はあっさりとしたくちどけで、仄かな酸味を残し、喉の奥へと消えていった。

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