1.
深い密林の中、十二人の足音だけが響き渡る。
十二人の一人、俺―リアン・ディールは、隊の進む方向を見据えた。
視界の中央に捉えたのは、漆黒の大樹。今もなお、天へと伸びた幹から数千、数万にも及ぶ枝が、伸びる速度を緩めない。
その枝葉は、まるで煉獄から這い出た暗雲のように黒く、日の光を遮った。
伸びた枝葉の合間からは、時折プラズマのような、蒼い光がチラつく。
「(オォォォォォォ――――)」
遠く離れている為、勇士たちの号声が小さい残滓となって耳に残った。
「始まったようだな」
隣を歩くアイゼンが神妙な面持ちで告げた。
アイゼンの一言を残して十二人に沈黙が訪れる。
無視しているわけでもなければ、互いに気を使ってるわけでもない。
あるものは緊張で歯を噛み締め、あるものは不安に顔を歪めていた。エリートといえど、実戦が初経験の兵だっているのだ。
十二人の中で一番前を歩いていた兵士が、木の根に足を取られ、よろめいた。
「スイマセン」
俺たちを振り向き、苦笑混じりで彼は告げた。
それが彼の最後の言葉となった。
一番前を行く兵士は突如、口から血を吐き出した。
「ご、はぁ」
兵士はそのまま倒れ、起き上がる事は無かった。
「ッ何!?」
シエルが抜剣し、叫ぶ。俺や、アイゼン、リーフなど他の面々もそれぞれ武器を構えた。
突如、俺の視界が揺らいだ。
シエルが俺を突き飛ばしたのだ。
「な、にが!?」
直後、彼女の体に数本の細い針が刺さった。
しかし彼女の体から鮮血が吹き出す事は無かった。代わりに少女の体のシルエットが段々朧げになっていった。
「“陽炎の術”」
シエルの声が俺のすぐ隣から聞こえた。正直、分からなかった。
「そこね!!」
シエルは腰のベルトに差した針|(先ほど飛んできた物とは違う)をとある樹木の枝のあたりにむかって投げた。
キィン!!という金属の甲高い音を鳴らし、針は弾かれた。
「光魔法術の応用!?」
リーフが叫んだ直後、段々とはっきりしてきたのは漆黒の装束を纏い、同じく漆黒の流れるような黒髪を持つ一人の少女だった。顔の半分はマスクに隠れており、しっかりと確認は取れない。
「ったく。バレてるじゃないか」
全く別方向からも鋭い声が響く。と同時に兵士の二人が血を吹き出し倒れた。
声の主は自らの得物を肩に担ぎ、ごうせいに笑った。
「俺の相手をしてくれよ」
「やつらは!? 瞬剣と、密剣! ?そんな、なんで? 三武将のうちの二人がこんな所に」
兵の一人がそんな言葉と共に斬り伏せられた。
「そうか。術式を逆探知したのか。どちらに転んでも僕たちの位置はバレていたということか」
リーフは自らの推測を展開させた。それを聞いた瞬剣はまたも笑う。
「ご名答。侵入者用の探知術式を展開させる。それを逃れるための術式の匂いを辿ってくればそれでオーケーってわけさ。それに立地等から推測するに、谷部分に囮を集め、他から奇襲するって寸法だろ」
全てお見通しだったってわけか。俺は心中で苦言を呈する。
「しっかし囮っつっても、大部隊だからな。主力はそっちだぜ。だけどな、あの死黒大樹が完成すれば関係無いけど」
瞬剣は成長しつつある大樹に視線を向けて言い放った。
「無駄口……叩かない……」
密剣が発したのは二言、それもシエルとの戦闘中の二言。それで十分に意図は伝わったようだった。
「わかったよ。他に抜かれるのも面倒だ、召喚魔法術ってぇやつで足止めさせてもらうぜ。俺の相手はそこのナイト様かな?」
片刃の得物の剣先をアイゼンに向けた。
「いいぜ、相手になる」
アイゼンの目が変わった。いつもの彼じゃ無かった。
「その前にそこらの兵士が先行するのも困る。だから」
瞬剣は左手を地面に突いた。
「神が人を造る過程を複製。そしてそれの生成者を人に置き換え写製」
地の力が左手に宿り茶色の光が灯った。そしてそれは分散し六つの岩の塊へと変化した。
「出でよゴーレム!!目の前の敵を殲滅せよ」
ゴーレムと呼ばれたそれは岩の塊から岩で出来た人型の人形に姿を変えた。
そして瞬剣は楽しさを滲ませ言い放った。
「始めようぜ。人類の命運を懸けた戦いを……」




