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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
第一章~遭難から始まる出会い~
4/50

3.

「俺がシエルから目を離さなければ………」

 俺は毒づきながら走る。黒装束の男を見失わないように全速力で追いかける。

「しかし、あいつ、人を一人担いでいるのにえらく速いな」

 俺は走りながら思考を巡らす。黒装束は見た感じアイゼンと同じくらいの体格だ。なにか特殊な術式でも使ってるのだろうか。とぼんやり推測するがそんな事今はどうでもいい。

 濃い紺色の髪の少女を助けるのが先決だ。あの笑顔は絶対に失わせちゃいけない。

 木の枝が頬を傷つけるが、俺は一切気にせず突き進む。


 黒装束は何回も曲がったりを繰り返した。俺はしっかり黒装束についていく。黒装束はとある洞窟の前で足を止めた。辺りをキョロキョロと見回している。

 恐らくアジトがバレるのを防ぐためだろう。俺は木の裏に隠れてやり過ごす。黒装束は周りをしっかり確認した後、ゆっくりとした歩調で洞窟の中に入っていく。

 担がれたシエルは肉体的ショックと心的ショックによってか、気絶してぐったりとしていた。

 黒装束と担がれたシエルは洞窟内の闇に呑まれる。



 俺は洞窟の入り口にそっと忍び寄り、中を見やった。

 中は真っ暗な闇に包まれていて、黒装束の足音だけがこだまする。

 しかし、突然洞窟内の奥で明かりが灯された。紫色の光はオドロオドロしい感覚を俺に与える。

 自然と心臓の鼓動が速まった。呼吸が荒くなる。俺は一度深呼吸して落ち着かせた。

(よし!)

 俺は足音を立てないように洞窟の闇の中へ歩を進めた。



 洞窟に入ってすぐ、異常に気付いた。洞窟内には異臭が立ち込めていた。鉄臭さと腐ったモノの臭い。

 喉からせり上がってくる物を抑えつけつつ先へ進む。

 岩陰に身を隠し、最深部の様子を覗いた。


 そこには異様な光景が広がっていた。壁や床などは血がこびりつき。中央に位置する不気味な祭壇の周りには人の肉や皮、髪の毛などで彩られていた。

 俺は思わず口を手で抑える。髪の毛の長さからして、ここで犠牲になった人たちの多くは女性だという事が推測される。

 シエルは中央の祭壇の丸太にロープで縛られていた。そしての周りを囲むように黒装束が五人。

 等間隔で円を描くように、祈りを捧げる形をとってひざまずいていた。最深部の壁には燭台が等間隔で並んでおり、それぞれに紫の炎が灯っている。


 この場全体が生贄を目的とする儀式場であることは一目瞭然だった。

 シエルは今も気絶したままだった。黒装束たちは何かをブツブツつぶやいている。

(飛び込もうか)

 一瞬そう考えたがすぐに否定する。相手が戦闘の素人だったとしても人数差が決定的だ。五対一では、かなり厳しい。

 作戦を練らなければ、しかし状況はそこまで甘くなかった。

 黒装束の一人(シエルと正対していた人物)が懐から短刀――ややシンプルなデザイン。エッジは短めで刃が無く、先を尖らせただけの白い鉄製の杭――を取り出し祭壇の階段を登る。


 ゆっくりとゆっくりと。


 まずい。シエルが殺される。直感だけじゃ無く、周囲の状況から推測しても同じ結果が出る。

 俺は岩の影から飛び出して、走りだした。既に抜剣している。


 向かう先は壇上にて鉄の杭を振りかぶる黒装束。

 間に合え!! 強く、そう念じた。

 俺の足が血溜まりを踏む。『ギトッ』とした感触が足裏を撫でるが一切気にならない。


 祭壇の階段を一気に駆け登る。何段飛ばしだったか分からないが一気に登った。

 登り切った俺の目の前では、黒装束が鉄の杭を振り下ろしているところだった。

 俺は駆け上った勢いを殺さず。左肩でタックルを繰り出す。黒装束は鉄の杭を床に落とし、祭壇を転げ落ちた。不気味な事に一切悲鳴をあげなかった。

 俺は、シエルを丸太に縛り付けていた忌々しい縄を右手の剣で切った。縄は全て床に落ち、支えを失ったシエルは前に倒れる。左手で抱きかかえるように支えながら少し揺らして呼びかけた。

「シエルっ!! シエル。起きろ」

 拘束されていた少女はまぶたを開けた。

「こ、ここは?」

「よく分からない。けどかなり危険な状況だ。下を見てくれ」

 促されるままシエルは下方を見る。黒装束たちが各々が手に武器(三叉槍やサイス、不気味な杖など悪趣味なもの)を構え祭壇上部へとにじり寄っていた。

 いつの間にか転げ落ちた黒装束も戦列に加わっている。5対2。絶望的な状況だ。だが、今最も優先されるべきは倒す事じゃなく逃げる事だ。勝機はある。

 隣を見るとシエルは落ちた鉄の杭を拾って構えていた。

 地面までそう高さは無いが、全方位を囲まれてしまっている。どこか一角さえ崩せれば。

「私が出口の一番近くの三叉槍を崩す。リアンは援護お願い」

 シエルは顔の向きを変えずに言う。

「でも、それだと――」

 俺の不安を込めた言葉はすぐさまシエルに遮られた。

「大丈夫。私の十八番だから」

 シエルは一度俺の方を見てウィンクをした。そしてすぐに村の衛士としての表情へと戻った。

「分かった。それじゃ行くぜ」

「任せて」


 シエルは凄い勢いで階段を下る。俺もその後ろに続く。シエルはなんの予備動作も無く上に跳んだ。もちろん段差があるが、それをものともせずシエルは三叉槍の頭上に跳ぶ。しかし、三叉槍も馬鹿じゃない。先端を上に向けた。このまま落下すれば串刺しになる。

 だが、思い通りにはやらせない、援護は頼まれている。

 俺は直剣の側面で槍の柄を思い切り叩いた。槍は右に倒れる。わずかだが黒装束の隠れた顔に驚愕の色が浮かんだ(ような気がした)。

 シエルは落下と同時に三又槍の顔面に膝蹴りをお見舞いした。

「よし、穴が空いた」

 だが連中も穴をカバーする為に全力で追ってくる。

「行くぞ!!」

 俺たちは追ってくる黒装束から逃げるため、全速力で走った。




 果たして、洞窟から脱出に成功した俺たちは森を駆けていた。シエルの案内もあって、村までの最短ルートを走る。

 しかし、休みなく走り続ければペースも落ちる。息も荒くなり、周りへの集中力が切れてくる。

 そんな精神状態の俺を襲った黒装束の存在に気付けたのはシエルの一言だった。

「後ろ!!」

 振り向くと黒装束がサイスを振りかぶり、振り下ろす寸前だった。シエルは左を走っている、避けるなら――右!!

 右への回避は間に合わなかった。気づくのに遅れたし、疲労状態も重なっていて足がもつれた。間に合わない。俺はそう悟った。

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