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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
間章
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間章

 その通路はまるで煉獄へ続く細い道のようだった。

 通路のわきには等間隔で紫の篝火が灯る。


 そんな通路の歩を進めるのはゼノ・レーク。

「よぅ、ゼノ。なんだ? 余裕じゃないか」

 十字路の右側から声が掛けられた。聞き覚えがあった。ユシウス・アールターだ。たしか『瞬剣』などと呼ばれていた気がする。

 彼は先日着ていた派手な鎧は相変わらずだが、得物が変わっていた。

「なんだよ? これか?」

 ユシウスはゼノの視線に気付いたのか、腰に吊るした一本の刃物を外してみせる。

「これはな、“カタナ”って云うらしい。あの“サムライ”が使ってる武器だそうだ」

「サムライ? 聞いたことあるぞ、極東の島国を剣、たった一本で守る戦闘部族だろ。しっかし、いいのか? 決戦直前に得物を換えても」

 他人の事はどうでもいいゼノだったが、一応心配する。

「全然平気だって。しっかり調整済みだからよ」

 ユシウスの答えにゼノは薄い笑いを漏らした。

(一体何人()ったんだが)



 自室のドアを開けると、ほんの少しのカビ臭さが鼻につく。窓から差し込む僅かな月明かりが部屋の中の貴重な光源だ。

(隣は確か無人だったか、しっかり掃除しとけよな)

 この匂いとも今日で最後ではあるが。

 ゼノは武器を外し、鎧を脱いで、薄手のシャツとズボンになる。そしてそのまま軽くベッドに横になった。

「いつから俺は、こんなんになっちまったんだろうな……」

 独りでに口から言葉が漏れた。

(こんな時になんで昔を思い出すんだか)

 ブランケットを被ると、疲れが溜まっていたのか、ゼノの意識はすぐに浅い眠りへと堕ちていった。





 とある農村で一人の少女がゆっくりと歩く速度を早めた。

「明日は曇りそうだな〜」

 極東の島国に咲き誇る桜の色の髪をポニーテールに束ねた少女は、小麦の束を抱えたまま夜天を仰ぎ、ふとそんな感想を呟いた。

 そんな時、強い風が一吹きした。小麦は飛ばされなかったものの、体勢を崩してしまった。

「寒くなってきたな、速く家に入ろっ」

 少女はたなびく髪を抑え、駆け足で家に急いだ。





「あぁ〜お前!!」

 俺とシエルは酒場兼食堂用天幕に行くというアイゼンに付いて来ていた。まさか以前、金を賭けた勝負を繰り広げた男に会うとは知らずに。

「なんだぁ!? お前ぇら知り合いなのか?」

 アイゼンは俺と屈強な筋骨隆々男を見比べる。

 俺と男の体格差は二倍――とまではいかない――ある。普通なら、俺の方に男がにじりよってくるモノだが、俺とコイツは違った。


「ヒッ、ヒィ〜」

 と喉から情けない声を出したのは、先程まで他の男たちと図太い声で笑っていた筋骨隆々男の方だった。

 えぇ〜。と云うジト目を俺に向けたのはシエル・ラーグナーだ。

「えと、その、てか、あの反応見て俺が悪いって見方おかしくない?」

「まぁまぁ、お前も災難だったな」

 アイゼンが男と肩を組んでいる。

 と、いつの間にかアイゼンに酒が入り、男の目から雫が流れていた。

「ほら、リアン。座っちゃおう」

 いや、泣きたいのはこっちだよ。それにお前から挑戦ふっかけてきたし、「いい勝負だったぜ」とか言ってただろぅが!

 俺の内面での叫びは勿論聞こえる筈も無く、シエルまでも呑み始めてしまった。


 最初に言っておこう。俺は酒に対する耐性がものすごく弱いので、一切呑まない。それが俺自身が決めたルールである。




 自我があったのは奇跡だ。しかし、気持ちが悪い。胸がムカムカする。

 なんとかシエルに助けてもらって自分たちの天幕に戻ってくる事が出来た。

「あぁ〜。ゴメン、シエル」

 ぼんやりとする視界の中、シエルが微笑むのが解った。

「リアンにこんなに呑ませるなんて、あとでアイゼンをとっちめなきゃ」

 シエルが可愛らしい握りこぶしを作っていたが、遠い世界のことのように思えた。





 目を開けると、真っ先に視界に飛び込んできたのは俺たちの天幕の天井だった。

「そっか、酔っちゃって……」

 俺は体を起こす。酔は覚めていた。

(みんなは?)

 天幕内を見回しても誰も居なかった。

 シエルとアイゼンは分かる。酒場兼食堂用天幕だ。リーフと他の術者の姿も無い。会議にでも出かけたのだろうか。

「あれ? 起きてるの?」

 聞こえたのは鈴のように透き通った声、その声の主は今まさに天幕の入り口の垂れ幕を上げた所だった。

「シエル?」

 濃い紺色の髪は妙に妖艶な光を漂わせている。それがいつもよりも美しく見えてしまっているのは月明かりのせいでもあるだろう。


「ねぇリアン、前から言おうと思ってた事なんだけど」

 少女の瞳が揺れる。言葉に言い表せないモノを感じ取った俺はゆっくりと立ち上がった。

 途端、俺の体に鈍く弱い衝撃が入った。見ると、シエルは俺の鎖骨の近くに顔を押し付け、小さい嗚咽を漏らしている。

 こういう時にしてやる事ぐらい俺でも分かる。

 俺は小さく泣く少女の頭を優しく撫でてやった。何度も、何度も。



 どれくらい撫でていただろうか。いつのまにかシエルも落ち着きを取り戻し、正常な息遣いが聞こえてきた。

「落ち着いたか?」

 シエルはコクリと頷いただけ。

「それで、どうしたんだ。急に」

 シエルの答えは少し間を置いてから返ってきた。


「あたしね、恐いの。あたしが死ぬんじゃないかって。あたしが守れなくてリアンが死んじゃうんじゃないかって」

 シエルはまたも泣き出そしそうに目元に雫を溜めていた。


 俺はシエルを強く抱きしめる。もう離さないと言うように、絶対に離れないと言うように、誰にも二人の間を裂かせないと言うように。


「大丈夫。俺もシエルも死なない、必ず生き残る。もし俺が死にそうになったら、シエルが助けてくれればいい。俺もお前を必ず守る」

「………………リアン―――」


 もう既に俺たちの間に言葉は要らなかった。

 俺は抱きしめる腕に力を込める。シエルもそれに呼応して力を込めた。



 途端、シエルの腕から力が抜けた。

 俺も力を抜き、お互いの体が離れる。

 シエルは頬を紅く染め、はにかんだように優しく微笑んでいた。俺はそれだけで十分に意図が分かった。


 シエルは半歩前に進み、目を瞑って、顎を若干上げる。

 俺はシエルの肩を優しく掴み、顔を近づける。


 唇を重ねた。


 甘い唾液が俺のものと混じりあう。俺は魅惑的な感覚をずっと味わっていた。





 とある一兵士、スレイ・リャッカは簡易櫓から周囲の状況を見回していた。

(一人で、な〜んもない櫓に登らされちゃ寝ちゃうよなぁ)

 自分の前の当番(怒られ済み)を同情しつつ自分は二の舞いにならないように気をつける。

「平原異常な〜し――砂漠地帯は………………異常なぁい。なんも無ぇじゃねえか――――ん?」

 スレイは目を細める。


(山に……何か)

 山、敵城がある方角で何かが動いている。何かが垂直に上方へ、

「あれは………………木! ?でっけぇ樹!!??」

 スレイは急いで櫓のハシゴを降りる。最後の方で足を滑らせて落ちるも、高さは全然無いのでほぼ無傷。

 この時ばかりは大好きな木のドアも鬱陶しく思い、つい蹴飛ばした。

「急いでコット様たちに伝えねぇと!!」

 スレイは天幕群の中央へ全速力で走った。

この世界では十五歳から飲酒、喫煙は十七歳からOKです。

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