11.
山脈には大きく分けて二つの地域がある。
草木生い茂る密林地帯と、緑が一本も生えない不毛の大地だ。
なぜ、狭い地域にこれほどの差があるのか。答えは共和国と帝国の気候の差にある。
共和国側の乾いた熱い気候と、帝国側の湿った空気とがぶつかり合い、王国側と帝国、共和国側の国境付近の二箇所で雨雲が生成される。そこから大粒の命の恵みが大地に降り注ぎ、緑が芽吹く。
俺たちが立っているのは不毛の大地。帝国側の湿った大地なのだが、その土地に雨はふらない。地面を撫でる風が何も吹き上げない程湿ってるのに、植物が自生する程の雨量は無い。
そんな不毛の大地に並ぶのが教団討伐軍の野営天幕群だ。
簡素な白い布と大きな骨組みを利用して作られるそれらは、組み立てが簡単な種類のモノである。
数はざっと見て一万以上あるだろう。一つの天幕に五人くらいだとすると五万以上の兵がいる事になる。
膨大な数の白い天幕群に息を呑む俺の裾をシエルが軽く引っ張った。
「ねぇ、マグナさんに挨拶しに行こうよ」
シエルに促されるまま、俺たちは白い天幕群の中心へと歩を進めた。
指令天幕の入り口をくぐった俺たち三人を待っていたのは各国の軍団長だった。
「やっと来たか」
声の主はマグナ・ザクロフだ。
彼と同じテーブルに着く二人も見覚えがある。たしかコット・ルーチンと、猛令甲だ。
「ぬしらが本作戦の核の一部か?」
武人の如きドスの効いた低音の声は、東方風の鎧を着込んだ猛令甲のものだ。
「そのようですね」
落ち着いていて、品格のある声を発したのは緑衣のローブを羽織ったコット・ルーチン。
「(凄く、空気が重いね)」
シエルが俺の耳元で囁いた。
俺はコクコクと顔を縦に振って同意した後、もつれる舌をどうにか動かす。
「え、えっと。俺たち……いえ自分たちが作戦の核とは…………どういう事でしょうか?」
俺の言葉にマグナは笑った。
「はっはっは。いつもどおりで構わねぇよ。な?」
後半は他の軍団長に向けたものだった。
「そうだね。僕たちにも普通に接して欲しいな」
「うむ。ぬしらもリラックスしてくれ」
(お前のその喋り方が緊張させるんだよ!!)
心の中でツッコむ。勿論言葉に出さない。
「俺たちが!? 奇襲隊に!?」
聞かされた内容は、正直信じられなかった。
「俺たちは少しでも力になれればと思って来たんだ。そんな重要な役引き受けちまってもいいのか?」
アイゼンがもっともな意見を述べた。
「正直に言おう。近頃大規模な戦争いが無かったせいもあるが、一般兵の質も落ちておる。精鋭とて同様なのだ。修行を終えたぬしらの実力がいかようかは存じないが、マグナ殿の話が正しいならば三武将と互角に渡り合えるのはぬしらと、選りすぐりのエリートだけなのだ」
猛令甲は立派な髭を撫でながら、告げた。
その後にコットが続ける。
「マグナさんや甲さんだったらどうにかなるかもだけど、軍の指揮もあるし、というわけで君たちが頼りってワケなのです」
「どうだ? 引き受けてくれるか?」
マグナが選択を迫る。
俺は二人を見る。アイゼンは笑顔を作り、シエルは穏やかな表情で頷いていた。
答えは決まっていた。
「お引き受けします。お力になるために、ここに来たのだから」
俺たちの承諾を受けマグナは、
「助かる」
と頭を深く下げた。




