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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
第四章~決戦に向けて動き出す隠者~
29/50

2.

 状況は絶望的。リアンが持つ謎の光の力も目の前の敵には通用しなかった。

 彼らの織り成す剣戟に割って入る事など、とてもじゃないが出来なかった。下手に割り入ればリアンの足を引っ張る事になるからだ。

 故にシエルは祈る事しか出来なかった。仲間の勝利を。


 祈りは天界の神々に届かなかった。

 彼は無様にも一方的に攻撃を受け続けた。一太刀も受けてないが彼の体はボロボロだった。

 ところどころにどす黒いアザを作り、力なく地に倒れ伏している。そしてその彼の頭を踏みつけるのは彼を瀕死の状態まで一方的に追い込んだ敵。

 紫がかった黒い髪を乱し、敵は笑った。

「んだぁその様は? “聖剣に選ばれし者”ってのはこんなモンなんか?」

(まただ)

 彼が口にしている“聖剣に選ばれし者”とはどういう意味だろうか。

 答えの出ない問いがシエルの頭をぐるぐるとめぐる。

 


 彼は立ち上がる。痛みの雨を全身に浴びても尚。

「仲間………に手は……出させ……………ない」

 痛みで動かない足に鞭打って、彼は立ち上がる。剣を杖にしても尚立ち上がろうとする。

「なんか言ったか? 聞こえねぇんだよ!!」

 しかし彼は獰猛な笑みを浮かべながら、今立ち上がろうとする彼の腹を二度蹴った。

「が……はぁ…」

 彼は口から血を吐き出す。鮮血は地に広がり赤黒い染みを作った。

「汚ぇな!! その汚ぇのをもっと吐き出してみせろや!!」

 

 少年は一方的な攻撃をその身に受ける。まるでシエルたちに振りかかる痛みを一身に背負うかの如く。

 そんな少年の姿を顔をしかめて見つめるシエルの耳に規則的な音が流れこむ。

(この音は?)

 シエルは音のする方に振り返る。小さくだが見えたのは砂煙。そしてその砂煙の中心にいたのは、

(騎馬!? それに馬車隊まで!!)

 恐らく王国軍のものと思われるその馬鎧を(小さくだが)見て取ったシエルは疑問に思った。

 何故こんな所に王国軍が?しかもあんなに大軍の?

 そんなシエルの疑問を無視して頭の中に声が響いた。

(合図と共に、少年を回収する。援護を求む)

 闇の術式を応用したテレパシーのようなモノだろう。

「ねぇ」

 小声と共にアイゼンの方を向く。

「あぁ」

 どうやらアイゼンにもメッセージは届いていたようだ。

「術式の用意をしておこう」

「うん」

 アイゼンに促され、シエルは詠唱体勢に移った。

 あの速度なら王国軍は恐らく数秒で到着するだろう。作戦なんてモノは無いが上手くやってくれるだろう。

 なんたって戦闘のプロ集団なのだ、突発的事態への対応力は目を見張るものがあるのだろう。

 軍の人々を信じて術式詠唱体勢に入る。


「安らぎを与える水は姿を変え、時として人に牙を剥く」


 詠唱が終わるとシエルの右手に淡い水色の光が宿る。準備完了のサインだ。あとは合図まで精神力を保ち続けるだけ。


 しばらくの間、苦しい静寂が場を包んだ。

 その時、敵は言った。笑みを消して。

「興が醒めた。そろそろ消す」

 冷徹な言葉と共に剣を掲げる。一閃すれば、一人の少年の命を軽々と消し飛ばす、必殺の一撃のために敵の少年は構えた。

「死ね」「今です!!」


 冷やかなその一言と、未だ幼さを感じさせる声が響いたのは同時だった。

 一気に大量の足音が響く。

 シエルは地面に右手を押し当てるのと、アイゼンが敵に向かって走りだしたのは同時だった。

「父なる大地よ、今、我と我の仲間を脅威から守りたまえ!!」

 アイゼンは半ば叫ぶように詠唱を終わらせた。アイゼンの盾が詠唱に呼応したように黄土色の光を帯び始めた。


 先ず最初に発現したのはシエルの氷の槍。氷を出すという高位の術式を、敵の少年とリアンの間の足元に顕現させた。

「チッ!」

 敵の少年は足元に光る水色の光に気付いた後、舌打ちをしながら後ろに飛んで氷の槍を回避。

 距離が空いたリアンと敵の間にアイゼンが走り込み、盾の先端を地面に突き立てた。

「ぅぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」

 彼の雄叫びと共に出現したのは巨大な壁。大の大人五人分はあろうかという巨大な壁。

 壁を顕現させたアイゼンはリアンを抱えた。

 しかしアイゼンがリアンを抱えたと同時に大地によって作られた壁は突き崩された。

「小細工しやがって」

 少年の握る漆黒の剣には黒い炎が灯されていた。闇の術式で強化したのだろう。

「ぶっ殺す!!」


 少年が叫び、走りだしたのと、シエルとアイゼンの体が大地から離れたのは同時だった。

 アイゼンとシエルは全速力で疾走する馬車に引きずり込まれたのだ。


 無茶とも思えるその行為は危機を脱するのに十分すぎるほどだった。

 みるみるうちに敵の少年剣士との距離は離れる。少年は追いかけて来ないようだった。

 踵を返し、アイゼンが顕現させた壁――風穴を開けた――の奥に消えてしまった。

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