間章
「どれ、触らしてみ」
「やだよ。見せるだけって言ったろ」
俺は迫り来るアイゼンから背負った剣を守りつつ言う。
「いいじゃん。お願いちょっとだけ」
合掌しても無駄だ。無理ったら無理!!
そんなこんなで俺とアイゼンが不毛な争いをしていると、シエルが準備を終えて宿から出てきた。
「おまたせ〜」
やや小走りで駆けてくるシエルはいつもの軽そうな荷物を肩に掛けていた。
「遅ぇぞ、シエル」
アイゼンが両手を腰に当てた姿勢で迎える。
偉そうな所がちょっとムカっときた。
「ゴメンゴメン」
遅れたシエルは手刀を切って謝罪。
俺とシエル、アイゼンは村の出口に向かって歩き出した。
村の出口はちょっとした谷で道は一本しか無い。その道の始まりに俺たちは立って待っていた。
「新しい剣ってそれ? ちょっと触ってもいい?」
突然シエルが俺の顔を見上げるように覗きこんだ。
アイゼンへの遠回しな意地悪をしてやろう。そう思った俺は素直に貸してやる事にした
「あぁ、いいよ。鋭いから気をつけて」
俺は抜剣。切っ先を下に向けて柄をシエルに差し出した。
「ありがとう!!」
シエルは満面の笑顔を作り、俺の剣を受け取る。それを横で見ていたアイゼン・グリッダ。彼は口の端を引きつらせながら見ている。
「うっわ。前のより重いんじゃない? それに切れ味鋭そうだし」
「丁度いいくらいだよ、その重さは」
俺はあえて、持ってみないと分からないコメントを発した。
アイゼンを見やる。彼は不敵な笑みを浮かべ、唇もひきつっている。それを見た俺はニヤリ。
「なぁ、俺にも貸してくれよ〜」
「どうしよっかな〜」
怒り出す寸前。彼の頬が紅潮する。
「この野郎」
「やるか?」
ふざけ半分、取っ組み合いを開始した。だが、すぐに中断された。背後から掛けられた声によって。
「待って!!」
その声は透き通るように細く、勝ち気な調子ながらも優しさを感じさせる声だった。その声の主は一人しか思い当たらない。
「アリア?」
俺は彼女の名前を口にする。アイゼンやシエルも振り返る。シエルは剣を俺の肩の鞘に戻しつつ振り返ったようだ。
アリアは昨日見たバスケットを下げ、俺たちの前に立った。
「えっと……お見送りに……」
アリアはもごもごと口ごもりつつ言った。
「そっか。ありがとう」
アリアはバスケットを俺に差し出し、言った。
「これ、少ないけど。みんなで食べて」
差し出されたバスケットの中を覗くと、色とりどりのパンがひしと詰め込まれていた。
「こんなに?」
改めて見ると少女の頬はほんのりと赤みをおびていた。
「リアンが好きだった黒パンも入ってるし、フールの実のジャム入りパンとか。おばちゃんに相談したらほとんどくれたんだ」
俺は二人の優しさに心打たれつつ、返した。
「分かった。帰りの道中に食べるよ」
アリアは俯く。どうしたのだろう? 疑問に思う俺だが答えはすぐに出た。
「ねぇ、また来てくれるよね? この村に」
俺は咄嗟の事で戸惑ったが、しっかり答えた。答えは決まっていた。
「必ず。また会えるさ」
「分かった」
アリアの返事はそれだけだった。
アリアは顔を上げる。その目元には雫が溜まっていた。
「ほら、泣くなよ」
俺は指で雫を拭ってやった。
「うるさい!! 泣いてなんかないよ!!」
「大丈夫。また会えるさ」
馬車が到着し、俺たちは乗り込む。
馬車が出発してからも手を振っていた。アリアの姿が見えなくなっても。アリアも手を振り続けてくれた。




