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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
第三章~夢見る少女の鍛冶精錬~
26/50

7.

 朝特有の爽やかな風が俺の頬を撫でる。

 アリアの店へと歩を進める。


 歩いていると、例のパン屋が俺の目に留まった。

(あれ、買ってこうかな)

 以前食べたあの黒パンを食べたくて、店に入店する。


 装飾は無いが綺麗に手入れされた扉を開けると、ほんのりと芳ばしい香りが俺の鼻頭に付く。

 店内には三、四人がパンを買うためにカウンターに並んでいた。

(全員済むまで、他のパンでも見てようかな)



 フールの実のジャムを塗って焼いたパン。ククル茶風味のパン。家畜の肉を挟んだホットドックまであった。

(どれも美味しそうだな。あ!! 黒パン発見)

 どうやら目的の黒パンは最安値だったようだ。他のパンは黒パンに比べ、二十セルくらい高い。

 まだ約束の時間まで結構あるし、ここで時間でも潰そうかな。と、考え色々なパンを見ていた俺だが、新たな来客があった。

「いらっしゃい!!」

 おばさんの挨拶が店内に響く。挨拶を向けられた人物に強烈に見覚えがあった。

「「あ………………」」


 遥か極東に位置する“倭国”に咲き誇る、桜のような薄ピンクの髪をポニーテールで束ね、見たことあるシャツに羽織ったカーディガンを着たその人物は――

「アリア?」

 俺はその人物の名前を自然と発していた。

「リアン!? もう大丈夫なの?」

 少女も自然と言葉を発する。

「お、おう。もう平気」

「良かったぁ」

 アリアは胸を抑え、目を伏せた。左腕に下がるバスケットが気になるので訊くことにした。

「それより、その籠は?」

「これ?」

 アリアはバスケットを持ち上げてみせる。

「まぁいいから」

 アリアは、はぐらかし、店のおばちゃんのもとへ向かう。

「はい!! 今週の分」

 元気な声と共に手に持ったバスケットをおばちゃんに差し出す。

「ありがとね。毎週毎週世話になってるよ」

「これで美味しいパンを作ってね」

「あいよ」


 なるほど、言わなくても分かるということだから言わなかったのか。俺は一人で納得していた。

「そだ、アリアちゃん。なんか買ってく?」

 う〜ん。と考える素振りを見せた後、元気な声で彼女は言った。

「じゃあ、いつものやつで!」

「りょ〜かい」

 おばちゃんは手慣れた手つきで黒パンを取り出し、シャグ粉をふりかける。

「ありがと!!このままでいいよ」

 アリアはパンを受け取ると店を出ようとした。

「行こ!!」

「えっ!?」

 アリアの左手に掴まれて店を飛び出した。

(ちょっと待って!! 俺まだ何も買ってない!!)

 言葉にはしなかった。




「ゴメン!! てっきり買い終えた後だと……」

 アリアが合掌して謝っているので許さざるをえない。

「別にいいって言ってるじゃん」

「分かった。じゃあこれあげる」

 差し出されたのは、アリアが買った黒パン。

「だからいいって――分かった、じゃあ半分こで」

 受け取った俺は黒パンを半分にした。シエルのようにきっちり半分に出来たのでホッと一息。

「はい」

 俺はアリアに差し出す。

「ありがと」

 アリアは受け取ると小さい口でちょこちょこ食べ始めた。



「そういえば俺の剣出来たんだろ?」

 アリアの工房に歩を進めながら問いかける。

「うん。あとは渡すだけ」

「そっか。楽しみだなぁ」

 他愛もない話を交わしながら工房へ歩いてった。




 アリアが扉を開き、俺が部屋内に入る。

 注文をとった部屋の奥の部屋――工房に足を踏み入れる。鉄臭さと油臭さが混じった匂いだが不快感は無かった。しかしこの中で作業しているのに、アリアからは良い匂いが漂ってくるのが少々疑問だ。


「これだよ」

 俺は差し出された剣を受け取る。中々に重い。前の剣と同じかそれ以上だ。


 剣の鞘は黒い革製。鍔は飾り気が無いシンプルな作り。柄にも握りやすいように茶色の革が巻かれていた。

「抜いてみるよ」


 アリアは無言で頷いた。彼女なりにも緊張しているのだろうか。見ると彼女の手は傷ついていたり、それを手当した跡があったりした。

 俺は彼女の努力に胸を温めつつ、柄を握る。

 剣はとても握りやすかった。革を何回も巻いては解いてを繰り返し、握りやすいようにしてくれたのだろう。


 俺は、鞘から剣を一気に引きぬいた。右手に頼もしい感触がよみがえる。

 刀身は全ての光を集めたような眩い純白。刃の部分を軽く指でなぞってみると、指の腹が切れた。

(軽く触っただけなのに……)

 驚いた。これほどの切れ味は中々出せない。これも彼女が研いでくれたからだろう。

「振るから、離れて」

「分かった」

 俺は我慢が出来なかった為ここで振る事にした。

 

 アリアと十分に距離をとって俺は構える。

「ハッ!!」

 短い気合と共に剣を一閃。なんてこともない垂直斬りだ。それは確かな感触を俺の全身に残した。


「凄いよアリア。こんな剣初めてだよ」

「そう……良かったぁ………」

 アリアはペタリと地面に座る。

 俺は剣を鞘に戻して背中に背負う。その後アリアに駆け寄った。

「ありがとな。こんな素晴らしい剣作ってくれて」

「いいの。あんたとの冒険も楽しかったし」

 アリアは首を小さく横に振った。

「あっ!!」

 俺は一つ、思い出した。

「お値段は…………お幾らなんでしょうか?」

 こんな業物は相当な値がするだろうが。鍛冶師アリアは決めていたように、確固たる決意を秘め、首をゆっくり横に振った。

「お金は要らない。楽しかったあの冒険で十分よ」

「そ、そっか………」

 俺は鞘から剣を僅かに引き抜いて純白の刀身を背中越しに見た。


「ほら、明日ここを発つんでしょ? 準備しなきゃ」

「それもそうだな。分かった」

 俺は刀身を鞘に戻す。“チン”という歯切れの良い、心地良い音が工房内に響いた。

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