5.
「はぁ、はぁ」
アリアは走る。とある少年をおぶって。
「ぅあ!!」
石畳に転びそうになるがなんとか持ち直し走る。
(確か宿屋は……こっち)
この村に医者はいるが、そこまで腕が良いわけではない。この傷を見れば分かると思うが、すぐに直さなきゃ致死量を越えてしまう。確か仲間がいるとか言っていたような。
リアンは魔法術を使えた。という事は仲間も使えると思う。
少なくともこの村の医者よりは頼りになる筈だ。
負傷した少年を背負い、ポニーテールを揺らして走る。
「ここ?」
古くもないし、新しくもない。
豪華じゃないし、劣ってるわけでもない。
良くいえば一般的。悪く言えば影が薄い。
アリアはとりあえず、宿の扉を開けた。
「いらっしゃ? あら? リアン君? どうしたの? その怪我」
女将がカウンターから飛び出し近づく。アリアは笑って答えた。
「ちょっと事情が」
「まぁいいわ。シエルちゃんが水の魔法術使えた筈だから部屋に運んでちょうだい」
「あ、はい」
言われるままにリアンが滞在しているという部屋に入る。
「おわっ何!?」
金髪でガタイの良い青年が驚きの声を漏らす。
(ノックも無しだったことだしなぁ)
「お客さん?」
濃い紺色の髪を肩まで垂らした女の人が顔を出した。歳はアリアと同じくらいだろうか。
恐らく例の“シエルちゃん”はリアンを見て血相を変えた。
「リアン? 怪我してるの!?」
少女の問いにアリアは答えた。
「え、えぇ深い傷を胸に」
「そう。速く入って」
「は、はい」
ややニヤニヤしていた青年も真剣味のある表情に切り替わっていた。
「そう、このベッドに寝かして」
少女の指示に従いベッドにリアンを寝かし、包帯代わりの布を解いた。
「あとは大丈夫。離れてて」
少女は言うと両手をリアンの傷口にあてがう。
「また無茶したんだね」
濃い紺色の髪を肩まで垂らした少女は微笑んで少年に語りかけている。
「大丈夫。今助けるから」
少女の動作一つ一つをアリアは唾をのみ、見守った。
「助けてくれてありがとな」
横から声を掛けられた。見ると短い金髪の青年が横に佇んでいた。男性は苦笑交じりで続ける。
「あいつ無茶ばっかりだからな」
「沢山助けてもらいましたから」
アリアも苦笑交じりに続けた。
「そういう奴だからな」
二人は少女の処置を黙って見守る。
濃い紺色の髪を肩まで垂らした少女は魔法術の詠唱を開始した
「海の力を利用する。命を生み出した母なる海。色は青、属性は水。命を生み出す原理を用いて傷を癒せ」
少女の手の平に淡い青の光が満ちる。その光はリアンの痛々しい傷に触れると輝きを増した。
それだけだった。
リアンの傷は完治していた。傷跡も残さないくらい綺麗に治っていた。
「おつかれシエル」
隣の青年は少女の肩を叩く。
「うん」
シエルと呼ばれた少女は隣のベッドに腰をおろした。
「大丈夫……ですか?」
アリアは少女の体調が気になった為尋ねた。
「少し目眩がする程度かな。休めばすぐ元気になるよ」
高位術式行使による魔法力の枯渇によるものらしかった。
「そうですか」
ほっ、と胸をなでおろす。
「あとはコイツが目を覚めるまで待つんだな」
「ええ、そうね」
その時、濃い紺色の髪の少女が何かを思い出したかのようにアリアに向き直った。
「そうだ、あなたの名前は?」
アリアは突然名前を聞かれ、わずかに戸惑ったがすぐに答えた。
「アリアです。アリア・レムナーク」
聞いた濃い紺色の髪の少女は優しい笑みを浮かべて名乗った。
「あたしはシエル・ラーグナー。よろしくねアリアさん」
「よ、よろしくです」
アリアは手を差し出され、握った。
「俺はアイゼン・グリッダよろしくな」
「は、はい」
続くアイゼンともアリアは握手を交わした。




