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剣戟の幻想物語 とある少年の冒険記   作者: やきたらこ
第一章~遭難から始まる出会い~
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2/50

1.

 俺――リアン・ディールは、地図を片手にラグス領内の森を彷徨っていた。

「なぁ、ほんとに抜けられるのか?」

 俺は旅の相棒――アイゼン・グリッダに不安を込めて問いかける。するとアイゼンは後頭部を掻きながら、

「多分こっちだと思うんだけどなぁ」

 強烈に不安を掻き立てさせる返事を寄越した。

「大丈夫かよ」



 時は夕刻。王都へ向かうには時間的に厳しい。「手前の町まで急ぐから森を突き抜けよう」と提案したのは、お調子者の相棒、アイゼン。確かに地図通りなら、前に滞在していた港町を北上して森を挟み、次の町がある。森を迂回するルートもあるのだが、半日ちかく掛かるので、森を抜ける決断をしたのだ。

しかし、森を舐めてた俺たちを待ってたのは、森に生息する魔獣たちの洗礼だった。子鬼ゴブリン骸骨騎士スカルウォーリアだけならまだ良かった。

 しかし、狼型魔獣の群れなどから必至に逃げたり、振り切ったと思って寄りかかった木、それ自体が魔獣だったり。

 とにかく、色々あって方角を完全に見失った。頼りの方位磁針も壊れていてあらぬ方向を指すだけだった。

 途方に暮れた俺たちはとにかくカンで――いつもなら星や月の位置から方位を見つけるが、今夜は曇天だ――森を進んでいた。



「おい、リアン。今夜は野宿の覚悟かもな」

 相変わらずヘラヘラした様子でアイゼンは俺に話しかける。

「一体、誰のせいでこうなったと思ってんだ」

「んだとぉ。てめぇが、はやく王都に行きたいって言うから」

「分かった分かったから」

 俺への文句を流されてふてくされるアイゼンを無視して俺は歩を進めた。

 その時、俺の前方で仄かな、しかし確かな温かさを宿す灯りが見えた。

「おい、アイゼン」

「あぁ。見えてる」

 アイゼンの顔は嬉々とした表情を浮かべていた。恐らく俺も同じような表情を浮かべているだろう。今にも駆け出したい衝動を抑え、深呼吸を一つ。

「行こう、アイゼン」

「あぁ」

 俺たちは泊めてもらえるべく交渉に向かった。



 そこは小さな村だった。人口十数人程度の。

 事情を話したら温かく受け入れてくれた。貸してくれた部屋はというと…

「あなたたちが例の旅人さん? えっと、私はシエル。シエル・ラーグナー。よろしくね」

 俺と同じくらいの歳の女の子。が握手を求めてきた。

 紺色を更に濃くしたような色の髪は肩にかかるくらいの長さ、布製の服を身に纏っている。瞳はブルー。そしてやや小振りの体からは身軽そうな印象を俺に与えた。

「俺はリアン・ディール、こいつはアイゼン。よろしくな。それと…お世話になります。ほんとありがとう」

 俺は彼女の手を握り返した。

「気にしないで。広いからさ、自由に使っていいよ」

「それじゃお言葉に甘えて」

 アイゼンが荷物を部屋の隅にドサっと置いた。おいおい、ちょっとは礼儀を――

「あなたもくつろいでいて」

 ふいにシエルに顔を近づけられドギマギしつつ、「う、うん」と返事。正直自分が情けない。

「私は村の会合に出るから、またね」

 シエルは言うことを言ってそそくさと家を出てしまった。俺は荷物をアイゼンの隣に置いてベッドに腰掛けた。

(それにしてもあの娘、可愛かったなぁ)

「リアン」

 アイゼンに呼ばれ、ふしだらな思考を止めた。

「な、なんだよ」

「お前ぇ、『あの娘、可愛かったなぁ』とか考えてんだろ。お兄さんはお見通しだぞ」

 アイゼンに完全に思考を読まれてた。何故分かる? 一つの疑問を胸に抱いて。俺はベッドで体を横に倒した。

「かわいい奴だなぁ」

 アイゼンは俺の黒髪をワシャワシャとかき回す。俺も仕返しにアイゼンの茶髪をかき回した。





 シエルは村の会合に遅刻した。

「遅れましたぁ。ごめんなさ〜い」

 いつもは遅刻したシエルを注意する長老は、チラリと視線を向け言った。

「客人をもてなしていたならば、仕方あるまい」

 シエルは村人たちの間に座る。長老は話を続けた。

「続けようかの。ここしばらく村の者がさらわれる事件が起きておる。なにか対策を取らねば」

 村の会合は日が沈むまで続いた。




「つかれたぁ」

 シエルは伸びを一つ。それにしても誘拐だなんて物騒だなぁ。ぼんやり考えているうちに家に着いた。中では今夜限りの同居人が寝てるんだろう。

「(ただいまぁ)」

 シエルは小声で玄関をくぐる。

「あれ?」

 アイゼンという青年(?)はグースカ寝ていたが、リアンという少年の姿が見えなかった。どうしたのだろう。

 シエルはとりあえず家の裏手に回ってみた。案の定、少年は家の壁にもたれかかるように座っていた。シエルは彼の姿に気づくと、自然に声をかけていた。


「眠れないの?」

 声をかけられて初めてシエルの存在に気付いたらしかった。

 少年のやや長めの前髪からシエルを見つめる漆黒の瞳は何か寂しげな色を湛えていたが、すぐに優しい笑顔がその色をかき消した。

「なんか、目が冴えちゃって」

 シエルはこの少年と、もっと話がしたいと思った。

 自分でもなぜだか分からない、しかしこの少年に強く惹かれた。

「隣、良い?」

 聞くと、少年は、「いいよ」と一言。彼は少し左に移動し、場所を作る。シエルが少年の隣に座った。


 沈黙が二人の間に流れる。口火を切ったのは少年の方だった。

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