10.5.
少年は薄い蒼の光を纏っていた。その表情は憤怒に歪んでいる。そんな少年を彼は初めて見た。
彼の知ってる少年は魔法術の欠片も扱えない。剣術に秀でただけの唯の人間だった筈だ。しかし彼の見た少年は幻想的な光を身に纏い、通常は一種類のみの得意属性を多数扱っているように見えた。
「なん…………だってんだ?」
ふと彼の口からそんな言葉が零れた。
少年は飛翔する。自身を浮かせる程の浮力を生み出す風の術式は、風属性を得意とし、尚且つ修練を重ねた者にしか扱えない芸当のはずだ。
そして少年は炎剣を生み出し竜の攻撃を受け止め、竜を地面に叩き落とす。
彼の目は驚愕で見開かれていた。目の前の現象を全て眼に焼き付けるように目を見開く。左足の痛みなど全く気にならなかった。
黒髪の少年と蒼鱗の巨竜は対峙する。
一方は口元に火の粉をちらつかせ、
一方は足元に金の光を迸しらせ、
一瞬の閃光。のちに巨竜は倒れた、絶命したようだった。その顔からは生気を全く感じない。
「リアン!!」
彼は少年の名を呼ぶ。しかし彼には聞こえていないようだった。
やがて、少年の手元から剣がするりと抜け落ち甲高い音を立てた。
その後すぐ、彼は倒れ伏した。仕事を終えて疲れきった体を布団に投げるように。
彼は動かない足に鞭打って立ち上がり、少年に駆け寄った。
「良かった。死んでねぇみてぇだな」
彼は少年の生存を確認すると安堵の息を吐く。そんな彼の元に少年に助けられた少女が駆け寄る。
「リアン……は?」
少女のその瞳は不安焦燥恐怖心配等、様々な思いが駆け巡っていた。そんな少女に彼は優しい声音で、
「大丈夫だ。お前を守って今は気を失っているだけだ」
彼の言葉に少女は熱い雫をこぼし、膝からガクリと落ちる。
「良かった。本当に良かった」
少女は溢れ出る雫を何度も拭き、少しだけ声をあげて泣いた。
彼は気を失った少年を背負い、ラヴェンヌ村への帰路に着いていた。左足の痛みは少女の水属性治癒術式により完全に払拭されていた。
彼の足の怪我を治癒した少女は、彼が背負った少年の顔を覗き込んでいたわるような視線を向ける。度々少年の頬を伝う汗をハンカチで拭いていた。
その表情が真剣そのものである事に、僅かながら微笑してしまったのは誰にも言わない事にする。




