10.
ドラゴンの吐き出した灼熱の火球が着弾する。俺たちはそれぞれに散って避けた。
シエルは魔法術の詠唱を開始、走りながら言葉を紡ぐ。俺はそれを視認してドラゴンに向かって走りだす。アイゼンも俺に続いた。
「セイッ」
俺は気合と共にドラゴンに斬りかかる。しかしドラゴンはたくましい腕で俺を吹っ飛ばす。
「が…はぁ………」
俺は地面との激突のせいで肺の空気が全て吐き出される。
「はぁ」
俺は呼吸を整え、ドラゴンに向き直る。
ドラゴンは地面に足を付け、アイゼンに猛攻を加えていたところだった。俺はアイゼンに加勢するべく駆けこんだ。
しかしアイゼンがドラゴンに飛ばされる。俺はアイゼンとぶつかり、地面を二人転がった。
ドラゴンの標的は詠唱中のシエルに変わった。
シエルは式句を紡ぎながら避ける。
彼女の身のこなしには毎回舌を巻く。俺は再度走りだした。
「うねる激流を束ね全てを流す水の球となれ」
彼女の詠唱が俺の耳に届く。俺は剣を握り直し、ドラゴンの左足を斬りつけた。だが、浅い傷と共に鮮血が少し吹き出しただけだった。
「まだ浅いか」
ドラゴンはシエルに火球を放った。その火球にシエルは完成した術式をぶつける。
水球と火球がぶつかり、激しいエネルギーの奔流が生まれる。シエルはそれに吹き飛ばされ、遺跡の壁にぶつかった。どうやら意識を失ったようだった。
ドラゴンは意識を失ったシエルにゆっくりと歩を進める。
「させ、るかぁ!!」
俺は両手で得物を握り、力一杯ドラゴンの腹を斬りつける。深々とえぐられ、真っ赤な鮮血が勢い良く吹き出した。
「グルァァァァァ!!!」
ドラゴンの注意が俺に向く。迸る灼熱の火球が俺を襲う。俺は剣を構えたが耐えられず後方に飛ばされる。その際、剣が俺の手から滑り落ちる。
「く、っはぁ!!」
俺は地面をバウンドしながら数メト転がった。
アイゼンが立ち上がろうとするも、左足を負傷したようでなかなか立てずにいるようだ。
シエルは意識を失い、体を横たえている。
シエルに向けられる焼けつくような視線。
ドラゴンはその獰猛なアギトをゆっくり開く。ヨダレが滴り、シエルの頬を伝う。絶望的な戦況ばかりが俺の視界に広がる。
「く、そ…………がぁ」
このままでは彼女が食い破られる。
あの竜によって。
それだけはさせない。
彼女が死ぬ理由など絶対に無い。
眩しい笑顔を振りまく少女、不安げな表情を浮かべる少女、旅人に憧れていた少女、その少女の命が潰えようとしている。
「俺の仲間は………………シエルは絶対に殺させやしない!!」
その瞬間、俺の視界は薄い蒼に染まった。
俺は力が入らない足に無理やり力を込める。筋肉が嫌な音を立てるが、構わず立ち上がった。
不思議となんでも出来る気がした。
ドラゴンとの距離はかなりある。少し走らなければいけない。しかしそれだけの時間も無い。
それに愛剣も落としたままだ。導き出される結論は一つ。
魔法術。俺に残された選択肢は一つだった。
今まで成功したことは無い。
しかし今は自然と出来る気がした。彼女を、シエルを救う事を。
俺は右手をドラゴンに向けて開く。そして意識を集中させる。
すると、俺が右手を掲げた空間からドラゴンの吐いた火球よりも大きい火球が生まれ、ドラゴンの頭部に向かう。
火球は一瞬でドラゴンとの距離を詰め、頭部に直撃した。
直後ドラゴンを爆発が襲う。
「ォォォォオオオアアアアア!!」
ドラゴンは咆哮をあげ、飛翔した。
俺は剣を広い、足の裏に魔法力を集中した。爽やかな風が吹き出す。
そして俺は一気に風属性魔法術式を展開。
俺はドラゴンと同じ高さまで上昇。
しかしドラゴンはそのたくましい腕で攻撃をしかけるが、俺はそれを片手で握った剣で受け止めた。
腕と剣は互いに微動だにしない。ドラゴンは右腕を使って、がら空きの左側に攻撃を振るう。俺は左手に炎で形作った剣を出現させそれも受け止めた。
三度目の攻撃としてドラゴンはそのアギトを大きく開く。しかし俺はドラゴンの顎を思い切り蹴りあげた。ドラゴンは力を失い、ゆっくりと墜落する。
俺は足の裏に風の属性の術式を展開し、ふわりと着地した。対してドラゴンは、頭から派手に墜落する。落下の衝撃により地面の石が割れた。
ドラゴンはゆっくりと立ち上がり俺に向かって突進を始めた。
俺は足に雷の術式を込めた。
瞬間、俺はドラゴンの背後に居た。俺がもと立っていた位置から今立っている位置を黄色の軌跡が結ぶ。
直後、鮮血が吹き出した。俺は赤い鮮血をその身に浴びる。ドスンと、巨大なものが倒れる音が聞こえた。そして視界の蒼が段々と薄まって元に戻っていく。
俺の身から力が抜け、剣を落としてしまう。カラン、と甲高いを立てて地面に剣が転がる。そして俺は体を支えられず、
倒れた。
段々と暗くなる意識の中でシエルがゆっくりと体を起こすのを視認できた。




