9.
「あ、足が痛い」
俺は丘を登った感想を漏らした。ここまで魔獣との戦闘は無かった。代わりに地獄のような丘上りをなんとかこなしたところだ。
「もう、歩けない……」
シエルも隣で膝に手をつく。そしてアイゼンも寝転がった。
「動きたくねぇ」
照りつける太陽。俺たちは蒸し蒸しとした暑さに身を晒し、少し休んだ。
俺たちは座っていた。疲労が俺たちの言葉を奪っていた。しかし唐突にシエルが口を開いた。
「ねぇ見て」
シエルが指し示した方を見るとラヴェンヌの景色が一望出来た。人は小さすぎて見えないが畑に一面の緑が広がっていたりした。その光景を見れただけで登ってきた甲斐があった。
「…………………………」
シエルは口を閉じる。俺も同様に気持ちが沈んだ。恐らくアイゼンも
「俺たちがやらなきゃな」
二人は無言で頷く。
俺たちの視線の先にはえぐられた大地、破壊の限りを尽くされた村の一部分があった。
俺は剣を抜き、先端に炎を灯した。魔法術と呼ばれるそれは、俺には上手く扱えない。せいぜい武器などの、“道具を媒介にした小さな術式”しか発動出来ないが今は明かりがあれば十分なのでそれで良かった。
遺跡内。薄暗い屋内に俺の灯火が闇を切り裂く。黄土色の石を組み上げられた遺跡は昔にアクノス崇拝に使われた物だった。供物を捧げる祭壇も今は朽ちて植物のツタが這う。
「暗いね」
シエルは俺の服の裾を掴んで不安げに呟く。遺跡内は闇が支配していた。明かりは数カ所のヒビから差し込む日の光と、俺の剣の先端に灯る炎。俺の炎は弱いため、数メトしか照らせないが……
「止まれ!」
アイゼンが俺の肩を掴んで制止させる。
「なんだよ」
「妙な音が聞こえる」
アイゼンに言われ、耳を澄ます。確かに静寂に紛れてガチャ、ガチャと鎧が擦れる音が遠間隔で聞こえる。
おまけに、段々と大きくなっている。
「近づいてる?」
シエルは不安を隠せない様子で音がする暗闇を見つめる。
音の主がすぐそこまで迫っているような、ものすごい遠くにいるような奇妙な感覚が俺たちを包む。そこでアイゼンが俺とシエルの前にスッと出た。既に長刀は抜かれ、盾は前方に構えられている。
「リアン、シエルを頼む。それから、明かりをもうちょっと強めてくれ」
その声音は真剣そのものだ。普段のアイゼンとは明らかに雰囲気が違う。
「分かった」
俺は一言告げ、左手でシエルの肩を抱き寄せ、俺に近づけ、右手に握る剣に意識を集中させる。すぐに炎は一回り大きくなる。それに応じて光は闇を切り裂いていく。そしてゆっくりとソレは姿を表した。
ソレは全身を黒い紫の鎧に包み、両手で大剣を持つ。しかし力がこもっていないのか剣はだらりと下に垂れる。剣はそれ自体が淡く弱い光を発していた。剣だけじゃない。兜の隙間、ひざあての隙間、肩部装甲の隙間などから剣と同じ様に淡い紫の光が漏れる。
アイゼンは腰を落とし、足に力を入れた構えを取る。ジリっと足音が聞こえる。紫鎧の方も重そうな剣を軽々と中段に持ち上げる。構え自体に力みは無い。あれでは急な動きは無理だ。
瞬間、俺の予想は大きく裏切られた。
紫鎧は恐るべき速さでアイゼンに肉薄し、大剣を一閃。アイゼンの反応が遅れる。
「チッ」
アイゼンは舌打ちして長刀で紫鎧を薙ぐ。紫鎧も反応が速い。攻勢の大剣を防御に転じさせ、一撃を受け止めて後ろに下がる。
俺とシエルはアイゼンと紫鎧の戦闘を見て唾を飲み込む。
今度はアイゼンが走りこみ、長刀で一突きする構えを取る。紫鎧も長刀の一撃に合わせて大剣での防御に移行する。しかしアイゼンは長刀ではなく、盾を構えて突進した。紫鎧は咄嗟の事に対応出来ず、突進をもろに食らった。
紫鎧はアイゼンの突進を食らい、派手に後方へ吹っ飛ばされた。
俺は明かりを強くするように右手に握る剣へ力を込める。剣はそれに呼応し炎をより一層煌めかせた。
そして辺りの闇が払われる。紫鎧の姿が見える。
紫鎧はガクリとうなだれている。その手には既に大剣は握られてなく、近くに転がっていた。そして鎧の各隙間から漏れていた淡い紫の光は消えている。
気付いた俺は大剣に目を見やると、同様に大剣からは光が失われていた。
アイゼンは紫鎧に近づき、長刀の剣先を向ける。
「俺たちを襲うたぁ、どういうつもりだ」
紫鎧が返す返事は沈黙。
「答えろ!!」
アイゼンが怒鳴り、鎧に覆われた足を一突き。その後、俺たちを驚愕が襲った。
――足が無い!!――
鎧の中はからっぽだった。アイゼンの突きを受け、鎧の右足部分がガタガタと音を立てて落ちた。それを皮切りに次々と鎧が音を立てて崩れる。
「なんだったんだ?」
俺たちに考える余裕は無かった。突如、俺たちを激震が襲う。ぱらぱらと天上から砂が落ちてくる。
「クソッ!! ドラゴンか!?」
アイゼンが叫び、走る。俺とシエルもアイゼンに続いて外に出た。
遺跡上部。そこは遺跡内の通路を登り切って辿り着いた場所。風もやや強い場所に突風を生み出す巨大な存在がいた。
――ドラゴン――
それはあらゆる生態系のトップに君臨する王者。他にもヒュドラ、キマイラ等が挙げられる。いずれも鋭い牙など恐ろしい武器を有する。その中でもドラゴンは群を抜いて気性が荒く、敵意を向けずとも襲いかかる。
俺たちは蒼鱗の竜を見上げる。
竜は敵意を向ける俺たちを見下ろす。
俺たちが抜剣したのと、竜が獰猛なアギトから灼熱の火の粉を漏らしたのはほぼ同時だった。
メト………メートル
セチトル………センチメートル
ケイル……キロメートル
謎の単位が出てきて驚いた方もいるかと……作中で説明すると世界観が崩れるのでコチラで説明させていただきます。




