7.
「馬車〜は揺れる〜どこまでも〜」
歌うのはアイゼン・グリッダ。長旅に嫌気がさしたのだろう、馬車内のガラス窓から外をじっと見つめる。
「はぁ。もう飽きたぜ」
アイゼンは嘆く。その姿を俺とシエルは溜め息と共に見つめた。
王都から東に向けて出発してから半日が経過していた。途中に休憩を挟んだりしているが、アイゼンが飽きるのも仕方ないだろう。実際俺も飽きてきた。
そんな俺たちに粗暴な救世主からの吉報が入った。
「おぃ!! てぇら!! 目的の村が見えてきたぜ」
その報せを聞いた途端、俺たち三人はがっつくように車内前方の格子――運転手と会話する為前方のみ格子――に飛びついた。格子からは整えられた農村が見える。とうとう、着いたんだ。俺は涙ぐんで、小さい感動を胸にしまった。
ラヴェンヌ村。俺たちが半日揺られて辿り着いた村はそう呼ばれていた。広い農園や畑が特徴の村で、シエルの居た村とは全く異なる印象を俺に与えた。
「きれいな村だよな」
「えぇ」
俺とシエルが会話する。アイゼンは『宿を探してくる』と言って一人でどこかへ行ってしまったため、俺とシエルは中央広場のベンチに座って待っていた。
「ここの人も優しいよな」
「うん。パン屋のおばさんからパンをタダでもらったよ」
「マジか。王都でそんな事は………………」
「一度も無かったね。『お嬢ちゃん可愛いね、この村の人じゃないでしょって』」
シエルは苦笑混じりで答える。街の人はお金稼ぎに忙殺されているのかなぁ。俺はぼんやりと考えた。
シエルに視線を戻す。彼女はポーチからカーキ色の小さい袋を取り出していた。
「なにそれ?」
「ん?」
シエルは俺から視線を外し手元の小さい袋に視線を落とす。
「これ?さっき話したパン屋のおばさんからだよ」
例の物品だった。
シエルは小さな袋からパンを取り出す。それはシンプルな黒パンにシャグ粉―甘い調味料―を振りかけただけのものだった。
シエルはそれの中央を持って半分に割る。お、ちょうど半分だ、おみごと。
「はい」
シエルは左手に持ったパンの片割れを俺に差し出す。
「ありがとう」
俺は差し出されたパンをありがたく受け取る。
「これね、ホントは六十セルするんだけど」
「へぇ〜。大きい街だとパン一個百セルくらいだよなぁ」
この村の人は欲を張らないという事だろう。シエルは俺から黒パンに視線を戻し口元に持っていく。そして『はむ』っと可愛らしい一口でパンをかじる。続いて俺も口にパンを運ぶ。
「美味しい」「美味い」
俺とシエルは同時に感想を漏らした。やや固い黒パンを噛む間にシャグ粉のほんのりとした甘みが口中に溶ける。しばらく噛んで甘みが消えた辺りに黒パンも喉を通る。ただ甘いだけじゃなく、黒パンが後味を良くしてる。
こういうものを作れる人を“職人”っていうんだな。
俺とシエルはひたすらにパンをかじる。あっという間にパンは二つ共無くなってしまった。
「今度、沢山買いに行こうぜ」
「うん!! 他にも色々なパンを見てみたいね」
「おっす。御二人さん、お揃いで」
後ろからアイゼンに声をかけられた。
「おっす。で、見つかったか?」
挨拶をアイゼンに真似てみてから尋ねる。
「おう!! いい宿が見つかったぜ」
その後俺たちはアイゼンの案内により、宿に向かった。




