5.
俺が宿屋の一階の酒場フロアに入ると、シエルとアイゼンが手招きをした。隅っこのテーブル席――アイゼンとシエルが取っといてくれた席――に腰掛ける。
「どこまで行ってきたの?」
妙に上機嫌なシエルに問いかけられる。
「ちょっとそこまで。って言いたいけど、少し遠出したかな?」
「ふ〜ん」
アイゼンも朝のコーヒーを飲みながら相槌を打つ。食べ終わってないのは俺だけだ。俺は適当に注文――お腹はすいてるが二人が食べ終わっているので量は少なめにする――をとった。
しばらくして料理が運ばれてくる。メニューは、軽いサラダにパン一つ、ククル茶一杯――仄かな甘味が特徴の人気のお茶――だ。本当はもっと食べれる。
「なんだよ、俺のいない間におもしろそうな事に首突っ込みやがって」
俺は先ほどの出来事を二人に話した。全く危なげ無かったのでシエルに怒られずに済んだ。
「おかげでほら。十万セル」
俺は財布を取り出し、お札を見せる。
「私も挑戦してみたかったなぁ」
シエルは俺と同じ飲み物――ククル茶――の満たされたコップの水面を見つめた。
「シエルが挑戦しても余裕だったと思うよ」
「そうかな?」
シエルはコップに口を付け、ククル茶を少し飲む。俺たちの中に微妙な沈黙が訪れた。それを破ったのは意外な人物だった。
「もしも〜し。お話良いかな?」
俺は両肩に手を置かれ振り向いた。そこに立っていたのは一人の男性だった。馴れ馴れしい態度でせまってきた男性は、空いていた席に勝手に着く。
「誰だ?」
アイゼンの口調と表情が厳しくなる。彼やシエルも警戒しているのだろう。俺も自然と身が強張る。
「怪しい者じゃないですよ〜ほらこれ」
男が胸ポケットから取り出した物は、この国の軍部の者である証――胸章だった。
「た、確かに身分は証明されたけど」
シエルも不安と疑念の入り混じった声が漏れる。兵服も着ていないしチャラチャラした印象を受けるし、雰囲気が怪しいし。
「恐縮ですがあなた方の名前は?」
男が尋ねるとアイゼンがすぐさま切り返した。
「先ず自分が名乗るべきでは?」
アイゼンはこういう時鋭い。俺は内心で感心する。
「私? 私は名乗るほどの者ではございません。軍の一兵士です」
男は笑顔で応じる。
「えっと。軍の人間が俺たちに何の用で?」
俺は素朴な疑問を口にする。男は笑顔を輝かせ、説明を始める。
「よくぞ、訊いてくださいました。実はですね――
とある村の近くの遺跡に竜、すなわちドラゴンが住み着いてしまったのです。ドラゴンは夜中に暴れたり、建物を全壊させたりで猛威を振るいます。その村の住民たちは困り果てまして、軍の方に相談を寄越しました。『ドラゴンのせいで困っています〜』と。しかし戦争間近の今の緊迫した状況はご存知の通りだと思いますが、戦争の火種を潰そうと忙しく軍や王は動けません。そこで聡明な王は思いつきました。『助っ人をスカウトすれば良いのだ』と。そこで私のような端くれの出番なのです。『街に出て腕の立つ者を連れてまいれ〜』
といった具合です。はい」
話を聞き、ある程度の状況は掴めた。
「あ、ちなみに。報奨金はたんまり出るのでそちらの方はご心配無く」
と補足説明。
「となれば、俺たちに断る理由なんて無いんじゃないか?」
俺の意見にアイゼンが同意したが、シエルは『?』の表情を浮かべるので俺は囁いた。
「(ほら、俺たちって決まった稼ぎ口が無いだろ?)」
俺の説明にシエルはコクコクと頷く。
「(だからこういう事でたんまり稼ぐってワケ」
「(あ、なるほど!)」
シエルに納得してもらえたところで男――もとい依頼主に向き直る。
「その話、乗らせていただきます」
朝食を摂り終えた後、軍部の男について行く。軍本部、ではなく、ラグス城に入城した。




