4.
黒髪の少年――リアン・ディールが筋骨隆々の巨漢と大立ち回りを演じる少し前まで時は遡る。
「今朝未明、グローザ帝国の方で出兵を確認しました」
「シェルバント共和国の方でも、なにやら不穏な動きがあるようです」
「只今、グローザ帝国軍の攻撃によって苦戦中である北端のアルス砦より緊急要請が入りました」
様々な悪い報告が、矢継ぎ早にされ、アルバート・ラグス・ディメンティは頭を抱える。
彼は今、側近のバルゴ・シュールと共に自室で頭を悩まされていた。
「王、挫けてはなりませぬぞ。御三方で築いた平和でございます。きっと御二方の誤解によるものでございましょう」
側近のバルゴの言葉に王――アルバートは眉間を抑え、俯いた。
「分かっておる。分かっておるわ」
発端は一週間前。いつもと同じような晴天の日だった。突然にグローザ帝国がシェルバント共和国の東端砦を攻めた。共和国側は激怒。報復として国境際の砦を攻め落とした。帝国はラグス王国に応援要請を申し出てきた。だが王国側はそれを蹴った。
これ以上戦争はしたくなかったからだ。
しかしここ数日になって帝国からの進行も受けるようになっていた。
共和国からの同盟要請はあったが、王国側は受理しなかった。あくまで戦争はしない、防衛の形に固執していたからだ。
そして今日、共和国側の方でも怪しい動きを見せていた。
「なにか、なにか手は無いのか」
アルバートは思いを馳せる。
「それにしても何故グローザ帝国は、デルクス皇は攻撃を始めたのか?」
しかしアルバートの思考は扉のノックによって遮られた。
「お時間よろしいでしょうか?」
見知った兵士の声だった。
「入れ」
アルバートは告げ、兵士は扉を開けて入り込む。左胸に右手の平を当てる敬礼を取り、兵士は報告を続けた。
「王都近郊の村付近の遺跡に竜――ドラゴンが住み着いて非常に困ってるとの要請を受けたので、軍の一部を動かす許可をいただきに参りました」
アルバートは兵士の報告に思わず目を覆った。ただでさえ人手不足なのだそちらの方に人員が割ける筈が無い。しかし側近のバルゴは何か気付いたような表情を作り、アルバートに囁いた。
「なるほど……いい考えだ」
「なんでこの俺が」
とある一般兵士が毒づく。上官の命令では仕方がないのだが、「適当に良い人材を見つけてこい」なんていう無茶ぶりを押し付けられたのであった。
「しかもドラゴンと渡り合うレベルだと?いるわけねぇじゃんかよ」
兵服を着ていない兵士は歩く。まだ人気の少ない街を。
ある時、人だかりが目に入った。なんだろう? 怪しく思って近づくと――どうやら賞金を懸けたタイマンのようだった。
「お!?」
彼のポリシーは利用できるものは何でも利用することだ。たとえ尽くすべき主君であろうが。
とある兵士はそれを見物している事にした。良い人材がすぐに見つかるであろう事を見越しての判断だった。挑戦者が男を討ち取ればそいつをスカウトすれば良いし、誰も討ち取らなければその男自身をスカウトすればいい話からだ。
案の定、適任者はすぐに現れた。最初の挑戦者はてんで駄目だったが、続いての挑戦者である黒髪の少年は恐るべき手練であった。
黒髪の少年の、去りゆく後ろ姿を見ていたとある兵士の口元には笑みが…………




