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エピローグ

 町の片隅で、シホとハクアが向かい合っている。

「そっくりですよねえ」

「本当、そっくり」

 お互いに、苦笑顔を浮かべている。

「髪型まで一緒だものね」

「私、髪型変えようかなあ」

「大丈夫。人が見れば姉妹と思うわ」

「まあ、私は成長が止まってるから」

「けど、数年も経てば私は老けて、貴女は綺麗なまま。時間って残酷だわ。若返りの薬、少しくすねておけば良かった」

 冗談めかしてシホは言う。

「私だって、歳相応の外見になりたいんですけどね。私達、似たような歳なんですよ」

「おい、出発するぞ」

 ジンがシホを呼びに来た。剣士隊の服ではなく、旅装に身を包み、腰には剣がある。

「なんだか裁かれに行く気分だわ」

 シホは苦笑交じりに言う。

「お前は被害者なんだから、気にしなくて良い」

「けど、私は人を殺したわ。何人もね。その人達にも、親や子はいただろうに」

「……それは、今後、お前が人生の中で償ってくしかない。それこそ、世界を救うぐらいのことをすれば良いんじゃないか」

「……ジン、変わったね」

 シホは、切なげに微笑む。

「昔のジンは、もっと慰め方が下手で、すぐにうろたえる子だった」

「何年経ってると思ってるんだ。ったく」

「そうだね。何年も、経っちゃったね……」

 気まずい沈黙が、二人の間に漂う。

「お土産、買ってきてくださいね」

 ハクアが言って、胸元で小さく手を振る。

 ジンは大きく手を振って、シホの背を押しながら歩き始めた。


 獣道を歩いた先に、ジン達の故郷はあった。

 見張り台の鐘が鳴る。

 リンが駆けてきた。畑仕事をしていたのだろう。服のあちこちに泥がついている。

 彼女はシホの姿を見つけて、眼を大きく見開く。

 シホは戸惑いながらも、リンに歩み寄った。その背を、ジンが押す。

 リンは眼に涙を浮かべて、シホに抱きついた。

 シホも、泣くのを堪えるような表情でリンを抱きしめ返した。

 マリは、ジンの陰に隠れてそれを眺めながら、我が事のように嬉しく思った。

 シホの帰還に、小さな集落は大いに沸いた。

 ジンの家では酒盛りが始まる。猪が焼かれ、振舞われる。

 ジンが赤い顔の幼馴染達に囲まれるのを、マリは戸惑いながら見ている。

(案外、故郷でも人望があるらしい)

 いや、捻くれものの師だが、どういうわけか男の友人はいつも多い。それがマリには不可思議でならない。

「マリさん、もっと食べてね」

「ええ、頂いてます」

 ジンの母に言われて、マリは咄嗟に目の前の料理を口に入れた。

 ジンの母は、優しげな初老の女性だった。

 この人がジンを育てたのか。この家でジンは育ったのか。不思議な感慨が、マリの中にある。

「で、お前らいつ結婚するんだよ」

 幼馴染の一人が、ジンに問う。

「結婚って、唐突だな」

 ジンは、困惑の表情になる。

「再会してあんまり経ってないんだろ。いきなりそんな話にはならねえよ」

 幼馴染の一人が、嗜めるように言う。

「それはそうか。けど、結婚するのは決まってるんだから、どうせだからお祝い続きと行こうぜ」

 幼馴染はその話題で盛り上がって、ジンは弱り切った表情で、シホは小さくなりながらもジンの反応を窺っている。

 どうやら、自分が来る必要はなかったようだ。マリは苦笑して、そんなことを思った。


 夜になると、マリは足音を殺してジンの家を出た。

 涼やかな風が吹いている。旅には、丁度良い気温だった。

 空には満月が輝いている。

 少しだけ、師と手を繋いで見た満月の輝く海を、マリは思い出す。

 苦笑して、その思い出を脳裏から追い出すと、マリは歩き始めた。

「行ってしまうんですか?」

 背後に立っている人影があった。

 眼を凝らしてみると、リンだった。

「うん。師匠がシホさんと会話が続くか心配だって言われてついてきたけれど、上手くやってるようだし。私はお邪魔虫かなって」

「この前の町ではごめんなさい。まさか、シホさんが帰ってくるとは思わなかったから。私、色々言っちゃって」

「良いの良いの。どうせ、私と師匠は最後には別の道へ行くってわかってたから」

「けれども、数年一緒に旅をした仲なのでしょう? お別れも言わずに去るなんて、寂しすぎるじゃないですか」

「これで良いんだって。話したら、またぐだぐだになるのは眼に見えているから。師匠は師匠で幸せになれる場所を見つけた。それで、私は満足だから」

「……あの港町に、戻るんですか?」

「寄り道もするけれど、最後にはそうなるんだと思う。他に、故郷と呼べる場所もなくてね。あの賑やかで、少し乱暴で、暖かい町でしばらく過ごそうと思う。それに、師匠と連絡は取れるんだ」

 そう言って、マリは右手の小指にはめた指輪を見せた。

「相手の位置や感情を察知できる指輪。これがあれば、困った時にはいつでも呼び合える」

「……絆が、あるんですね」

「どうなんだろうね。私達の関係をどう形容したものか、わからないけれど」

 マリは言葉を切る。

 自分達の関係はなんだったんだろう。師を呪いから解放しよう、師を守ろうと今まで戦ってきた。その戦いも終わり、二人の間にあった一つの繋がりは消えてしまった。

 それでも、まだ心の中に繋がりがあると、マリは感じている。

「また旅に出るようなことがあれば、助力するって伝えてよ。師匠の故郷を見れて、嬉しかった」

「……ありがとうございました、マリさん。マリさんがいなかったらきっと、兄ともう一度会うことなんて出来なかった」

「ううん。こっちこそ、一杯大切な時間を貰った。私の人生の中でも、きっと忘れられない時間を」

「マリさん……」

 リンが、少しだけ眼を見開く。

「貴女は、兄のことを好きなのではないですか?」

 マリは、言葉に詰まった。適切な言葉が思いつかなかったのだ。

 そのうち、誤魔化すように苦笑して、こう言ってのけた。

「戦友だよ。一番の、ね」

 こうして、女は去って、男は故郷に帰った。

 しかし、遠からず二人の道が再び重なるのではないか。そんな予感が、マリの中にはあった。

 それは、希望的観測だったかもしれないが。

 数年にも続いた、二人で過ごした楽しい旅を思い返しながら、女は一人森の中へと消えて行った。




港町の遺跡探索編は今回でおしまいです。

最後まで読んでくださった方、稚作ですがつきあってくださってありがとうございました。

そのうちまた同じ登場人物達の物語を書くかもしれませんが、次回は超能力者物を書きたいな、とぼんやりと思っています。

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