VSイッテツ
ちょっと来週時間がある時にちょいちょい文を加筆修正するかもしれません
内容は修正なしです
「人はどうして歳を取るんですかねえ、ジン君」
夕下がりの道場で、師が、ある日ふと漏らすように言った。
その時のジンはまだ十代だった。歳を取る実感など、まだあまりない。わかるのは、なんとなく自分の手足が伸びきったことぐらいだ。
「自然の摂理でしょ」
ジンは淡々と返す。
「まあ、言ってしまえばそうなんですけどね」
師は、苦笑交じりにそう言って、拗ねたように言葉を付け加えた。
「いけないな、ジン君には情緒というものがない」
どうやら話しに付き合って欲しいようだ。
仕方なく、ジンは木刀を振りながら言葉をかけることにした。
師は、座り込んでジンのそれを眺めている。
「先生は、歳をとりたくないんですか?」
「ええ、取りたくはない。願わくば、今の年齢で永遠を生きたい」
師は冗談めかしてそう言った。
「何の為に?」
「強くなるため、ですかねえ」
「今でも先生は十分に強いですよ」
ジンは呆れるしかない。
師は、ジンにとっては雲の上の存在なのだ。
「俺の剣がかすりもしない。道場じゃ俺も強いほうなのに」
「それはまだ、ジン君が私より弱いというだけ。しかし、いずれそれも変わりますよ。君はこれから伸び、私はこれから衰える。時間というのは残酷なものだ」
「無理ですよ」
ジンは断言する。自分が師に勝てるわけなんてないと、そう堅く信じ込んでいたからだ。
「いいえ。例えば昔話をしましょう。かつて大陸を統一した王がいた。軍事的な強さで言えば、彼は大陸で最強だった。けど、今はどうでしょうね」
「……まあ、当人は故人だし、統一国家そのものがなくなってますが」
「そういうことです。人も、強さも、偉業も、消えていくものなのです。いずれは長い月日が経てば、かの偉業を成した統一王の名すら霞むようになるでしょう。衰え、弱り、消えて行き、後続に追い抜かれるのが人の運命なのですよ。はて、彼のような覇者に成りえない私のような影響など、何処まで残るか、どうか」
「考えるだけ無駄ですよ、センセ」
ジンは弱気になっている師を、少し可愛らしいと思った。面倒臭いとも思ったが。
「人はどうせ最後には死ぬんです。死んだ後の考えても仕方がありません」
師は、声を上げて笑った。
「君はその歳で達観しているなあ。私もいっそ、君のような性分に生まれたならば良かった」
それでも、と師は言葉を続ける。
「それでも、私は永遠を手にしたい。最強の剣士として君臨したい。後続に道を譲りたくなどない。その渇望が、私に剣を振らせているのです」
「……俺にはわかりません。元々、執着が薄い性質なので。周囲の仲間を守れるだけの強さがあれば良い」
師匠は困ったように唸った。
二人の目指す終着点は、重なる気配はない。
「……まあ、面白いものですよ、強さと言うものは。この歳になっても、新しい発見がある。ジン君、君には才がある。もう少し本気で打ち込んでみても楽しいのではないかな」
「本気で打ち込んでますよ」
「そうでしたね。君はいつも飄々としていますからね。どこか、本気に見えない。常に余裕を持っているように見える。その余裕をかなぐり捨てた君ならば、私に一太刀入れることも可能かもしれませんよ」
「無理ですよ」
ジンは面倒臭くなってきたので、機械的に返事をする。
「君には才があると言ったはずですが」
「才だけじゃ、先達の積み重ねた修練に届きません」
「いえ、才というものは残酷なものでね。先達の十歩を一歩で踏破するような化け物が、たまに現れるものだ」
ジンは、返事が出来ない。
「君は化け物にはなれない。けれども、天才にはなれる。羨ましい話しだ。未来がある若者は、全て眩しく、羨ましい」
師匠は話をして少し満足したのか、腰を上げて去って行った。
ジンは困惑しながらその後姿をしばらく眺めていたが、すぐに素振りに戻った。
まだ若いジンには、師の話は今ひとつピンと来なかった。
それは、もう十年近い過去のことだった。
剣と斧がぶつかり合い、火花を散らす。
オークの群れを相手に、ジン達は戦っていた。
ジンがオークの間を縫うようにして走った後には死体が次々に転がっていく。
マリが力押しでオークに隙を作り、次々に切り伏せていく。
二人の討ち漏らしを、ハクアとクロウが的確に斬り殺していく。
あっという間に、十数匹のオークの死体が地面に転がった。
「そろそろ、くたびれてきたな」
剣を肩に担いでジンが言う。呼吸が、やや乱れていた。
「俺はまだまだ行けますよ?」
マリが悪戯っぽく微笑む。鞘に剣を収める動作には、淀みがない。
「あー、さっきの間違い。俺もまだ行けるわ」
「あー……余計なこと言っちゃった。嘘です、嘘、俺疲れてます」
「なら私もまだ平気ですね。ハクア様の護衛として、そいつに遅れを取るはずなどない」
クロウは、剣を鞘に収めた。やや、息が切れている。
「二人とも、常人ならもう倒れこんでる頃合ですよ。そろそろ起きているのも限界でしょう。意地など張り合っても得などないと思うのですが」
ハクアが、呆れたように言う。
どれだけ体に負荷を受けても瞬時に回復する呪いを身に受けている彼女は、そもそも疲労などしないので、平然としている。
「私は疲れたかな」
ハルカゼが、穏やかに微笑んで言う。あまり戦闘面で活躍していないハルカゼは、まだ体力に余裕がありそうなものだった。
ジンとクロウは、呼吸を乱しながらお互いをじろりと観察する。
「休むか」
ジンが、呟くように言った。
「お前とハルカゼさんが言うなら仕方ないな」
クロウは、不承不承といった感じで答えた。
「違う、俺が言ったんじゃない。ハルカゼさんが言ったんだ」
「二人とも、辞めてくださいまし。また魔物が来ますよ」
ハクアが、呆れたように言った。
五人は道を戻って宝箱のある部屋に入り、荷物を降ろして座り込んだ。
宝箱のある部屋には、どうしてか魔物が現れないのだ。
魔物が宝物を破壊しないようにという配慮なのではないかと、ハルカゼは語っていた。
宝箱の中身は、空だった。
部屋の明かりは、消えることがない不思議な松明が維持している。
ジンは皮袋から食料を無造作に手に取り、口に入れる。
干物を噛んでいると、体内で固まった疲労が少し溶けていく気がした。
「あー、酒が飲みたいな」
ジンはぼやくように言う。
「ジンさんは寝酒がないと眠れないタイプの方ですか? やはり、このような場所では気を張ってしまうと」
ハクアが興味深げに聞く。
「その人は単にお酒を飲みたいだけだよ」
干物を頬張りながらマリが言う。
「遺跡でお酒にはもうこりごりだ。持ってきてるなんて言わないでくれよ」
ハルカゼは苦い顔で言った。
「うい」
ジンは投げやりに答える。
「それじゃあ、仮眠を取る順番を決めようか」
ハルカゼの提案に、クロウが手を上げた。
「ハクア様が起きている間だけ仮眠を取ります。それ以外の時間は私に任せて下されば良い」
ハクアが頭を抑えた。
「クロウ。そうやってふらふらになるのは貴方の勝手ですけどね。それとも、私に仮眠を取るなと言うのかしら」
「ハクア様の御身を思ってのことです」
「クロウ君。我々は仲間だ。そんな邪な思いなど抱いてはいないよ」
ハルカゼがやや戸惑いつつも言う。
「何かあっては後の祭りなのです。ハクア様が起きていない限り私は起き続けます」
ハクアは呆れたように溜息を吐いた。
「そうやって移動中に転寝をして死に掛けたでしょう、貴方」
「あのう」
マリが手を上げる。
「長いスパンで仮眠を取ればどうかなあ。まずは俺とハクアさんが起きてるよ。次はハルカゼさんと師匠とクロウさんで起きていれば良い。俺なら間違いが起こることもないでしょ?」
クロウは腕を組んで唸った。
「……やむをえまい」
「やむをえまい、じゃありませんよ」
ハクアがクロウの物真似をしつつ、言った。
「貴方の為に皆いらぬ工夫をしているのです。少しは反省なさい」
「私は反省しなければならないようなことは何一つしておりません」
「この石頭……」
ハクアが、小声で言う。
「お嬢さんも苦労するぜ」
ジンは投げやりにそう言って、既に横になっていた。
疲れていたので、すぐに意識は闇の中に落ちていった。
「ジンさん?」
ハクアが声をかけても、ジンは反応しなかった。
「凄い、一瞬で寝ちゃった」
ハクアが感心したように言う。
「不安要素が寝たようなので、私も寝ます」
クロウもそう呟くと、横になった。
すぐに、その口からいびきが漏れ始めた。
「それじゃあ、私も寝させてもらいますかね。見張り、お願いします」
ハルカゼも横になって、寝息を立て始めた。
「皆、疲れてたんでしょうね」
ハクアは苦笑した。
「マリさんは大丈夫なのかしら?」
「私は身体能力が強化されてるから。師匠も、根本的な体力が違うのに意地張っちゃって」
「ちょっと、先が思いやられますね」
ハクアは苦笑した。
「こんな調子で、疲労している時に強いモンスターや他領の剣士と戦いになったら、どうなることやら」
「あー、確かにそうだよねえ。この二人、なんだか意地張り合っちゃうみたいだから、私も発言には気をつけよう」
「意地を張り合ってる二人がくたくたになって、私達は体力が余っているとは、皮肉なものですね」
ハクアは苦笑いを崩さない。
「随分下の層まで降りてきたねえ」
「地下十一階、でしたか。ここまでハイペースで降りてきたおかげで、食料にはまだまだ余裕がありますね。ここまで降りたの、私初めてです」
「最高記録はカミト領の地下三十二階です」
ハルカゼが、目を瞑ったまま答えた。
マリが驚いたように肩を震わせる。
「その辺りで食料が辛くなってくる。しかし、カミト領より良いペースでしょうね」
ハルカゼは穏やかな声で言った。
「起きてたんですか、人が悪いなあ」
マリは苦い顔になる。
「失礼、女子同士の会話に邪魔をしてしまったかな」
女子同士、という言葉にマリは苦い顔になる。
「俺は……」
「我々は仲間だ。秘密ぐらいは共有しても良い。そう思いませんか?」
マリは困ったように黙り込んだ。
「普段からやり取りを見ていればわかるものですよ。私だけ仲間はずれにして、人が悪いな」
ハルカゼは悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言うと、宣言するように言葉を続けた。
「寝ます」
二人は顔を見合わせて、しばし沈黙する。
そのうち、互いに苦笑して、再び話し始めた。
「地下に三十二階。考えてみれば、とんでもない話ですよね。どれだけ深い穴を掘ったんだろう」
「魔術が禁じられる以前には、よほど凄い魔術師がいたのかなあ。何処まで降りれるんだろうね」
「地の底まで通じていたりして。あるいは、死者の世界や、神々の世界に」
「なんか怖い話とかだと帰れなくなるパターンだよね、それって。嫌だなあ」
「心配しなくとも、地の底に着く前に食糧が尽きますよ」
ハクアは、子供をあやすように言った。もっともな話だった。
「それに、我々の目的は、きっとそれまでに果たされるでしょう」
それは、願うような声にマリには聞こえた。
「師匠ー」
マリに揺さぶられて、ジンは目を覚ました。
体を起こして、周囲を見回し、すぐに腰に剣を差す。
「ああ、引き継いだ」
「お願いします。もう眠くて」
そう言って、マリは欠伸をして、泥のように眠ってしまった。
「私も寝ます。睡眠を取らないと、集中力に関わりますので」
ハクアもそう言って、横になる。
クロウはいつの間にか、起きて胡座をかいていた。
「お前は寝ていて構わんぞ」
クロウが視線も合わせずに言う。
「お前なんぞに俺の睡眠を任せられるか」
この遺跡に入ってからだ。元々持っていたクロウへの苦手意識が、ジンの中で膨れ上がっていた。
元々、変な男とは思っていたのだ。ハクアのような善良な少女を苦悩させている点も、ジンにとっては鬱陶しく感じられる。
その男が、ジンに敵意をむき出しにしている。
いくらジンが面倒くさがりとはいえ、この状況では嫌味の一つや二つも出てくると言うものだ。
「俺はお前なんぞにハクア様の睡眠を任せるよりはマシだと思っている」
「俺はお前がお嬢さんに何かしでかさないか不安だから起きてるよ」
「私がハクア様に狼藉を働くと言うのか……」
クロウの声が低くなる。
その手が、剣の柄に伸びた。
「仲間内で体力を消耗しても仕方ないでしょう」
いつの間にか起きていたハルカゼが、苦笑顔で言った。
「我々の睡眠の為に起きていてくれた二人に対して、それは失礼なことではないかな」
クロウはしばし黙り込んでいたが、剣の柄から手を離して、座りなおした。
「クロウ君はどうしてそうハクアさんに執着するのかな。誰もハクアさんを傷つけようとは思っていませんよ」
「……ハクア様を守れるのは私だけだからです。私には、責任がある」
「お嬢さんにとっては重たいだけだろうな」
ジンは、吐き捨てるように言う。
「俺は貴様のように軽薄な人間とは違うのだ」
クロウも、吐き捨てるように言った。
「軽薄ということはありませんよ。マリさんとジン君は固い絆で結ばれている」
ジンは、ハルカゼの言葉に背筋が寒くなるのを感じた。
「ハルカゼさん。寒いことを言うのは辞めてくださいよ……」
「ジン君が危機に陥ったら、マリさんはがむしゃらになってその場に現れた。我が身を顧みずにね。マリさんが危機に陥っても、ジン君が必死になって駆けつけるでしょう。二人はそういう間柄に私には見える」
「ハルカゼさん、お願い。やめて」
ジンは、蕁麻疹が出るのではないかと思った。
マリとの間に強い絆があるだなんて、ジンは思いたくなかった。
あるのはただの腐れ縁だ。ジンは少なくとも、そう感じている。
例えマリがジンを師として慕おうが、ジンにとってマリはただの道連れでしかない。
それが、ジンの言い分だった。
それを説明しようかとも思ったが、もしもマリが寝たふりをしていれば反論されそうだったのでやめた。面倒臭かったのだ。
「……この男に、そんな情があるとは思えませんね。普段から弟子を軽んじ馬鹿にしている。師としての能力は知りませんが、人間性は最悪だ」
「否定しねえよ」
ジンは安堵したようにそう言った。
「どうしてマリさんがお前のような男に懐いているのか私には理解しかねるな」
「知りたいか?」
ジンが皮肉っぽく笑って言う。
「餌で釣ったのさ」
クロウは苦い顔になった。
「ほら、見てくださいハルカゼさん。この言い草だ。こんな情の薄い男を信頼しては将来の禍根になりますよ」
「さらりと人の株を下げようとしてるんじゃねえよ。俺とハルカゼさんはこう見えても修羅場を一緒に潜った仲だ」
ハルカゼは、困ったように苦笑しているばかりだった。
ジンとクロウの間にある距離は、縮まるどころか離れていく一方だった。
不思議なことに、縮まったのはクロウとマリの距離だ。
気がつくと、二人は戦術論を交わす仲となっていた。
この隊は、攻撃力の順に並んでいる。
ジンとマリが先頭。ハクアとクロウが二列目。ハルカゼが三列目だ。
マリとクロウは縦に並んで歩いている形となり、自然と会話も増えた。
「あの場合、スピードで押すより確実に一体ずつ屠ったほうが良かったのではないか?」
「そうは言いますけどねえ、時間をかけるってことは敵に体勢を整える時間を与えるってことなんですよ? 数で劣る時こそ、電光石火の一撃で痛打を与えるのが上策ではないでしょうか」
「なるほど。しかし、壁を背に戦うと言う手もあるのではないかな。バラバラに戦うよりも、五人でお互いをフォロー出来るという強みがある」
「まあ、敵の堅さによりますよね。堅い殻を持ったモンスターに囲まれることでもあれば、試してみるのも良いかもしれない。そういう相手には電光石火の一撃も何もありませんゆえ」
五人の足音と、二人の戦術論だけが遺跡の中に響き渡る。
二人とも、根が真面目な性質なのだ。お互いの案を真剣に検討している。
現在は隊列の最後尾に置くのは強い人物であるべきか弱い人物であるべきかを論議している。
マリは前衛が敵の隊列を撃破しつつ突破することを前提に話し、クロウは敵に囲まれつつ辛くも撃破することを前提に話しているので会話は今ひとつ噛み合っていない。
「熱心ですねえ」
ハクアが、小声でジンに話しかける。
「摩訶不思議な遺跡の冒険が真面目ちゃんの集会所になっちまった」
ジンは聞こえよがしに言う。
クロウのような粘着質な男が、マリと仲良くしているのもジンは面白くないのだ。
「何も対策もせずに駆ける男より良かろう」
クロウが鬱陶しげに返す。
「師匠だってウラクさんとは打ち合わせしてたじゃないですか」
マリも不服げだ。
「今の戦力ならゴリ押しで十分だろうってこった」
ジンは面倒臭げに言う。
先頭を歩くジンは、クロウの不信の視線を感じながらも歩き続けていた。
「ゴリ押しで勝てない敵に当たった時はどうするつもりだ」
クロウが問う。
「お互いフォローしあえない実力じゃないだろう? 俺の背中はお嬢さんが守ってくれるしな。お前はうちの馬鹿弟子とお嬢さんをフォローしてればいい」
「今更だが、そのお嬢さんや馬鹿弟子という言い方も引っかかるな。貴様という人間は、軽薄で、人を馬鹿にしていなければ気が済まんのだろうか」
そんなの、自分とマリやハクアとの間の問題ではないかとジンは思う。
クロウに文句を言う権利など何処にも存在しないはずだ。
苛立ちは、嫌味となって口から吐き出た。
「お前さんのあだ名を考えた。レールの上を規則正しく走るトロッコだ。横道に逸れりゃあしねえ」
「そのあだ名で呼んだ瞬間に叩き切ってやろう」
「やめてください、二人とも」
呆れたようにハクアが言う。
「日に日に険悪になって行って楽しいのですか?」
ハクアは、本当に困りきった表情だった。
「今のパーティーはサクマ領で最高のメンツだと思います。そのメンツで冒険できて、なんの不足がありましょう。目的を達成するのに最適な環境を自ら破壊する気ですか」
「そうですよー。師匠もクロウさんも仲良くしましょうよう。二人とも良い人なんだから」
「この女の子に付きまとう粘着気質な男が良い人?」
「この薄情で人を小馬鹿にした男が良い人?」
二人は疑わしげに、同時に言ってのけた。
ハクアの深い溜息が遺跡に響き渡った。
「まあ、まあ。せっかく下の層まで来てるんだ。一つ、大きな宝でも狙いましょうよ」
ハルカゼが言って、五人は黙々と歩き始める。
そのうち、ぽつりぽつりとマリとクロウの戦術論が再開され、ジンは苦い顔でそれを聞き続けていた。
「私の呼び名なんて今更な話じゃないですか。よっぽどクロウはジンさんが気に入らないのね」
仮眠の時間に、マリはハクアに言った。
今日は、十九階まで進んでいる。
階段の発見に手間取り、昨日よりペースは落ちた。
ハクアが柄になく愚痴っぽくなっている。
どんどんメンバーがギスギスしてきたな、とマリは思う。
ジン、クロウ、ハルカゼは寝入っている。
今日は、クロウのいびきは聞こえない。
「メンバーの相性ってのも大事なんだねえ」
マリは、愛想笑いをすれば良いのかどうかわからず、曖昧な表情で言った。
「まあ、クロウと相性が良い男の人なんて、ちょっとイメージつきませんけどね。困ったなあ……」
ハクアは膝を抱えて項垂れている。
「いや、師匠も悪いよ。なんでクロウさんとムキになって張り合うんだろう」
普段のジンなら、もっと上手く受け流すのではないかとマリは思うのだ。
ジンがマリ以外の人間をここまで手酷く罵ったのは今回が初めてだ。
「クロウのことは嫌いではありません。しかし、私の最近の悩みといえば大体原因はクロウです」
ハクアは相当気が滅入っているようだ。
それもそうだろう。今日はずっとギスギスした雰囲気のまま一日を過ごしたのだ。
このまま地上に戻るまで八日程を過ごしたらどうなるのだろう。
イメージすると、空恐ろしくなってくるマリだった。
最良のパーティーが分解される。その事態だけは、回避しなければならなかった。
「質問がある」
クロウが、唐突に声を上げた。
「起きていたのですか、クロウ」
呆れたような表情でハクアが言う。
「ええ、申し訳ありませんハクア様。気になることがって、寝付けませんでした」
「なら、私の声も聞こえていたということですね。行動を改める気はありませんか」
「あの男が行動を改め丁寧な人間になれば、私も自然と行動を改めましょう」
「……石頭」
ハクアが小声で、溜息混じりに言う。
「で、気になったことというのはなんなのです」
「マリさんに、質問したいことがあるのだが」
「はいな?」
マリは、重いムードの中で急に指名されて、飛び跳ねそうになった。
「なんでしょ。答えられることなら良いんですけど」
「マリさんはあの男に忠誠を尽くし、慕っているように見える。どうしてですか。あの男に、ハクア様のような人間的魅力があるとは思えない」
「私も人間的魅力があるとは思えないんですけどねえ……」
ハクアがぼやくように言う。
マリは、慕っていると改めて言われると、なんだか照れてしまった。
「そんな、慕ってなんかないですよ。やだなあ、クロウさんは」
「しかし、あの男が危機に陥った時に、マリさんは我が身を顧みずに助けに入ったと言います。また、常にあの男の傍には貴女が居る。しかしあの男が貴女に吐きかけるのは馬鹿にするような言葉ばかりだ。どうして、あの男じゃなければならないのですか」
「んー……そうですねえ。改めて言われると返事に困っちゃうなあ」
マリは悩んでしまった。
マリにとって、ジンの傍にいるのは当たり前のことだった。ジンはマリの恩人だし、呪いを共有したと言う成り行きもある。
しかし、それ以上の理由が今となっては生まれている気がする。
それを、マリは具体的に言葉にすることができない。
それが、恋愛感情では無いことだけは確かではあるが。
あの男に惚れるぐらいならば道端の樹に惚れたほうがよほど幸せになれるだろう、と考えるほどに、マリはジンに異性としての魅力を感じてはいない。
「なんか、ピーンと来ちゃったんですよ」
「ピーンと来た?」
クロウが、不可解なものを見るような表情になる。
「そう、ピーンと来た。ツボに入ったというか。口ほど悪い人じゃないんですよ、あの人」
「なんだか、駄目な亭主をフォローする奥さんのようですね……」
クロウは、半ば呆れているような口調だ。
「誤解されやすいけど、本当は優しい人なんです」
「うん、確かに駄目な亭主をフォローする奥さんみたい」
ハクアも、少し面白げに言う。
「それに、こうも思えるんです。私がベストさえ尽くせば、師匠は必ず応えてくれるって。師匠になら無条件で背中を預けられる。師匠のヘマで私が死ぬのなら悔いはないって思います」
マリは淡々と言って、ふと自分の言葉に照れるように頬をかいた。
「まあ、ヘマをする可能性は私のほうが高いんですけどね」
「これが信頼関係というものですよ、クロウ」
ハクアが、じっとりとした目でクロウを見る。
「いえ、ただの妄信だと私は思いますね」
「貴方がそれを言いますか」
ハクアは、溜息混じりに言う。
今日はよほど疲れている様子だった。
「あの男は、何かに応えて頑張るとか、そう言った風には私には見えない。ただ成果を出せる男と言うだけです。その実体は言われた仕事、目の前にある仕事を黙々とこなしているだけで、その瞳は周囲を受け入れずに馬鹿にしている。実力面では認めていますが、性格面で認める気はまったくない」
「実力面で認めた相手を性格で毛嫌いする貴方にも性格的な問題があるのですよ」
ハクアの言葉はいっそ嫌味になっている。
「私は自分の意見を曲げる気はありません」
「トロッコ男」
ハクアは、小声で呟いた。
「マリさんもこう感じたことはないのかな。あの男は自分に心を開いていないと。斜に構え、心を閉ざし、周囲を小馬鹿にしていると」
「……まあ、そういえば、心を開かれたーって感じたことはないですねえ」
ついつい認めてしまったマリだった。
何故なら、マリはジンについて何も知らない。どうして旅をしていたか、どうして人生の暇つぶしと称してマリを救ってくれたのか、何も知らないのだ。
クロウも案外、人間観察をしているらしい。
「けど、私は師匠を信じてるんだと思いますよ。あの人が善人なのは知っています」
「……理解しかねるな」
クロウは結局、納得できないようだった。
「きっかけがあれば打ち解けれますよ、クロウも。相手との距離をちょっと大きめに保つ人なだけで、悪い人ではありません」
ハクアの意見は案外的を射ているな、とマリは思う。
それにしても、面倒臭がりな師がここまで人と対立するのも珍しいな、とマリは思った。
クロウがジンを毛嫌いするのもハクアの影響が大きいのだろうし、その逆もまた然りなのかもしれない。
そう考えるとハクアはもてるのだなあとマリは思ってしまうのだった。
何かずれた結論に着地した気がしたマリだった。
単純に、自分を毛嫌いする人間と上手くやろうとするほどジンの人格ができていないのかもしれなかった。
三日目の冒険は、二日目の険悪なムードを引きずっての出発となった。
会話もなく、五人は黙々と遺跡を進んでいく。
ただ、パネルを発見して意見が分かれた時などは最悪だった。
「この階層の宝箱なんざ残ってないだろう。このパネルは無視だ」
「残っていたらどうする。我々は重要なものを見逃すかもしれないのだぞ」
「行って無駄足踏むぐらいなら下の層を目指したほうが良いよな?」
「無駄足になるかわからんと言っているのだ」
空気が一瞬で凍る。
「まあ、一応確認だけはしておきましょう」
ハルカゼが結論をさっさと出して、五人は行動に移る。
一触即発の空気があった。
ハクアは気が滅入っているようで、明らかに微笑み顔が強張っている。
それを見て、マリはますます気が重くなるのだった。
いっそ解散したい。マリの心に、そんな思いが浮かび始めた。
ただ、足だけは自然と進み、日数も過ぎ、五人は気がつくと三十五階まで辿り着いていた。
「……結構ハイペースでここまで来ましたが、そろそろ食料が怪しいですね」
ハルカゼが言う。
「今回は宝箱運にも恵まれなかったし、少々残念な冒険でしたね」
「ツキのない奴が居るんだろう」
ジンが言って、マリが心の中で悲鳴を上げる。
「笑顔の少ない人間を幸運の女神は嫌うという。誰のことだろうな」
クロウが聞こえよがしに言う。
ハクアの微笑が強張ってきた。
沈黙が場を包んだ。
「まあ、この階層を調べて、何もなければ引き返しましょう。帰り道で食料が尽きるというのは避けたい」
ハルカゼは飄々と笑って歩き始めた。
五人もそれに従い、隊列を組んで歩き始める。
人影が見えてきたのは、しばらくしてのことだった。
細い通路だった。
人が三人通るのがやっとというほどの、細い道。
その中央に、人が胡座をかいている。彼の足元には、パネルがある。
その相手の顔を見て、ジンは目を見開いた。
「……先生!」
そう、そこに座っていたのはジンの師匠であるイッテツだったのだ。
「流石はジン君。我が国最深記録にようこそ。しかし、ここから先は通行止めだ。カミト領が調査をさせて頂いている」
「これはおかしな言い分だ。宝物は早い者勝ち。同時ならば代表を立てて決闘というのがしきたりでしょう」
ハルカゼが、一歩前に出る。
「通行止め、と言いました。横を通ろうとする分には構いませんよ。しかし私は、通す気はないし、それで死んでも自業自得」
イッテツは立ち上がり、剣の柄に手をかけた。
腰を落とし、いつでも一瞬で剣を抜けるように構えている。
イッテツの剣は細く、欠けた月のような緩やかな曲線を描いている。
しかし、その切れ味の凄まじさをマリはジンから伝え聞いている。
「間合いに入って来るのは貴方達だ。それは襲って来たに等しい」
「師匠、あのパネル……!」
マリは、悲鳴のような声を上げていた。
イッテツの足元のパネルは、盃の絵柄だった。
聖なる泉を否応なく連想させるパネルだったのだ。
クロウは、動けなかった。
イッテツの間合いに入ることが出来なかった。
間合いに入れば斬られる、という予感があった。
ジンと対峙した時にも似たような予感を覚えたクロウだが、今回はその時の比ではない。
イッテツは、間合いに入ったものを一瞬で斬り殺すことだけに特化した姿勢を取っている。
それが、クロウの目にもありありとわかったのだ。
「この先に居るのはセツナさんですかね」
ジンが、物憂げに言う。
イッテツは頷く。
「戦力は一箇所に集中させるべきだ。貴方達もそうしているようにね。つまり、私を切り抜けても貴方達に勝ち目はない。引きなさい。命は惜しいでしょう」
「珍しいパネルですもんねえ。独占したい気持ちはわかる」
絶望的だった。
この先に待ち受けているのは、この町の剣術大会の優勝者と準優勝者のコンビだ。戦っても被害は甚大だろう。
地下三十五階で手傷を負うのは、中々に厳しい。
せっかく泉が見つかる可能性が見えてきたのに、諦めるしかないのだろうか。
ハクアに危険なことをさせるぐらいなら、退くべきなのだろうか。
クロウがそう考え始めた時のことだった。
ジンは腕を組んで、頷きながらイッテツに近づいていく。
そして、イッテツの間合いの一歩外で、足を止めた。
「マリ」
「はい」
マリが、緊迫した口調で答える。
「やれるか? 相手はセツナさんらしいが」
その問いに、マリはしばし悩んだようだった。
「三段階解放で、なんとか互角程度には……なると、良いなあ。相性、ちょっと悪いかなあ」
「じゃあ、問い方を変える。やるか? やらないか?」
マリは考え込む。
「俺はどっちでも良いぞ。案外水は豊富にあって、後から行っても残ってるかもしれねえ」
「私は、やりますよ」
ハクアは、迷いなく言っていた。
「今回は散々な冒険でした。一つぐらい良いことがあってもいいはずです」
悲哀の篭った一言だった。
「……揉め事は、困るなあ」
ハルカゼは苦笑顔でそう言った。
しかし、その言葉には続きがあった。
「が、ルールを先に破ったのは相手方だ。これでサクマ領が舐められるのは困る」
しばしの沈黙が流れた。
「やります。私、後悔したくないから」
マリが、覚悟を決めたように、そう告げていた。
「じゃあ、ここは俺に任せとけ」
ジンは、その一言で十分だとばかりに剣を抜いて、中段に構えた。
「先生、誰か斬ろうと剣を振ったら、その瞬間に俺が貴方を斬り殺します」
「……ほう」
イッテツが目を細める。
その唇の端が、上を向いた。
二人はこう着状態で睨みあった。
「さっさと行け」
ジンが投げやりに言う。
「お前……」
クロウは、呟くように言っていた。
何かを言いたい。しかし、その先の言葉が出てこない。
ジンはこの場で足止めをすると宣言したのだ。しかも、自分より格上の師を。
その理由は、ただ一言だった。
弟子が戦いを望んだからだ。
情が薄い男だと思っていた。
周囲を小馬鹿にした嫌な奴だと思っていた。
けれども、この男は、いざという時にマリの心に応えた。
憎まれ口を叩くだけの男ではなかったのだ。
「それに、こうも思えるんです」
数日前の夜、マリと交わした会話が脳裏に蘇る。
「私がベストさえ尽くせば、師匠は必ず応えてくれるって。師匠になら無条件で背中を預けられる。師匠のヘマで私が死ぬのなら悔いはないって思います」
ああ、この二人は通じ合っているのだなと、クロウは今更ながらに感じていた。
だからといって、ジンの言動をクロウは好意的に見ることは出来ない。
好意的に見ることは出来なくとも、認識を改める必要はあるようだった。
(こいつは嫌な奴だ。嫌な奴だ、けれど……いざという時に希望を繋いだのも、この状況を任せられるのも、それを弟子の望みなんかの為だけに請け負ってくれるのも、こいつしかいない……)
マリが、駆け出した。
そして、迷いなくイッテツの隣を駆け抜けて行った。
ハクアも、ハルカゼもその後に続く。
「どうした、お前も早く行け。ハクア様が危険だぞ」
ジンが投げやりに言う。
「格好つけて、一人で死ぬなよ」
クロウが辛うじて言えたのは、そんな台詞だった。
ジンが笑ったのが、気配で感じられた。
「お前こそ、口だけじゃなく腕も立つことを証明するんだな。その為に呼んだんだ。ハルカゼさんじゃ少々厳しい。フォローしてやってくれ」
お互いに、お互いの役割を任せられる存在。
それを、仲間と言わずしてなんと言おう。
クロウは苦笑して、イッテツの横を駆け抜けて行った。
「さあて、邪魔者はいなくなりましたね」
イッテツは微笑んで言う。
「……まあ、先生の望み通りのケースになったわけですね」
ジンは最早諦めの篭った苦笑を浮かべ、肩をすくめた。
「ええ。この町で貴方を見た時から、ずっとずっと待ってましたよ。この瞬間を。この町で一番強いのは貴方だって、わかっていましたからね。最強を証明するには、最強を名乗る他者を全て潰すしかない」
「俺は最強なんて名乗ってないんだけどなあ……大会の優勝で満足しときましょうや」
「あんなちゃちな大会の優勝など、鼻くそのようなものですよ。命がけの勝負と違ったレクリエーションだ」
イッテツは心底楽しそうだ。肩を震わせて笑っている。
ジンも、気を緩めると今にも肩が震えそうだが、それは愉快だからではない。
師の強さは、十年前に嫌というほど目にしている。ジンに才があると語るイッテツだが、彼の背は常に遠く高みにあった。
(今度ばっかりは、死ぬかな。いや、負けても腕一本ってとこで済ませてほしいもんだ)
そんな思いが、ジンの心の中にある。
けれども、希望は繋いだ。そのことに関して、悔いはない。
「本当、うきうきしてますねえ」
「楽しいんですよ。自分より強いかもしれない存在に挑む時、それが一番わくわくする。生きているって感じられる」
(俺はぞくっとして死にそうだよ)
ジンは心の中で投げやりに呟く。
「……そろそろ良い歳だし落ち着きましょうや、センセ」
「私は君がたまに羨ましくなる。君のように達観できる人間だったなら、どれほど良かったかと」
イッテツは、剣を鞘から抜いた。
「そして同時に、狂おしい嫉妬に駆られるんです。貴方の性格が、貴方の才を潰していると。その才が私にあればどれほど良かったか」
まあ、とイッテツは言葉を続ける。
「ここで消える才能ならば、そこまでだったと言うこと。貴方がどんな十年を送ったか、試してあげましょう」
師が、一歩を前に出した。
(来る……っ)
ジンは剣の柄を強く握りしめた。自分を鼓舞するように。
「お手柔らかに、お願いします」
二人は互いに駆け寄って、剣を振るった。
マリ達は細い通路を駆けていた。
そのうち、その道は三股に分かれた。
「さて、三つのうち一つの道はハズレでしょうね」
ハクアが不敵に微笑んで言う。
「セツナさん、だよね」
「いや、敵が四人で待ち構えているケースも考えられます。分散するのは愚策かと」
「そんなことを言っていて、当たりの道を進んだ相手に泉を先に見つけられたらどうするのです」
「どうしたものかな……」
ハルカゼが困ったように言う。
「いや、まだそれほど時間が経ってないよ。二つの通路は一人、一つの通路は二人、人が居る」
マリが、鎖帷子を脱ぎ、腕輪を取りながら言う。彼女の左手首から肘にかけて、いくつもの腕輪がぎっしりと巻かれている。
三つの腕輪が、皮袋にしまわれた。
腕輪を取って現れた皮膚は、まるで夜の闇を切り取ったように黒く染まっていた。黒い肌、ではない。そこだけ、底のない闇が絡みついているかのようだ。
そして、マリは再び鎖帷子を着る。
「わかるものですか?」
ハルカゼが問う。
「腕輪を三つ取ったら、耳も良く聞こえるから。それで……こっちの道」
マリは、そう言って右手の道を指差した。
「セツナさんの足音がする。私が、こっちに行くよ」
「一番険しい道ですよ」
ハクアが、不安げに言う。
「師匠が、一番厄介な人を相手にしてくれたんだ。今度は、私がそれに応えないといけない。他の道は任せたよ。当たりの道を、確保するんだ」
ハクアは、無言で頷いた。
「そういうことですから、良いですねクロウ。緊急事態ですよ。今回は別行動を取ってもらいます」
「私は、ジンのようにはなれません。貴女が絶対に無事だなどと、妄信は出来ない」
ハクアが、眉間にしわを寄せる。
「けれども、今は成すべきことを成さなければ、彼に笑われるでしょう」
ハクアは、クロウのその言葉を聞いて微笑んだ。
そして、その背を優しく撫でた。
「信じなさい、クロウ。私はそれほどやわではありません。それに、簡単な話だわ。貴方が貴方の道にいる敵を倒して、私を助けに来てくれれば良いの」
「……ハクア様」
クロウは、ここに至ってもまだ迷っているようだった。
視線は定まらず、眉間にはしわがよっている。
しかし、そのうち覚悟を決めたように、一つ頷いた。
「御武運、を」
苦しげに言って、クロウは駆け出す。
「二人の道、らしいからね。僕も行くよ」
その後を、ハルカゼが追っていく。
「それじゃあ、また会おう。ハクア」
「ええ。聖なる泉で乾杯と洒落込もうじゃないですか、マリさん」
二人は微笑むと、それぞれの道を歩いて行った。
チームらしくなって来たじゃないか、とマリは思う。
皮肉なことに、共通の敵を得てやっと結束するのが人間なのかもしれない。
次回
VSイッテツⅡ
もしくは
泉に届け
もしくは
VSセツナ
内容に差は生まれません




