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戦い終わって・・・

 ジンが腰に差していた木刀を抜く。

 セツナも、木刀を構えた。

「悪いが、どうにも負けられなくなった」

 ジンは木刀を構え、淡々と言う。

「それは僕も同じだ」

 セツナは、木刀の切っ先を動かさずに言う。

「最初から僕に負けは許されない。僕から逃げたフクノ領の上級剣士とは覚悟が違う」

 若々しい声だ、とジンは思う。

「良いじゃないか。結果は準決勝進出、さらに決勝もカミト領の剣士だ。ここは俺に譲ってもバチは当たるまい」

「わかっていないようだね。僕は負けられないんだ。絶対にね」

 表情を動かさずに、淡々とセツナは言う。

「始め!」

 審判が声を上げる。

 太陽はいつの間にか傾いていた。

 もうすぐ、夕焼けが空を焦がすのだろう。

 ジンは動かない。

 相手が動くのをじっと待っている。

 セツナの戦いはずっと見てきた。

 ジンが得意とするのと同じ、反撃に長けた剣術を使うようだ。

 その観察眼は侮れない。

 セツナも動かない。

 ジンの素早さはセツナも知っている。それに対応する準備をしているのだろう。

 これでは、埒が明かなかった。

 決勝戦では、師が待っている。

 ジンは、動くことにした。

 相手との距離を詰めて、木刀で相手を切り上げようとする。

 その時、既にセツナは回避行動に移っている。

 それどころか、全てを読んでいたとばかりにジンの脇腹へと木刀を走らせようとしていた。

 ジンは咄嗟に地面に転がることで、それを回避した。

 セツナの攻撃は完璧な返しだった。

 ジンは起き上がり、再び木刀を構える。

(こいつ、完全にこっちの動きを読んでやがった)

 まるで心を見透かされているかのようだ、とジンは思う。

 ジンは警戒して、身動きが取れなくなる。

 次に襲い掛かってきたのは、セツナだった。

 ジンに向かって木刀を横薙ぎに払おうとする。

 その動きを、ジンは読んでいた。

 そして、相手よりも自分が速いことも、ジンには手に取るようにわかっていた。

 ジンは距離を詰めて、相手の脳天に向かって剣を振り下ろす。

 すると、それは相手の木刀によって阻まれた。

 相手は剣を横薙ぎに振ろうとしていたはずだ。そのはずの木刀が、何故頭上にあるのか。

 ジンには理解出来ない状況だった。

 まるで、ジンの初動を見て、先の攻撃を読みきり、自らの攻撃をやめたとしか考えようが無かった。

 そのままジンは攻め立てる。

 その全てを、セツナは受け止めていく。

 ジンは蹴りを放とうとして、やめた。

 それをすれば足が刺されると、直感的に理解したのだ。

 ならば、相手の予測できない動きをするまでだ。

 ジンは相手の木刀を弾いて懐に入り込むと、木刀を持った手で頬に殴りかかった。

 顔を逸らしただけでセツナは回避し、ジンから距離を置く。

 攻撃がまったく当たらない。

 全ての攻撃が、読まれている。

 こんなにやり辛い相手はウラク以来だった。


 セツナはやり辛さを感じていた。

 こちらの攻撃が、全て読まれている。

 一撃を入れようとしても、相手は敏感にそれを察知して回避行動に移る。

 セツナは直感的に理解していた。

 目の前にいる男は、自分とほぼ同等の強さだと。

 常人にしてその強さを身につけるとは、驚嘆すべきことだ。

 無駄な攻撃が繰り返される。

 相手の攻撃を避けて反撃を打ち込みそれをさらに避けられる。

 隙を見せて相手の攻撃を誘っても、反撃を打とうとした時には防がれている。

 お互いに、手詰まりだった。

 まるで、ジンは未来が見えているようだとセツナは思う。

 二人は繰り返す。果てのない斬り合いを。

 場内はしんとしていた。

 激しく繰り返される二人の攻防を、誰もが固唾を呑んで見守っている。

 そのうち二人は疲弊して、一度互いに距離を置いた。

「常人にしてその境地。見事だと言っておこう」

 セツナは言う。

「お前こそ、未来予知みたいな読みをしてやがる。雲みたいに掴みどころがねえ」

「未来予知だとしたら、どうする?」

 セツナの言葉に、ジンは目を見張る。

「僕の家には代々、未来が見える者が産まれる。僕もその一人だ。常人でそれを相手取るとは、大したものよ」

「未来予知、ねえ。冗談みたいな話しだ」

「それが本当だから、君は僕に一太刀を入れることが出来ない」

 ジンは黙り込んだ。

 その通りだと思ったのだろう。

「だから、諦めたらどうだ」

「生憎、こっちには約束がかかってるんでね」

「僕にも、家名がかかっている」

 二人は、こう着状態に陥っていた。

 これまで一瞬で相手を屠ってきた二人が、相手に一太刀を入れることすら出来ない。

 その異様な光景に、会場の人々は固唾を呑んだ。


 既に空は夕闇に包まれていた。

 人のいなくなった試合会場で、ジンは座り込んでいた。

「勝てませんでしたね」

 背後から、ハクアが声をかける。

「お付きはどうしたよ」

 ジンは投げやりに問う。

「まだ病室にいますよ。後頭部ですからね。念入りに治療してくれるそうで。今日は一人の行動が多くて気楽です」

「怖い思いもしただろう」

「それは、私が未熟だっただけのこと」

 ハクアは、ジンの横に座り込んだ。

「勝てなかったら、何かお願いを一つ飲んでくれる約束でしたね」

「負けなかったぞ」

「けど、勝てなかった。引き分けですもん。仇討ちも出来ませんでしたし。もしもこれが本か何かの主人公なら顰蹙ものですよ」

「人はそうそう主人公にはなれないんだよ。人生の脇役を演じていくんだよ」

「いいえ、人は皆自分の人生の主人公ですよ。どうせなら格好良い主人公でありたいですよね」

 ジンは返す言葉も無い。

「で、お嬢さんは何を俺にお願いするつもりなんだ?」

「一日、一緒に出歩きません?」

「……デートのお誘いかよ。てっきり、お嬢さん呼びを辞めろって言うのかと思ったぜ」

「ゆっくり話す時間が私達には必要だと思うんですよ。仲間ですからね」

 あの女性と似た顔のハクアと一日を過ごす。

 それは、複雑な気持ちを抱く一日になりそうだ。

 しかし、約束を飲むと言った手前、拒否は出来なかった。

「いいぜ。わかった」

「じゃあ、明日の朝、宿所の前で待ち合わせしましょう」

「護衛が五月蝿いんじゃないか」

「大丈夫。彼は一日入院させておくので。だから明日なんですよ」

 ハクアはそう言って、悪戯っぽく笑うと、去っていった。

 ジンとセツナの試合は、空が夕闇に染まるまで続いた。

 そして、このままでは暗くなって互いの木刀が見辛くなるという理由で引き分けという審判が下った。

 サクマ領の威信を回復させようという目論みは、ひとまず成功したと見て良いだろう。

 これで襲撃されるサクマ領の剣士が減るかどうかは疑問ではあるが。

「君とは、遺跡では会いたくないものだな」

 長い間戦い続けたセツナは、そんなことを言った。

「そういうことを言ってたら、嫌な時に会っちまうもんだぜ」

 ジンは、苦笑交じりにそう返す。

「むしろ私は、出会うことを祈っていますよ」

 イッテツが、不満げな顔で会話に入り込んできた。

「ジン君と戦う予感がしていたんですがね。私の勘も錆び付いたかな。歳は取りたくないものだ」

「期待ハズレで悪うございました」

 ジンはそう言って謝罪するしかない。

「まあ、まだチャンスはある。私は諦めませんよ、ジン君」

 不吉なことを言って、イッテツは去って行ったのだった。

 その後、やって来たハルカゼは、ジンを賞賛した。

「よくやってくれたね、ジン君。ハクアさんとクロウ君もだが。これでサクマ領のイメージが良くなることは間違いないよ」

「ハルカゼさん。一回戦で俺とマリを当てましたよね」

 ハルカゼの笑顔が、少しだけ曇る。

「やむないこともあるんだよ」

「あいつの相手をしなくて良いからって、気楽なことを……」

「結果良ければ全て良しだよ、ジン君」

 結果は良かったのだろうか、とジンは思う。

 ハクアは心に恐怖を受け付けられてしまったし、ジンはその仇を討つことも出来なかった。

 引き分けの準優勝という成績だ。

 しかし、ハルカゼは満足したらしい。

 ジンを労って、去って行った。

 そして、ハクアも去り、最後にやってきたのはマリだった。

「お疲れ様でしたね、師匠」

「ああ、勝てなかったよ」

 ぼやくようにジンは言う。

「仕方ないでしょう。相手は予知能力者の家系だったって話じゃないですか」

「けど、遺跡で宝の取り合いになったら、負けるわけにはいかないだろう」

「その時は、私達もついてます」

「お前、先生が相手側についてても同じこと言えるのか?」

 思わず、黙ってしまったマリだった。

「強くなりたいな……」

 ジンはぼやくように言う。

「人間は急に強くなったりしない。師匠の言葉ですよ」

「まあ、そうなんだがな。まだまだ自分が未熟だと知れた点では、今回の大会の意義はあったよ」

「逆じゃないですか?」

 マリは言う。

「人間なんです。自分の進む道を究めても、並行する道を行く他の人より秀でているとは限らない。今回は道を究めた人々が集まった準決勝だったんですよ」

「けど、それじゃあウラクに勝てん」

 マリは黙り込む。

「次に会った時に、ウラクに負けた、では話しにならんのだ」

「それこそ、私がついていますよ」

「毎回お前に負担はかけれんだろう」

「師匠が繋いでくれた命です。師匠のために使うことぐらい、わけないですよ」

 ジンは、マリの頭を叩いた。

「繋いでもらった命と思うなら、粗末にすんな」

「いっつぅ……。すいませんでした」

 穏やかな風が吹いた。

 二人の間に沈黙が漂う。

「次はもっと上手くやる。ウラクだろうと、セツナだろうと」

 決意を篭めて、ジンは言った。

「ちょっと格好良いですよ、今の師匠」

 マリが冗談めかして言う。

「惚れ直しました」

「お前に惚れられた覚えはない」

「そういえば、私も惚れた覚えはありませんでした。まあ、言葉のあやという奴ですね」

 マリは悪びれずに、そう言って微笑んだ。

「帰りましょう、師匠」

 マリがジンに手を差し伸べる。

 その手を取って、ジンは立ち上がった。

「次はもっと上手くやるぞ……」

「それはさっき聞きましたってば。まったく、酔っ払いみたいですね」

 マリは苦笑しているようだった。


 朝になると、ジンは宿所の前に出た。

 ハクアは既に、準備を済ませて待っていた。

 剣士隊の服ではなく、町娘の格好をしている。

 そうしていると、彼女は何処にでもいる娘のように思えた。

 ただ、夏だというのに服の袖は長かった。

「その服、どうしたよ」

「マリさんの生徒さんに借りました。たまには気分転換をしようかなって」

「んで、何処へ行くんだい」

「海でも、眺めに行きませんか」

「海、ねえ。まあ、良いんじゃないか」

 二人は連れ立って歩き始めた。

「なんか嫌なことを思い出した」

 ジンは思わず呟いていた。

「なんですか?」

「マリが通り魔にやられた時。町娘を連れていたから、さんざ悪く言われたんだよな。女をはべらせて歩いている成り上がり者が刺されたって」

「ふふ、今のこの町で私達に襲いかかってくる人がいますかね」

 言われて見れば、確かにそうだった。

 ジンとハクアは、あの剣術大会で準決勝にまで駒を進めたのだ。

 それに喧嘩を売りたい相手など、いるわけがない。

「立場って変わってくもんだなあ。ほんのちょっとまでの余所者が、次は成り上がり者で、今じゃサクマ領最強剣士扱いだ」

「皆変わってくんですよ。同じではいられません。同じでしかいられない者もいますけどね」

 そう言ったハクアは、どうしてか、少し寂しげだった。

 海に着くと、潮風が二人の体を撫でた。

 少し遠くに、遺跡のある島が見える。

 こうして見ると、木々に包まれたただの島のようだ。

「私は、海の向こうからやって来ました」

 ハクアは、呟くように言う。

「クロウに連れられて、船に乗って、長い海を越えて」

「他の大陸から来たってことか」

「ええ」

「事故に合わなくて良かったな」

「運は強いほうなんですよ、私。だから、今回も勝てると思ったんだけどな」

 ハクアは苦笑する。

 ジンは、黙ってその話の続きを促した。

「昔々、一人の魔術師が、魔術を知らない人々の国に流れ着きました。彼の使う魔術に国の人は驚き、彼を崇めました。彼は自分を不老不死と称し、国の人々に信じ込ませました」

 確かに、魔術を知らない人々が魔術使いを目にしたら、神か何かだと思うだろう。

「すると、不思議なことが起きました。国の人々の体に眠っていた、無意識の魔力の源が、魔術師に向けられたのです。その結果、魔術師は本当に不老不死となってしまったのでした。ある種の呪いを、魔術師は身に受けたのです」

 不老不死という言葉に、ジンは敏感に反応した。

 胸を貫かれても生きていたハクアの姿を、思い出したのだ。

「私、こう見えてもジンさんと同じぐらいの歳なんですよ」

 ハクアは、苦笑交じりにそう言った。

「成長は止まってますけどね」

「お前は、その魔術師とどう言った関係なんだ。お前が魔術師本人って感じではなさそうだよな」

「その魔術師の、子孫です。魔術師の受けた呪いは、子孫にまで影響を及ぼしたんですよ。私は、一人だけ年老いないなんて嫌だった。友達と一緒に老いて、死にたかった」

「だから、聖なる泉を求めたってわけか」

「そういうことです。長く生きて、友達が皆死んで、廃人のようになって生き続ける。そんな苦行は、ごめんです。終わりがあるから人生は美しい。そう思いませんか?」

「どうだろうな。俺は不老不死になれるならなりたいもんだぜ。いや、なりたがっていた人を知っている」

「誰ですか?」

「先生だよ。ジン君、どういて人は老いるのだろうねって良く言っていた。剣士として、肉体的なピークを過ぎることに思うことがあったんだろう」

「そういう人から見れば、私の悩みは贅沢かもしれませんね。だから、苛められたのかな」

 ハクアは、そう言って苦笑した。

 強い潮風が吹いて、ハクアの髪とスカートを揺らした。

「けれども、私は嫌なんです。大好きな人達と一緒に生きて、一緒に死にたい。それは、贅沢なのでしょうか」

「いや。人生に対するスタンスは人それぞれだ。お嬢さんがそれを重視するなら、俺はそれを馬鹿にしない」

「ありがとうございます。ジンさんならそう言ってくれるって思ってました」

「そうかい」

「自分は自分、他人は他人って感じですから、ジンさんは。人を好きになったことなんてあるのかしら」

「一応あるよ」

 ジンは淡々と答えた。

 普段ならはぐらかすところだが、今なら言って良い気がしたのだ。

 打ち明け話をするには、丁度良いシチュエーションだった。

「本当に?」

「人生で一回きりな」

「それはきっと、とても素敵な人だったんでしょうね」

「いや。普通の村娘だったよ。どこにでもいそうな、欠点も嫌なところもある、普通の女だった」

 顔立ちはハクアと良く似ていた。そんな言葉を、ジンは飲み込んだ。

 そんなことを言われても、気まずくなるだけだろう。

「けど、惚れたんでしょう?」

「俺も普通の町人だったからなー。魔術の扱いに覚えがある以外は」

 次は、ジンが話す番のようだった。

「俺は、聖なる泉を探している」

 ジンの言葉に、ハクアは頷いた。

「貴方達からは、私と似た匂いがしていましたから。そうなのだと思っていました」

「俺と馬鹿弟子の腕には呪いがかかっていてな。魔術を篭めた腕輪をして封じていないと、自分を食い殺しかねない呪いだ。その呪いには、盗賊に殺された魔術師達の怨念や記憶までしっかり篭っている」

「盗賊、ですか。ジンさん達が呪われることの関係性がわかりませんが」

「その中で生き残った娘の負の感情と、周囲に渦巻いていた無念の思いが同調しちまったんだろうな。結果的にその娘に呪いが流れ込み、盗賊を皆殺しにするだけの怪力を得たわけだ。けど、呪いは消えやしない。徐々に自分の体を蝕んでいく」

「腕輪で、完全に封じ込めれるものなのですか?」

 ハクアは、淡々と聞く。

「正直、完全には押さえ込めていない。今はいいが、将来的にはわからんところだな。呪いに食い殺されるのが先か、聖なる泉を見つけて呪いを解くのが先か」

「なるほど、だから聖なる泉を求めた」

「そういうこと」

「これって、運命だと思いません?」

 ハクアの一言に、ジンは少しだけどきりとした。

「これって運命だと思わない?」

 そんなことを、彼女と良く似た顔の女性が良く口にしていたからだ。

「聖なる泉を求めている四人が、たまたま同じ領の客員剣士となった。そして惹かれあい、同じ小隊のメンバーとなった」

「まあ、確かに奇遇ではあるな」

「きっと見つかりますよ。聖なる泉」

「俺は空振りも何度もしてるからな。そう楽観的にはなれんよ」

「けど、これだけ不思議な遺跡です。それぐらいのものを、内包している気がするんですよ」

「どうだろうなあ……」

「ジンさんはペシミストなのですね」

 少し不服げにハクアは言う。

「リアリストなんだ。お嬢さんもあんまり期待しすぎないほうが良い。外した時にがっかりするぞ」

「外したら、他の場所に再チャレンジするだけですよ。ジンさんもそうでしょう?」

「違いない」

 反論できないジンだった。

「見つけましょうね、聖なる泉」

 ハクアが、微笑んで言う。

「そうだな。見つけて、皆で普通の町人にでもなるか」

「ええ、そうしましょう」

「ところで気になるんだが」

 ジンは、ふと気がついたことを訊ねていた。

「お嬢さんの呪いは、身体能力には関係ないよな。それにしては、お嬢さんの身体能力は高すぎるように思う。一般的な女性の範囲を逸脱してるぜ」

「ああ、それは簡単ですよ」

 ハクアは、やや恥じ入るように言った。

「私はいくら動いても疲労することがありません。呪いで常に万全な状態に修復されるんです。だから、人の何倍も厳しいトレーニングや、人の何倍も体力を必要とするトレーニングもいくらでもできる。つまるところ」

 そこまで言って、ハクアは言い辛そうに言葉を区切った。

「私の体、筋肉質で、人にあんまり見せれるものじゃないんですよね。半袖なんて着れません」

 なるほど、と納得いったジンだった。

「言い辛いことを言わせちまったな」

「いえ、暴露ついでです。私の夢は、聖なる泉を見つけて、普通の体に戻って、筋肉を落とすことです」

 心底恥ずかしげに、ハクアは言った。

 その夜、ジンとマリとハクアとクロウの四人は、酒場で酒を飲んだ。

 マリとハクアが楽しく会話し、ジンは聞き役に回り、クロウがたまに苦い顔をして口を挟んではハクアに黙らされる。そんな時間だった。

 そのうち、顔見知りの剣士隊が徐々に加わり、剣術大会の勇士達を褒め称えた。

「私だって一回戦で師匠と当たらなければ良いとこまで行ったんですよー」

 マリが不服げに言う。

「運も実力だ、実力」

 ジンが投げやりに言い返す。

(このメンバーでなら聖なる泉を見つけられるかもしれない)

 ジンは賑やかな飲み会の中で、酒の勢いに押されてか、ついそんな楽観的なことを考えてしまうのだった。


 それは、ある日のことだった。

 カミト領のあるグループが、遺跡内部のあるプレートに目を止めた。

 プレートには、盃を示す絵柄が描かれていた。

 盃から連想されるもの。それは液体。その中には、呪いを解くという聖なる泉も含まれている。

次回、VSイッテツ

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