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13.作戦会議!

「へえー、ラフィの目的は、実はレヴェッロートと最果ての精霊の契約を邪魔することでー、それは成功したと。それは良かったわぁ。ぜぇーんぜん私が知らないうちに解決しちゃったのね~~。…………なんて私が言うとでも?!!」


「す、すいません!!」


 目の据わっているルーナほど、恐ろしいものはない。



「幼馴染と従姉妹が危険に晒されているときに、何も知らずにピアノの稽古をしていた私って一体……」


「べ、別に普通のお嬢様じゃなぁい?」

 ルーナにギロリと睨まれて、ラナは口を噤んだ。余計なことは言わないのは、処世術であると最近学んだことが役に立っている。



「ま、いいわ。今回に限り、除け者にしたことは許してあげる。

 これで、貴女の秘密は全部?」


「……ううん。まだ、あるわ」

「話してくれる?」


 ルーナは強要するようには言わなかった。選ばせてくれているのだ。



「うん。まずは、私の本当の名前はラナで……」

 ラナは、全てを話した。未来でエテルノから聞いた、レヴェッロートとルーナの確執も、悲恋も。それからラナがルーナの娘だということ、インテと未来・過去で闘ったことなどを全部話した。


 分かりやすく説明するのは思った以上に難しく、ルーナも質問を挟むので、お昼の時間はとうに過ぎてしまっている。



「未来から来た、っていうことで全部の筋が通るなんて……」

「信じてくれる?」

「うーん……。うん」


 母は最後に、こっくり頷いてくれる。それを見て、ラナは安堵した。

「要するに。世の中は不思議がいっぱい! って、ことね」

 そして、そのまとめ方はどうかと思った。


「冗談よ。とうに貴女を信じるって言ったし、今も信じなきゃ始まらないし。

 それより何より、未来で私がレヴェッロート以外の男性と結婚した上に、貴女まで生んだってことが驚きすぎて…………」



 恋する乙女のルーナは、複雑そうな顔をしている。そして、躊躇うように母は口を開いた。



「でも、ラナごめん。貴女が言うところの過去————つまり、ここに貴女が来たことで、状況がどんどん変わってきているわけでしょう。だから、その男性と私はこれから確実に出会って結婚までするって決まっているわけではないと思うの。

 なら……、まだレヴェッロートを簡単に諦められないよ……。こんなこと、娘の貴女に言うのは残酷だけど」



「ううん、いいの。母様の気持ちは分かるから。

 私もここに来てから色んなことがあって、その度に色々考えたんだ。

 それで、私は勝手に過去を変えに来た人間だから、何かしらのペナルティが我が身に降りかかる覚悟もすることに決めたの! たとえ私が今回、生まれなくなってしまっても……受け入れなきゃ、いけないって。でも、そう思えてから不思議に心が軽くなってきた。この生を懸命に生きようってね」



「そういう物分りの良いことを言われると、余計に居た堪れないわ。

 ……そして話を変えるけど。私に話してくれたことは皆、勿論レヴェッロートに告げたのでしょうね?」


「まだだけど。だって彼、忙しそうで……。実際、忙しいし」

「えー! 彼の協力者である貴女が、最初に全てを話さなければいけないのは彼でしょう!」



 今更だが令嬢らしからぬ口調で、ルーナは嘆く。


「行きましょう!! 今からレヴェッロートのところへ!」

「町に出掛けて、人に会いに行ってくるって言っていたから、少なくとも夕方まで戻らないと思うけど……」

「じゃあ帰ってくるまで、家で待ち伏せよ!」

「はい……」




 そういうわけで、いつものようにデンツァーニヤ家の門を出て歩き始めたところで、ラナ達は近付いてきた馬車の中から話しかけられた。


「お急ぎのところ、申し訳ありませんが御婦人方。公爵の語領地にはどう行ったらよいのか、お聞きしたいのですが。この辺りには不慣れなもので」



 馬車の窓のカーテンが中から開けられて、貴人の男性がにこりと微笑む。

 その人は若く、ラナ達より二・三才年上に見え、整った顔立ちと金の髪、美しい桜色の瞳をしていた。

 相手が貴族なら、見知らぬ者であれ邪険にするわけにもいかない。ルーナは令嬢の仮面を素早く付け、愛想よく微笑んで対応した。



「私達も今、公爵家に参るところですから、ご一緒致しましょうか。ここから、もうすぐの所ですけれど」

「それは有難い。では、皆様も宜しければ馬車にお乗り下さい」




 せっかくの好意なので三人は手助けを受けながら、質の良い馬車に乗り込んだ。男性は一人で乗っていたので、女性達が座る空間は充分にあった。



「自己紹介が遅れました。私はスクード・レッジェです。麗しい皆様の御名も、是非教えていただけますか」


「私はルーナ・デンツァーニヤで、こちらが従姉妹達のラフィ・デンツァーニヤとエテルノ・デンツァーニヤですわ」


「従姉妹同士なのですか。道理で、よく似ていらっしゃる」



 スクードは人好きのする顔で、にこにこ笑って聞いている。ラナは何故か、この男性に胡散臭さを感じた。

 だが悪人だったとしても、いつでも魔術で倒せるし、いざとなればエテルノもいるから大丈夫だろうと思うのだった。






 公爵家に着くと、やはりレヴェッロートはいなかった。スクードもいるので、客間で待たせてもらう。公爵が来るまで、ラナ達で男性の相手をしていなければいけないらしい展開になる。


「失礼ですけれど。スクード様は公爵と、どのようなご関係ですの?」


 しかし、うっかり育ちが出そうなので、会話を主導するのはラナではなくルーナだ。



「うーん、言いにくいですが実は初対面なのですよ。しかし公爵の今後の事業には、私共の協力が不可欠だと信じて突然ですが面会を求めに参った次第です」

「そうなのですか?」


「ええ。明眸で度量が広いという公爵なら、私の無作法も許していただけると勝手ながら信じております」


 これではラナ達は、見ず知らずの者を勝手に公爵家へ招き入れてしまったということであった。後でレヴェッロートに怒られてもしょうがない事態である。ここは、公爵が帰ってきてからどうにかしてもらうしかないと、ラナは心の中で肩を落とす。



「しかし公爵は羨ましい御方だ。このように美しい婦人達と、ご交友があるとは」

「まあ。お上手ですこと!」


 どうしてこんな雰囲気になっていくのか不明だが二人の作ったような笑顔が、ラナには怖い。ゴゴゴゴゴゴゴゴ……とでも、背景に音が聞こえそうだ。

 スクードとルーナのやり取りに耐えきれなくなってきた頃、ようやく待ち人が帰ってきた。




「ご高名は常々、耳にしておりますよ。レッジェ家の隠し刀である若き天才、とね」


 スクードの自己紹介を聞いて、レヴェッロートが驚いたのは一瞬だった。次にはもう、優雅に握手を求めている。


「こちらこそ、今を時めく公爵にお会い出来て光栄です」


 絵になる二人の紳士が握手を交わすシーンは、劇的だった。この瞬間が、歴史的に重要な意味を持つものになりそうな、そんな予感を見る者に与える。




「それで、今回はどのような用件でいらっしゃったのですか?」

 笑みを消したレヴェッロートは、真剣な表情になって尋ねた。それを受けて、スクードも政治家の顔になってルーナ達を見る。


「その前に、失礼ですが場を改めても宜しいでしょうか?」

「……そうだな。ルーナ、悪いが席を外せ」



「何でよ。レヴェッロートの意地悪! どうしてラフィは良くて、私は駄目なの? 私だって、何か少しでも力になれるかもしれないのにっ」


「理由は簡単だ。ラフィは荒削りでも戦力になりえるが、お前の魔術のレベルでは危険だ。大人しく言うことを聞け」


「ひどい。レヴェッロートの馬鹿!」



 ルーナの瞳から涙が零れて、彼女はそのまま走り去ってしまう。

「そんな言い方しなくても……」



 母の彼への恋慕を知っているラナとしては、複雑な思いだ。好きな人に役立たずと見なされたら、ルーナでなくとも辛いと思う。



「あれくらいに言わないと、あいつは直ぐに出ていかない。それより本題に入ろう。スクード殿、続きを」



「……昨晩、貴方が緊急で各方面に出した要請に協力しようと思いまして、父の代わりに私が参りました。公爵は私の父宛にお手紙を出されましたが、父が私のほうが良いだろうと判断したもので」


「要請、とは?」


 そんなものを出したのか、という疑問を露わにしたラナにレヴェッロートは頷き、答えてくれる。



「この国が〈十三家〉が行う議会制で成り立っているのは知っているだろう?

 十三家のうち、三つだけが赤の末裔。すなわち、デンツァーニヤ・レッジェ・カリタだ。

 残りの十家は我がグランディ家、フォルムラ殿のロンターノ家、残り八家は省略するがフォルムラ殿に付いたらしい」



ラナが頭の中で新情報を整理している間に、スクードがレヴェッロートに問う。


「貴方に協力すると言ってきた家々とは、どこまでの取り決めを?」

「具体的なことは何も決まっていない。デンツァーニヤ・エジンテンツァ・カリタには、戦争になる可能性もあるから内密に準備を、と伝えただけだ」



 戦争。ラナが来た未来では、兵士による殺人や略奪が横行していたけれど、大規模な戦争は彼女も経験したことがない。それは想像以上に悲惨なものに違いなかった。

 顔色を変えたラナを見やって、スクードは容赦なく言い切った。



「失敗すれば間違いなく、我々全員の首が飛ぶ話なのです。だからこそ万全な策を練らなければなりません。貴女も参戦なさるならば、貢献してもらわなければ意味がない。

 兵士の総数では、どうやってもフォルムラ殿には敵わない。ならば、魔術面で圧倒したいところです。公爵もおりますし、ラフィ殿とエテルノ殿もおられる」



「ラフィ。エテルノ」

 レヴェッロートが、こちらを見た。


「仮に、すぐ戦になったとして、お前達は最高の力を出せる状態か?」

「ううん。私もエテルノも、難術を使ってから回復が追いついていなくて。……ごめんなさい」

「そうか。俺も、この間の最果ての精霊との戦いで大分消費してしまっている。

そして魔術師の人数も向こうのほうが多い。そいつらはフォルムラが財力に物を言わせて集めた、魔術学校出のエリート達だ」


 兵力も魔術力も、向こうの方が勝っているという。不利な戦になることは間違いなかった。



「もう一人……、精霊がいれば違うだろうな」

 レヴェッロートが呟くと、スクードは首を横に振った。


「召喚はいけません、公爵。成功すれば確かに、こちらの勝機になります。しかし失敗すれば、こちらは貴方という核を失うことになるかもしれない」


「そうだよ、レヴェッロート。焦らないで」

「……」



 沈黙が部屋に落ちたとき、凛とした少女の声が響く。


「じゃあ、私が精霊を呼ぶわ」

 ドアを開けて入ってきたのは、意気込んだルーナ。



「何を言っている。お前は下がっていろと……」

 言いかけたレヴェッロートの言葉は、ルーナの方から来る風圧によって途切れた。




『——————聞け、精霊たちよ!!

 我、ルーナは、ここに誓う。我と共に歩む者に、我の内なる魔力を与えると……』


「やめろ、ルーナ!」


 悲痛に叫ぶ幼馴染の声にも、ルーナは微笑み返すだけ。



『来よ! 我の願いを叶える者。我の意志を可とするならば!』





 ——————予感が、来た。

 ぴりりとした感覚が、ラナの肌を走る。懐かしい彼女に再び会えるのだと、本能が先に教えてくれた。

 ふわりと降り立ったのは、美しい精霊。人とは違う神聖な雰囲気に、慣れない者は圧倒される。

 唯一彼女を見知っているラナも、ヴェルデの本来の輝きは初めてだった。それはマスターのルーナが生きているからこそだろう。ラナが物心ついた頃には、既にヴェルデのマスターは死者となっていた。けれど今、生命力に満ちたルーナをマスターに持つ精霊は段違いの存在ということだ。



「すごい……。これが精霊召喚……」

 スクードが見惚れるように、ルーナを見つめている。

 皆が驚いている中で、ラナだけが泣き笑いの表情を浮かべていた。



「これで文句は無いわよね?

 私は精霊を得たのだから、一人前の魔術師よ。もう爪弾きになんてさせないわ!!」



 誇らしげに言うルーナに、レヴェッロートはため息を吐いて髪をかき上げた。

「無い……が、無茶をするな! 心配しただろうがっ」


「ふふん。

 それで、放っておいてごめんなさいね。貴女のお名前を伺っても宜しいかしら?」

 ルーナは呼び出した精霊に、改めて向き直る。



「我が名はヴェルデ。西の森を治める者だ」

と、礼儀正しく名乗った後で、ヴェルデはちらりとラナを見てくる。その瞳には何の感情もなかったが、どこか問うような視線だった。



「理屈では説明できないが、精霊は人の纏う気配に聡いものだ。ヴェルデも、貴女に何か感じることがあったのかもしれない」


 エテルノが、ラナにだけ聞こえる声で囁いた。




「あのね、ヴェルデ。召喚した直後で悪いけれど、もしかしたら戦争に出てもらうことになるかもしれないの。気を悪くするのは百も承知だけれど……」

「マスターの命令とあれば、致し方ありません」


 ルーナの謝罪に、森の精霊は無表情のまま頷いた。




「戦場は……、どこにしたら良いだろうか。こちらに有利な地形の場所は、思い当たらないが」


「はい。残念ながら、ありませんね。やはり町では被害が大きすぎるので、やはり、こちらの野原か川原といったところで落ち着くしかないかと」


「問題は、どうやってフォルムラ殿達をここまで誘導するかだな」



 男達の間で、取り決めが進んでいく。ラナは、居ても立ってもいられずに口を挟んだ。今言わないと、どんどん機を失う気がした。

「ねえ、派手な戦争ってしなくちゃいけないのかな?」


 ラナの発言に唖然としたらしいレヴェッロートは、すぐに眉根を寄せる。



「何を今更。甘いことばかりは言っていられないんだ。

 お前も、今の状況がどれほど厳しいものか分かっているはず。俺達だって出来れば血を流す争いを避けて、話し合いで円満な解決をしたい。だが、それは無理なんだ」


「うん。私も多分、どこかで血が流れることは免れないと思う。

 でもさ。ご丁寧に宣戦布告して、戦場を設けて、一戦交えるってなると、こっちの失うものが多すぎない?」



「……と言うと?」


 スクードが興味引かれたように、少し彼女のほうへ身を乗り出した。


「フォルムラ殿の屋敷を急襲しましょう」

「どうやって? 向こうだって警戒しているでしょ。そんなに上手くいくかしら?」

ルーナが質問してくる。


「じゃあ、私が様子を見るわ。フォルムラがいれば合図をするから、すぐ来て」



「お前といい、ルーナといい……。危険すぎる。許可出来ない。

 第一、どうやってフォルムラを見張るんだ? 今だって彼が屋敷に篭もったままなのか、それとも魔術師に命じて、どこかに移動しているか分からないというのに」



「それも聞けば分かると思う、多分」


 ちょっと自信がなくて、語尾は音量が小さくなった。

「誰に。まさか、フォルムラ殿に直接か?」



「違う。実は、町の広場の噴水に宿る精霊と顔見知りになれたかもしれないの。彼ならフォルムラ殿の動向も、よく知っているわ。そして私が上手く頼むことが出来れば、その情報を教えてくれると思う」


「……本当ですか?」


 半信半疑なスクードに頷き返すと、皆が真面目な顔付きになった。途端に、話が現実味を帯びてくる。

 そして。レヴェッロートが、最後の確認をしてきた。



「合図、とは?」

「星を打ち上げるわ。貴方が前にやってくれたのを参考に……って、あ……。

 ごめんなさい。違う人だった」



 慌てて訂正したラナを、全員が怪訝そうな顔で見つめている。ルーナやエテルノは何となく気付いたようだが、他からの視線が痛い。特に、レヴェッロートのものが。 

 けれど、じっと見られたのは一瞬で、すぐに解放された。



「分かった。いつでも行けるように、兵には号令をかけておく。

 あと、お前は単独で噴水以上はフォルムラ邸には絶対に近付くな。もし、この約束を破ったとしたら……」



「了解! 大丈夫、任せて」



 恐ろしい条件を付加される前に、口を塞ぐ。

 本当に分かったのか、という疑いの目を向けてくるレヴェッロートから視線を逸らし、ラナは挑戦するかのように町のある方角を見やった。

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