表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

プロローグ

 辺りは、ぼやけていた。自分が何処にいるのか、咄嗟には分からないほどに。

 仕方なく耳だけを澄ませていると、風によって生まれる葉擦れが聞こえてくる。それはラナにとって、聞き慣れた音だった。


(そっか。ここは森なのね)


 安堵するうちに、霞みがかっていた視界も段々と開けていく。目の前にいる育て親ヴェルデの姿も目に入ってくる。


「そして、————です。太古に世界が創られたときも〈古代語〉が活躍しました。

 古代語は魔力と同義であり、精霊たちや魔術師しか話せません。また強い意志を持って口にすれば、目に見える影響力となって現れる、恐ろしいものでもあります」


 今は、どうやら講義中らしい、が。

(でも、おかしいわ。今更、講義だなんて……)

 ラナに対する、ヴェルデの講義は数年前に終わっている。もう教えるべきことはないから、これからは自分で学べということだった。



「自然には、色々な小精霊が宿っています。例えば、そう、川や木などに。かくいう私は太古、木の小精霊でした。長生きして魔力を溜め、より魔力の高い精霊となったのです。

 精霊に成長すると、魔力を補充する為の土地を支配するという能力が得られます。支配してみようか、という気持ちになるとでも言いましょうか。例えば私は、この森を治めることにしました。

 それから、土地持ちとなる位に魔力が強くなると、本来の属性以外の術が使えるようになります。私の場合は木の小精霊でしたから、昔は枝を伸ばしたり、根を持ち上げたりすることしか出来ませんでした。

 でも今は、森に満ちる光や風などを従わせることが出来ます」



(ああ、なんだ。これ、昔の夢だわ)

 道理で、どこかで聞いたような……と思ったわけだ。十年位前、自分が幼女だったときのことを、夢の中で見ている状態らしい。

 視線を下ろせば、裏付けるように自身の手はぷっくりして小さい。



 さて、どうするか。夢から目覚めるべきなのか?

 迷いながらヴェルデを見上げれば、生徒の考えていることには気付いていないようだった。淡々と語り続けている。

 大人しく拝聴するうちにラナも、ぼんやりとしてきてしまった。次第に、これが夢だということを忘れていく。そして次の瞬間には、すっかり童心に戻っていた。


「こうやってヴェルデは見えるし触れるのに、どうして小精霊さんの姿は目に見えないの?」

 ラナが尋ねる度、ヴェルデは律儀に一つ一つ答えてくれる。



「小精霊は、そういった能力をまだ持っていないからですよ。姿を持つというのは、魔力を溜めて精霊に成長しないと出来ません。

 でも、それは力がないということではない。彼らは強いのです。普通の人間が武器を持って戦ったとしても、勝てる可能性は低い。小精霊は、殺傷能力の高い自然そのものだからです」



「…………小精霊さんって、こわい。わたしのことをいじめない?」

「怯えているのですか」

 ほんの少し、ヴェルデの表情が和らぐ。

「大丈夫ですよ。この森には、怖い小精霊はいません。

 こちらが酷いことを彼らにしなければ、穏やかなものです」

「でも……」

「平気です」

 何とか宥めようとしたのだろう。白い手は戸惑うように下りてきて、最終的にはラナの頭を撫でてくれる。

 小さなラナは優しい温もりに安堵して、この時間が続けばいいのにと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ