6. 監禁系ヤンデレの場合
「どこ行ったんだろう……」
やっぱり玲子が心配で部活を抜け出した。まずい、失敗したな。私は内心あせっていた。
(玲子があんなに絵が下手だったなんて…!)
あわよくば玲子を美術部に入れて、徐々に仲良くなってもらおうと思ったのに……!すこしくらい上手く描けなくても、「楓くんに教えてもらおっ」とか何とか言えた。
しかし。
(あれはひどすぎる。むしろ一種の才能では?)
壊滅すぎて改良の余地がない。凡人には理解できない境地に達していた。……など無意識にひどいことを思いながら玲子を探していたが、なかなか見つからない。もしかして帰っちゃったかな?これだけ広い学園だ。探しても見つからないかもしれない。明日謝るべきか。
「どうしよう。…………………いた」
ふと目の前を見ると、玲子がとぼとぼ歩いていた。さっすが私!超運いい!!私は玲子の背中に飛びついた。
「玲ちゃーーーーーーーーーーーーーん!!!!」
「……っうぐほはっ!」
勢いが強すぎたのか、令嬢にあるまじき声を出した。
「……っ春風さん!!わたくし、あなたのせいで恥をかいたわ……!」
「ごめんねぇぇぇぇぇぇ!玲ちゃんもしかして、絵苦手だった?」
「………っ」
玲子は私の問いに息をつまらせた。もしかしてじゃない、確実に苦手だ。
「共通の話題とかあったら、仲良くなりやすいって思ったの。本当にごめんね」
ここは茶化すところではない。そのくらい私にだって分別ある。ここは誠心誠意謝ろう。
「本日は誠にっ申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!!!」
「春風さん!?あなた何やってるの!?」
私はサラリーマンも真っ青の素晴らしい土下座を繰り広げた。
「玲ちゃん私を気の済むまで殴って!!私、玲ちゃんにだったらいい!!」
「早く立ちなさい!!はしたなくてよ!!!」
玲子は慌てて私を立たせようとする。そんなとき、
「春風さんと久遠さん?」
よく通る綺麗な声がした。この声はまさか。
「西條先輩」
「生徒会長様……!!」
西條 彰人──
聖マリア学園の生徒会長。母親がフランス人でハーフ。美しい金髪と青みのかかった澄んだ瞳を持つ。性格は誰にでも優しく、責任感が強い。入学初日に手を差し伸べてくれた王子様だ。
この設定を見るとどこにも文句のつけようがない完璧なイケメン。だがお忘れではないだろうかお嬢さん?もう一度言う。こいつは……ヤンデレだ。
「春風さん、いい子にしていた?」
夕日で赤く染まった部屋の一室。西條が綺麗な顔に笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「西條先輩……ここから出して下さい」
生徒会のお仕事をお手伝いしていたとき休憩しようと言われ、お茶を口にした。
最初は西條と楽しくおしゃべりをしていたが、だんだん眠くなってしまった。そして目を開けたら、知らない場所にいたのだ。
(今日はいつなんだろう)
日付感覚も狂うほどにこの場所にいる。
「駄目」
西條は私をベットに押し倒した。足にはベットの柱に鎖がついており、つながれていた。これでは逃げることもできない。
「こうでもしないと、春風さんはどこかへ行っちゃいそうだから………ん、」
口が塞がる。
息が苦しくて呼吸しようとしたら、ぬるりとしたものが口の中に入ってきた。そのまま上顎をざらり、と撫でられる。
「っつ」
「……はぁ。その瞳には僕だけが映っていればいい。僕のことだけを考えて?ずっと、ずうっとね」
そのまま首筋を辿られ——
『………こ…れはないわ。アウト。犯罪。ダメ、絶対』
『究極の愛の形じゃない?』
『わけがわからん』
『この監禁系ヤンデレのよさが分からないなんて、しのもまだ子供ね」
『そんなものが分かる大人になりたくありません』
「………何をやっているんだい?」
それはそうだろう。今私たちは明らかに不審だ。
「久遠さんに謝っています。あ、西條先輩っ。私、久遠さんと友達になったんです!!」
「なっ春風さん!」
いぶかしげな顔をしている西條に、とりあえず状況報告だけした。このままでは格好がつかないからスカートのほこりを払って立つ。
「……そう。あぁ、春風さんに聞きたいことがあったんだ。例の件考えてくれた?」
「あの」
私と西條のやり取りに、玲子が不思議そうな顔をしている。
「君に、生徒会役員になって欲しいんだ」
「………」
私は今、西條に生徒会役員のオファーが来ている。なにせ私は今学年トップの成績だったし、先生うけも良かった。
「私に生徒会なんて務まるとは思えません」
「自分を過小評価してはいけないよ、春風さん」
「……でも」
生徒会なんてまっぴらごめんだ。めんどくさい上に西條というブラックなトラップもいる。……自分を過小評価ってお前は私の何を知っているんだ。超怖い!!
しかたない、ここは生贄を差し出すか。
「私よりも久遠さんのほうが適任だと思います。人望もありますし。彼女の欠点なんてほとんどなく、強いていえば絵が——」
「おほほほほほほほほほ。生徒会長様、ごきげんよう」
黙って話を聞いていた玲子だったが、私が絵のことを口にしようとした瞬間、私の手をひっつかみすごいスピードで走りだした。
何度もすまん、玲子。でもこれしか方法が思いつかなかったのです。
心の中で謝った。
(でも、まぁ)
初めて玲子から手をつながれた嬉しさでそんな気持ち、吹っ飛んだけどね!!




