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5. 自傷系ヤンデレの場合

「春風さん!どういうことですの!?」


次の日。


玲子に会って早々、腕を掴まれた。


「あ、おはよー玲ちゃん」

「おはようございます、春風さん……ってそうではなくて!」

「春風さんじゃなくってシノって呼んでよー。……もしかして、怒ってる?」

「あたりまえでしてよ!!どうして二宮様と──」

「やっぱり一緒についててあげたほうがよかったよね!2人っきりじゃ緊張するよね!!ごめんね、気がつかなくって。でも嬉しいなぁ、玲ちゃんが私と一緒にいたいなんて」


ふふっと笑う。


「わたくしは、そんなこと一言も─—」

「じゃあ今日も放課後、迎えにいくね!待っててね!!玲ちゃん!!」

「は、春風さん!」


私はそう言うと、教室まで駆けていった。………68歩目、セーフっと。


 ふー。危ない、あぶない。 相手の話なんか聞いたら、うまく作戦が遂行できないからね!!……それにしても。


玲子はたまらないだろうなぁ。学園のアイドル達に近づく生徒を牽制していた彼女が、過度に近づくなんて。……相手はヤンデレだけど。


もし私が同じことやられたら、相手袋だたきにするけどね!!でも、女の子だったら『このお茶目さん☆』とか言っておでこ突つくだけで終了かな!


かわいいは正義だよね!!!


でも、朝1番に玲子に会えた!!怒った顔も美人だったなぐへへへへへ。


にやにやしながら歩いていたからだろうか。モーゼみたいに私の通る道は開けていた。



 待ちに待った放課後。


「玲ちゃーーーーん!!!」

「!?」


玲子の教室に赴いた私は、思いっきり玲子に抱きついた。


「玲ちゃーん!会いたかったよ!!」

「は、はははは離しなさい!」


玲子がじたばたしている。かわいいなぁ。……いい香りがする、ハァハァ。私はしばらくそのままでいたかったが、


「じゃあ、いこっか!」


内心では泣く泣く玲子の手を取り目的地へと向かった。彼女は何か言っていたけど気にしない、気にしない☆


「玲ちゃん、ついたよ」

「はぁ、はぁ………ここ、は、ま、さか」

「じゃあ、行こっか。お疲れ様ですー」

「ま、待ちなさい!!!」


着いたのは、美術室だった。ここに二人目の攻略者がいる。


「楓くん、こんにちは」

「シノ先輩こんにちは!それと……久遠先輩?」


藤門 楓


有名な芸術家の息子で、彼も絵画の才能を持っている。中等部の3年生。色素の薄い茶色の髪に女の子のような長いまつ毛にくりっとした目。かわいい系の男の子だ。……ヤンデレじゃなければな。


なぜ学年も違う彼と知り合いになったかというと、答えは簡単。私も美術部だからだ。学園のアイドルとしてまつられている彼が入っているこの美術部は、当然ながらに倍率が高い。そのため厳しい入部テストがある。


私は『しのさま』だったときも、美術は得意だったから普通にパスした。


「しのさま、絵上手!!」

「きゃぁぁぁ!!私も描いて!」

「芸術の才能もあるなんて……しのさますてき」


 そりゃもうちやほやされましたよ!……転生前の話ですが、何か?



「そう!!親友の玲ちゃんだよ!今日は美術部を見学したいってことで、連れてきたの!!」

「春風さん!?わたくしはそんな」

「もうっシノって呼んでよ!玲ちゃんったらおとぼけさん☆」

「………はぁ」


 ……私やばいな。ぶん殴られてもおかしくない。


「そうだなー。初回からあんまり時間かかることをしても大変だから、10分間クロッキーしようよ!……はい、これ玲ちゃんの分。楓くんも一緒にしよ?」

「はい、シノ先輩」

「え!?ちょっと!!」


ふわり、と楓は微笑む。彼は素直でよく私に懐いてくれるいい後輩だ。しかし私は、そんな彼が恐ろしくてしかたない。




 最初は小さな絆創膏だった。


「楓くん、それどうしたの?」

「彫刻刀で少し指を切ってしまって」

「そっか。気をつけなきゃだめだよ?お大事にね」

「はい、シノ先輩」


 しかし、だんだん絆創膏は大きなものになっていき、しまいには包帯を巻いてくるようになった。


 さすがにおかしい。


 そう思ったシノは、楓を問い詰める。


「………。自分で傷つけました」

「どうして?」

「僕が怪我をしたら、シノ先輩は僕の心配をしてくれるでしょう?」


 ねぇ、せんぱい。



 楓はそう言うと、ナイフを取り出し自分の手首に傷をつけた。


「!!!」

「—っつ。……先輩、おねがい」


 先輩も、して?



 シノの手を取り、ナイフを持たせる。


「僕だけを見て。………僕に、先輩から消えないような傷をつけて?」


 シノの手を添えたナイフを、首筋にあてる。血が滴り、白いカッターシャツが徐々に赤く染まる。


「………やっ」

「…………先輩」



 舐めて?



 シノは、震える舌で楓の首筋を……………





『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!痛い!!いたいようぅぅぅぅっ!!!』

『あんた、グロい系苦手だったものねぇ』

『知ってて見せたの!?』

『だって語りたいから』

『おにぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』


 親友とのかつての回想、終了。


 傷口がものすごくリアルだったんだよ。トラウマものだよ!!いつも楓と接するときはドキドキしてるよ、恐怖でな。玲子!!頼む、仲良くなってくれ………!


「対象は、この花でいいよね?……タイマーっと。じゃぁ、はじめ!!」


 近くに活けられていた花を持ってくる。


 最初は玲子もわたわた騒いでいたが、私と楓が真剣にスケッチブックに描きはじめたので諦めて自分も描きはじめた。だって、10分間クロッキーは10分しか描けない。時間との戦いだ。



 ピピピピピピピピピピ!



 しばらくしてアラームが鳴った。鉛筆を置いて、アラームを消す。


「……時間になったね。じゃぁ、楓くんから」

「はい」


 楓くんがスケッチブックを見せる。……うわぁ。


「やっぱりすごいなぁ、楓くん」

「そんなことないですよ」


 そんなことありますよ!!10分間でよく細部まで描けてるなぁ…才能は伊達ではないようだ。


「次はシノ先輩見せてください」

「うー。楓くんの後だと見せづらいなぁ。それっ」


 私のスケッチブックを見せる。なかなかの出来だと思う。今日はよく集中できたし。


「先輩の絵もすごいですよ。参考になります」

「えへへ、そうかなぁ」


 褒められちゃった。ぐへへ。


「次は玲ちゃんだね!!………玲ちゃん?」


 いつもは何かと言ってくるのに、玲子は静かだった。あれ?どうしたんだろ。不思議に思っていたが、玲子は無言でスケッチブックを見せた。


「……………………………」



 間。



 よ、幼稚園児のらくがき……?え??画伯?どうしたのこれ。ぜ、前衛的だね。あまりの壊滅的な絵心の無さで、楓と2人固まってしまった。


「……う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 何も言わない空気に耐えられなかったのだろう、玲子は両手で顔を覆いながら美術室を出ていった。


「「………………………」」



(玲子って、絵が下手だったんだね。)



 遠い目をしながら思った。



 玲子マジでごめん。あとで土下座しにいきます。

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