1. はじまり
それは、バスケ試合の終了間際だった。
仲間の切羽詰まった声や応援の声、そして監督の怒鳴る声がする。接戦で、どちらが勝ってもおかしくなかった。時間が刻々と迫るにつれ、特有の緊張感がコートにただよった。
「ラスト十秒!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
敵と敵の間をくぐり抜け、最後の最後でリングにボールを投げ込む。
ピーーーーーーー
無機質な試合終了の合図が鳴る。直後、熱気と歓声が体育館内を包んだ。
「きゃぁぁぁぁっ!!しのさまぁぁぁぁぁ!!!」
「試合お疲れさまです!!しのさま!!!」
「これ、差し入れてすっ食べてください!」
「しのさまぁぁぁ今日も素敵ですぅぅぅ!!」
バスケの試合終了後、疲労感に包まれながら控え室に行く途中で女の子に囲まれる。きゃいきゃいとはしゃぐ彼女たちのかわいい笑顔を見ていたら、試合での疲れなんて吹っ飛んでいった。
「みんなありがとう」
にっこり微笑みながらお礼を言うと、女の子たちは黄色い悲鳴を上げた。うん、今日も私はモテモテだ。満足げに、そう思った。
「————はっ!!!」
授業中、窓から照らされるあたたかな日差しにうとうとしていたとき、私は思いだした。あの後、帰り道に交通事故に遇ったんだっけ。ふと、窓に映っている自分の顔を見つめて息を飲んだ。
「!!!!!!」
大きな瞳に長いまつげ。形のよい唇は桜色だ。サラサラの長い髪がはらりと肩に流れる。そこには、誰もが守ってあげたくなるほど可憐な美少女がいた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「────!?」
思わず立ち上がり、奇声を発する。教室中の視線が私に集まるのを感じた。
「は、春風さん!?」
おそらく私の名前であろう。顔だけではなく名前までメルヘン風でくらり、と眩暈がした。そして……。
バタン。
軽い音がして私はあっけなく倒れた。
「春風さぁぁぁぁんんんんんん!!!!」
教室中に悲鳴が上がる中、私は思った。こんなはずではなかったのに!!
私はかつて、篠宮 遥として生を受けた。170センチもある背に中性的な顔、きりりとした眉毛。女だったけど、はっきりいって、そこらへんにいる男子よりもはるかにイケメンだった。遥だけに。……ごめんなさい。
部活はバスケ部でレギュラー。しかもキャプテン。私はたいそう女子にモテた。学年どころか学校規模でファンクラブがあったし、部活では普段の練習から応援や差し入れがあり、バレンタインチョコはどの男子よりも貰っていた。そしてみんなからこう呼ばれもてはやされていた。
『しのさま』、と———
窓を眺めたときに映った、かつての顔と180度違う美少女の顔に、私は見覚えがあった。
(『僕の中には君ひとり』の主人公、春風 詩乃だ)
『僕の中には君ひとり』は乙女ゲームだ。……非現実的だが、ゲームの世界に転生してしまったのか?かつての記憶を引っ張りだして、私はぞっとした。そういえばこのゲーム、攻略対象がヤンデレじゃなかったかな?親友が嬉々として語っていたのを思い出す。私は乙女ゲームにあまり興味はなかったけれど、このゲームは覚えている。なぜかと言うと……
(ライバルの子がすっっっごく好みだったんだよね!!)
私の性別は女だったが、女の子が大好きだった。だってかわいいじゃないか!!やさしいし、おっとりしてるし、いい匂いするし………!!女の子にキャーキャー言われるのがすごく好きだった。
(なのに………)
なんて残酷なことをするんだ!手に届きそうなところにいるのに性別が女とか!!しかも主人公!!『しの』違いじゃないか!!そしてさらに残酷なことに。
このゲーム、攻略対象が、ヤンデレ…だと……?
男と聞いただけでうわぁって鳥肌立つのにヤンデレとか!!ハードル高すぎるだろ!!誰だ制作者!でてこい、成敗してやる!!
私は散々悩んだ挙句、ライバルの女の子のことは泣く泣く諦めた。ライバルってことは攻略対象のことが好きってことだよね?……決めた。君には尊い犠牲になってもらおう。私の野望を叶えるために。
(ライバルと対象者をくっつけて、私はまた女子ハーレムを築こう……!!!)
制作者様ならびに関係者様ごめんなさい。たぶんこの物語、めちゃくちゃになりそうです。
そんなこんなで起こった、ちいさな恋のお話。




