1月の上り坂
上を向いたら、君がいた。
「まじかよ・・・」
バイトに出掛けようと外に出たら、一面の銀世界。
今年は雪、降り過ぎじゃないだろうか。
雪は嫌いじゃないけれど、移動手段が徒歩の俺。
早めに外の天気に気付かないと遅刻とオトモダチになってしまう。
雪の中を急いで歩くのって結構体力使うんだよ。
さくさく新雪を踏みながら歩いていると、視界に白いもの。見上げれば大量の牡丹雪。
「・・・牡丹は溶けやすいんだよなあ」
傘なんてもちろん持ってきてないから、フードを被って頭をガード。
濡れまくった頭でバイト先に登場なんて寒すぎる。
「とっ、とっ、とうっ!」
謎の掛け声が聞こえてきたのは俺が結構急な坂を上ってるとき。
地面に向けてた視線を上げれば、赤いマフラーを揺らしながら滑ってる誰か。
雪の上を、靴でズサーッと。
「とっ、とっ、とうっ!」
さっきから何度も聞こえるこの掛け声と一緒に。
ホップ・ステップ・ジャンプ!の要領で「飛んで・飛んで・滑る!」て感じか。
積もった雪の上を、助走つけてから滑って楽しんでる。
あれ、女の子か。
高校生にもなれば男はともかく女子って冷めてるよな。
同世代の女子であんなに雪にじゃれてる奴なんて初めて見た。
すっごい楽しそうに笑って、地面に話しかけて・・・あぁ、犬の散歩してんだ。
「とっ、とっ、とわきゃっ」
あぶね、こけそうになった。
「セーフ、セーフ」
滑るのは止めたけど笑顔は変わらず、犬に向かってまた話しかけてる。
他の人がいるなんて考えてないんだろうな。ここら辺いつも人通り少ないし。
この場合、先に挨拶してあげた方が親切なのかどうか。
知らない振りするにしても、もうすぐすれ違うし無理があるか。
前とか全然見てない。
あ、顔こっち向いた。
「・・・・・」
「・・・ぷっ。あ、わり」
やっぱり人の気配に気付いてなかった女の子。
あまりにもビタッと固まるから、つい笑ってしまった。
「雪、凄いッスね〜」
すれ違いざまに挨拶。
寒い中滑ってたせいか、顔が真っ赤。
コクコク頷く黒い頭から白い雪が零れる。
帽子も被ってなきゃ、フードもない。
あれ、家帰ってから速攻で乾かさないと風邪ひくかもな。
上を向く
牡丹雪はまだ降り続く