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ペット捜索します!

 サークル、コネクトの実質初活動日。っても、宣伝活動した日の翌日なんだけど。


 講義が終了したため、クラブ棟のはしっこにあるコネクトの部室へと、オレと神崎が一緒に向かう。最近は、佳奈よりも神崎と一緒にいることが多くなった気がする。ノエルはいつも通りオレの頭の上に乗っかってる。


 そして、部室に着きオレは扉を開く。


「うーす、来たべー!?」


 オレは中を見て驚く。


「え、なに?」


 神崎もひょこっとオレの横から顔を出して中を見る。


「うわー! すごい!」


 神崎は素直に感想をもらす。


 部室の中で一番目についたのが、いつ準備したのかパソコンが三台置かれている事だった。しかも、1人用のデスクに3つ並んでいる。そこに座ってるのは瑠花。そして、その浮いたデスクの前に固まって机が4つ正方形に並び、1つボコッと机が飛び出ている。形にすると凸みたいな感じだ。左右に2人、出っ張った部分に1人の配置だ。

 そしてその横に、依頼が来たとき用なのか、ソファ2つとその間に長方形のテーブルが置かれている。壁沿いに本棚が並び、たぶんそこに依頼の内容、結果等が纏められて並ぶんだろう。


 オレと神崎は思わず、部室とはかけ離れたその部屋を見て唖然とする。


「入り口で止まってないで入っといで」


 瑠花がオレ達を中に招く。


 オレ達は顔を見合わせた後、部室に入る。


 中には、美鈴といちごもいてオレ達に微笑む。


「さて、早速だけど依頼よ」


 メンバーが揃ったのを確認した美鈴が、机の上に白い箱を置いた。箱には縦に『依頼箱』と書かれている。


「依頼って、そうやって受けるの? オレはここで直接依頼人から受けるのかと思ってたよ」


 苦笑いして頬をかくオレ。


「鳴上の言う通り依頼人から直接依頼を受けるんだけど、まだできたてのサークル。直接依頼が来ないのを考えて、あらかじめ設置しといたのよ」


 美鈴は手を依頼箱に突っ込み、中を探る。中からガサガサと音がするあたり、それなりに依頼が来てるようだ。


「んー、コレね!!」


 美鈴が1枚の依頼書を手にとって箱から取り出す。


 紙を開き、中身を読み上げる美鈴。


「えーと、‘わたしのペットがいなくなってしまいました。探すの手伝ってもらえませんか?’」


「ペットの捜索…」


 まぁ、予想はしてたけどホントに捜索依頼が来たよ。オレは苦笑い。


「よーし、この依頼者を呼んで、ペットの特徴を教えてもらうわよ!」


 美鈴がそう言った瞬間、ピンポンパンポーンと放送が入る。そこからは聞いたことのある声が流れてくる。


「魔術支援科2年○△□さん、部室棟の端‘コネクト’の部室までお願いします。繰り返します」


 と、瑠花の声がスピーカーから聞こえてきた。

 オレと神崎はまたも唖然としながら、アナウンスをしている瑠花を見る。

 それに気づいた瑠花は、フッフッフと悪い笑みを浮かべる。


「放送室に行かなくても放送できる。素晴らしいでしょ?」


「そ、そうですね…」


 もうね、怖いよ。この人。敵にしたらとんでもない壁となりそうだな。


 オレと神崎は、とりあえず依頼者が来るのを待つため机の並んだ島、机島の椅子に座る。


******************


 それから10分後。依頼者が来た。

 そのこの名前は、モブコさんとしますか。


「あなたが依頼者のモブコさん?」


 美鈴がその子に聞く。なんともシュールだ。


「あ、はい。わたしが依頼をしたモブコです」


 と、うなずく。そう、と美鈴が微笑む。


「さっそくだけど、あなたの依頼を受けるわ。ペットの特徴を教えてもらえる?」


「ホントですか! ありがとうございます!!」


 すごくうれしそうに笑っているモブコさん。


「えっと、わたしのペットは黄色と黒のしましま模様の猫です」


「黄色と黒の縞模様? んー…」


 オレはその特徴に疑問を持つが、とりあえずもう少し話をとモブコさんの話に耳を傾ける。


「あの子はお肉が大好きなので、いつもご飯になると帰ってくるんですけど、昨日は帰ってこなくて、今日の朝すぐに依頼を入れたんです」


「お肉? …猫、縞」


 オレはそのペットに嫌な予感がした。もしかするともしかする。


「で、その子の行きそうな場所は心当たりある?」


「うーん、どうかなぁ。あんまり家から出したことないしよくわからない」


 うーん、と悩む美鈴。

 この人達はこの子のペットが何か気づいてるのか? 平然と話をしてるが、オレには嫌な予感しかしないぞ。


「黄色と黒の縞模様の猫ちゃんか~。可愛いんだろうなぁ」


 笑顔の神崎が隣で頬に手を当て、早く会いたいと楽しみにしている。確実にわかってないよな、この感じからすると。

 ってか、こんなのんびりしてる場合でもなくて警察とか呼んだ方がいいんじゃないのか?


「でね、警察とかに連絡されると良くないから、早めに探して欲しいの」


 と、モブコは頼み込む。だろうね! 警察とか出てきたら射殺されるかもしれないもんね!


「むっ、それは良くないわね! よーし、‘コネクト’の初依頼、早速動き出すわよ!」


 美鈴がその場に立ち上がり、グッと拳を握る。


「はい」


 いちごが頷き立ち上がる。オレと神崎も椅子から立ち上がる。


 扉を開けて出ていこうとしたところを、瑠花が急に止めた。


「待った! コレを」


 そう言って、瑠花はオレ達にインカムを手渡す。


「インカム?」


 オレのは青い翼の形をしている。


「そう。それで連絡を取り合って行動して。羽根の部分がアンテナ兼イヤホン、付け根の部分がマイクになってる。耳に装着すれば勝手に起動して持ち主にフィットするから」


 オレに着けてみ、と耳を指差す瑠花。オレは言われた通り耳にインカムを装着する。すると瑠花の言う通り、オレの耳に合わせてぴったりと装着され簡単には外れそうにない。


「おおー、すげっ」


 オレは思わず気持ちが高ぶってくる。何かこういうアイテム持つと使いたくてウズウズしてくるんだよな。新しい自転車とかパソコンとかそんな感じで。


 神崎達もオレを見て耳にインカムをそれぞれ装着する。

 神崎は白い翼、美鈴は赤い翼、いちごは水色の翼、瑠花は黄色の翼を耳に装着する。


「あー、マイクテストマイクテスト」


 瑠花の呟いた声がインカムから聞こえてきた。


「おぉ、起動してる」


 オレはそれに興奮しだし、実際に使いたくてウズウズが更に高まってくる。


「音量調整は付け根の少し上の部分でできる。あと、バッテリーは丸3日保つ。バッテリーが切れたら充電を忘れないこと。っても、太陽光があれば充電されるからそうそう切れることはないと思うけど」


「なんて性能だ。すごいな、このインカム。どうやって手に入れたんだ?」


 オレは普通にこのインカムの入手方法が気になった。なかなかの性能で、5人分手に入れるとなるとそれなりに値がはりそうだ。


「ふふん、それは秘密だ」


 ニッと悪い笑みを浮かべる瑠花。何かこの人の場合だと、とんでもない方法で入手したんじゃないかと思えてくる。


「そっすか…」


 オレは苦笑いしかできなかった。


「これで準備は終わり。私といちご、鳴上と神崎さんがペアで、依頼を解決しに行くよ!」


 と、美鈴が仕切る。


「りょーかい」

『はいっ!』


 オレ以外はちゃんと返事をした。

 思わず神崎といちごを見て苦笑い。


「わたしもパソコンで情報を集める。何かわかったら連絡をいれる」


 そう言って、瑠花はカタカタとキーボードを打ち始めた。


「モブコさんは私たちと来て! よーし、行くよ!」


『おー!』

「おー…」


 何かこのノリについてけそうにないぞ…。


 そう思いながら、オレ達は部室から出発した。


***********************


 ペット捜索を始めてから15分。

 オレと神崎は魔術都市の中でも自然の多い公園などを捜索していた。美鈴達は人の多い市街地を探している。瑠花は衛星を使っての広域探索。


 ってか、瑠花1人で事足りるんじゃね?


 オレはそう思いつつ、藪の中を探す。


「はっ! 今気づいたけど、これって普通に危なくないか? 相手は肉食の虎だぞ!?」


 インカムをもらって気分が高揚していて忘れてたが、依頼されたペットは特徴から考えてまず虎だろう。普通に危ない。一般人だろうが魔術師だろうが関係なしに危ない。


「神崎!」


 オレは慌てて振り返って神崎の方を見る。


「わぁ!」


 神崎は声をあげて、藪の中へと突っ込んでいく。


「…え?」


 オレはとりあえず神崎の後を追ってみる。

 追っていって、オレは思わず唖然とした。


「わぁー♪ かわいいなぁ」


 神崎は三毛猫の子供とじゃれ合っていた。

 顎の裏を指で撫でたり、お腹を撫でたりと神崎は仔猫にメロメロになっていた。


「…」


 オレは、ふぅと一息ついてとりあえず周りを見回してみた。

 公園には時間帯がまだ夕方のため、子供つれが多く、人が多い。こんな中に虎が入ってきたら、パニックになるだろう。


「うーん、どうすっかなぁ…。虎なんてどう探せばいいかわかんないし、そもそもいたらいたでどう対処していいのやら…」


 オレは背後に詰め寄る気配に気づかず、ボソッと呟く。


「虎? 虎がどうかしたの?」


「そうなんだよ…」


 オレは声のした方を振り返り、固まる。

 そこにいたのは、怪訝そうに腕を組みオレを見る向坂先輩がいた。


「詳しく話してもらいましょうか? 鳴上俊貴くん?」


「あっと~…」


 これはまずいことになった。虎が野放しになってるなんて今先輩に話したら、魔術対策班から警備隊に連絡がいく。そうなったら依頼者のモブコさんに…。


「今、虎って名前の猫を探してるんです。縞模様の猫なんですが、見ましたか?」


 我ながら苦しい。虎って聞かれたのが何よりまずかったな。


「…ふ~ん、その猫はあなたの?」


 案の定、騙しきれてないおかげでオレを訝しげに見る向坂先輩。


「いや、オレじゃなくて知り合いの」


「その知り合いは今どこに?」


「手分けして探してるんで、どこにいるかはちょっと…」


「そう。ところで、その耳の羽根みたいなのは何?」


 今度は耳に付けたインカムを見る向坂先輩。どことなく表情が興味深げな気がする。


「コレですか? インカムです。サークルのメンバーと連絡を取り合うための物です」


「サークル? 名前は?」


「コネクトです」


「コネクト? 何をするサークルなの?」


 あれ? コネクトのこと知らないのか。風紀委員だから知ってるもんだと思ってた。


「えーと、何でも屋みたいな物です。悩める依頼者から依頼を受けて解決したり、困ってる人を助けるんです」


「そのサークル認可されたのが不思議ね。生徒会があるのに、そんなサークルを許可するなんて…」


 向坂先輩が不満気に言う。


「ねえねえ、鳴上くん! この子すごくかわいいよ!!」


 微妙な空気になったオレと向坂先輩の間に神崎が仔猫を抱いて入ってきた。オレの前にいた向坂先輩に気づき、神崎は向坂先輩に挨拶する。


「あ、こんにちわ。向坂先輩! 見て見て! 可愛い仔猫ちゃん!!」


 神崎が向坂先輩に仔猫を見せる。


「わあぁ!」


 向坂先輩はさっきとうってかわって表情が和らぎ、仔猫にデレデレになる。この人猫好きか。満面の笑みで仔猫を撫でる向坂先輩。


「……はっ!」


 オレの視線に気づいたのか、ゲフンゲフンとわざとらしく咳払いして、表情を引き締める。ふと、神崎の耳に視線を移した向坂先輩。インカムに気づき慌て出す。


「姫華! あなたまでコネクトに入ったの!?」


 そう言えば、神崎は向坂先輩に風紀委員に誘われてたよな。自分は断って、他のサークルに入るってのが、気に入らないんだろうか。


「はい♪」


 ニコッと笑ってうなずく神崎。


 そこへ、インカムから急に通信が入る。


『鳴上! 神崎さん! そっちにターゲットが行ったわ! 逃げて!!』


 インカムから美鈴の声が聞こえてきた。走ってるのだろう。


「逃げて?」


 神崎が首をかしげる。

 なるほどなるほど。神崎は虎だと思ってなかったんだな。んで、こっちに虎が向かってきてるから逃げろ、と。


「ん? まずいな。子供連れが多い。向坂先輩、人をここから避難させるの手伝ってもらっていいですか?」


「人を避難させる? 何でそんなこと」


 当然、向坂先輩はオレを怪しむ。


「時間がないんです。このままじゃ、誰かが重症を負う!」


 オレはそう言って、公園内にいる子供や親に向かう。


「皆さん! この公園にもうすぐ虎が来ます!! 早く逃げてください!!」


 だが、人々は顔を見合わせたあとクスクスと笑いだして逃げようとしない。


「本当です! 今虎がこっちに…」


「鳴上くん!!」


「!」


 オレは神崎の声に気づき、振り返る。神崎はとある方向を指差していた。その方向を見ると、いた。黄色と黒の縞模様の猫科。虎が。

 公園内に入った瞬間に、身を低くしてどこかをジッと見ている。


「っ!」


 公園内の人々も虎に気づきだし、悲鳴をあげて我が子を抱え一目散に逃げ出す。


 そのなかで、1人の子供が転んだ。


 それに合わせて、虎もその子へと向かって走り出す。


「くそっ!!」


 間に合うかはわからないが、オレはノエルとユニゾンしその子へと走る。


「うわああぁーん」


 子供も自分に向かってくる虎に気づき恐怖で動けず泣き出す。


「ダメー!!」


 神崎が声をあげる。

 だが、それで虎が止まるはずもなく、更に速度をあげる。


「!」


 ふいに、泣き叫ぶ子供に覆い被さる銀髪の少女。向坂先輩だった。


「先輩っ!!」


 オレは風の魔術で加速をつけて走る。


 次の瞬間、虎が向坂先輩へと爪を振りかざす。


「っ!」


 向坂先輩は、ぐっと目を閉じて子供を強く抱き締める。


「……?」


 だが、いっこうに衝撃が来ないことに疑問を感じ始める。


「きゃあああ!!」


 そこへ神崎の悲鳴が響く。


「姫華?」


 先輩がそっと目を開ける。目の前には、転んだままの体勢で泣く子供がいる。


 子供は無事だった。じゃあ、悲鳴はなぜ?


 先輩が虎の方を見る。


「!」


 目の前には、オレがいた。虎に左腕を掴まれて噛まれた状態で、向坂先輩達の盾になっていた。


「っつ…!」


 オレは防御魔術を発動するのが間に合わず、腕に氷を纏う事で、直接噛まれるのをギリギリで防いでいた。

 だが、牙は氷を貫いてオレの腕に食い込んでいた。そこから血がしたたり落ちて、地面にピトピトと音をたてる。


「せん…ぱい、立てます?」


 オレは虎が他の人を襲わないように腕を噛ませたまま、虎の腕をつかむ。牙の食い込んだままで、腕に痛みを感じつつも先輩の方をチラッと見る。

 先輩が不安そうにオレの方を見て、恐る恐る立ち上がり、子供も起こしあげる。


「そのまま、にげ……!」


 逃げて、と言おうとした瞬間に虎がオレを噛んだまま首を思いきり振る。噛みきろうとしてるのか!


 でも、オレの予想と違い虎はオレを横へと投げ飛ばした。どうやら、オレはただの邪魔な物で狙いは先輩達の方なんだろう。


「くっ…」


 オレは地面に投げつけられ地面に転がる。


「うわああぁぁぁー!!」


 子供が虎を見て恐怖で思いきり叫ぶ。向坂先輩が、子供を守ろうとギュッと抱き締める。


「くそっ!!」


 オレは右手を思いきり地面に叩きつける。その瞬間に、青い魔法陣が顕れる。


「!」


 虎が地面から顕れた氷の柱によって上へと上がっていく。


 そのままだと普通に跳んで逃げられるため、そのまま氷の壁を作り、虎を閉じ込めた。


 完全に氷の檻に閉じ込めることに成功した。


「鳴上くん!」


 神崎が走ってオレの元へと来た。


「ぶじ?」


 左腕の痛みでろくに話せそうにない。

 神崎はオレの左腕を見て、自分の右手を近づける。


「私は大丈夫だけど、無茶しすぎだよ!」


 神崎はオレの左腕に治癒魔術を使う。顔が怒ってる。


「ごめん…」


 穴から出血が治まっていき、ゆっくりと傷口が塞がっていく。痛みもだんだんと和らぎはじめる。倒れたまま治療を受けるオレに、子供とその親が近寄ってきた。


「ごめんなさい! 子供のせいで怪我させてしまって」


 と、2人が頭を下げる。子供は未だに虎の恐怖から泣き続けている。オレは神崎の治療のおかげで、余裕がでてきたため何とか微笑んでみる。


「いえ、気にしないでください。子供さんが大怪我しなくて良かったです」


「本当にありがとうございます!」


 そう言って、子供を抱き上げて公園の入り口へと向かっていった。


「良かった良かった」


 オレは、アハハと笑う。


「良くないよ! もしかしたら腕食いちぎられてたかもしれないのに!!」


 と、ご立腹な神崎。


「ごめんなさい」


 即謝る。悪いのはオレだしな。無茶したのは事実。


「全く…」


 やれやれ、と呆れながら神崎は笑う。


「班長は頼りになるなぁー」


 ゴマをするがごとく、オレは神崎を誉める。


「そんなことないよ。なにもできなかったし…」


 と、オレの言った言葉で神崎が落ち込んでしまった。どうやら、ご立腹だったのは2つ理由があったようだ。1つはオレの無茶。もう1つは、何もできなかった自分にも怒っていたようだ。まったく動けずにいたことが神崎には悔しくてしょうがないみたい。

 若干気まずい空気のなか、向坂先輩がオレ達の所に来た。


「…腕、大丈夫?」


 先輩は、他所を向いてチラチラと視線をオレの方に移しながら聞く。指は胸の前でもじもじとさせてる。


「大丈夫です。それより先輩は怪我してないですよね?」


 オレは左腕を振り、大丈夫とアピールする。

 でも、神崎にまだ治療中! と腕を掴まれて大人しくさせられた。

 オレは苦笑い。


「何で私の心配するの? あなたが盾になったから無事に決まってるでしょ!?」


 と、何が気に入らなかったのかオレへと怒ってくる。えぇー、怒られたよ…、と思いながらオレは唖然とする。


「バカ」


 そう言って、向坂先輩は公園の入り口へと走っていってしまった。

 オレはただ呆然と走り去ってく背中を見てることしかできなかった。腕をおさえられてたから物理的にも。


「…オレが悪いの?」


 とりあえず、神崎に聞いてみた。


「うーん、半分だけ?」


 神崎もアハハ、と苦笑い。


「本当は叱って欲しかったんじゃないかな? なんであんな無茶した! って私みたいに怒って欲しかったんじゃないかな?」


「確かにあれは無茶だけど、それを叱ることはオレにできないよ。むしろ心配する。怪我なかった? って。他人のためにああやって自分を盾にするなんて、普通はできないしオレは尊敬する」


「何言ってるの、鳴上くん。自分だって盾になってたじゃない」


「いや、オレの場合は違うんだ。オレは自分の命なんて…」


「大丈夫!? 鳴上! 神崎さん!」


 オレの言葉を遮って、美鈴といちごが走ってきた。

 倒れたオレの前で止まり、状況を見て首をかしげる。


「何してんの?」


 美鈴が聞く。


「何って治療?」


 オレの答えに首をかしげる美鈴。


「手を握って、腕をつかんで?」


『え?』


 オレと神崎は同時にオレの左腕を見る。神崎の治療のしやすいようにと、なすがままにしていたらいつの間にか手を握って、神崎の左手で腕を押さえられていた。どうりで、何か温かかったんだな。


「あ! ご、ごめんね」


 神崎は慌てて手を離した。頬を紅くして謝る神崎。


「いや、治療ありがとう」


 オレは左腕を動かし、掌を開いたり閉じたりしてみる。うん、治ったかな。


「うぅ…、2人がどんどん仲良くなっていく…」


 なぜか泣きそうになっている美鈴。

 隣にいたいちごが宥めながら、オレに聞く。


「怪我されたんですか?」


「うーん、まあちょっとね。でも治ったから平気」


 オレは微笑む。

 立ち上がり、依頼者のモブコさんの前に行く。


「虎、ですよね? あなたのペット」


 オレは氷の柱を下ろし、氷の檻を地面につける。


「あ…、えっとそうです」


 罰が悪そうにうつむくモブコ。


「何で言わなかった? 依頼受けてもらえないと思った?」


「はい…。虎なんて言ったら怖くて受けてもらえないと思って言いませんでした。ホントは1人で探そうと思ったんです。でも、私だけじゃこんな広い都市から探し出せるかわからなかったし、誰かを襲っちゃってたらと思うと怖くて…」


 と、泣き出しそうになってしまった。

 オレは頬をかき、美鈴がとなりに来てボソッと言った。


「その事は一応言ってあるわ。彼女も反省してる」


「そう、じゃあ良いんだけど。オレが噛まれただけだからまだ良かったけど、オレじゃなくて神崎や向坂先輩が噛まれてたらどうなってたか…」


 しょうがないと言えばしょうがない。ペットが脱走するのを完全に防ぐのは確かに難しい。それが虎なら尚更だ。でも、ペットを、しかも普通のペットじゃない虎を飼うのならもう少し意識をして欲しかった。っても、オレは虎って事に気づいてて、虎じゃないかもって願ってたから皆に言わなかった責任もある。オレも悪い。


「ごめんなさい。これからは脱走しないように気を付けます」


 深く頭を下げるモブコ。


「まぁ、気を付けてくれるんならこれ以上言うことはないし」


 オレはノエルとのユニゾンを解除して、氷の檻を溶かす。その瞬間、虎が周りを見渡してからオレ達の方を見てモブコに気づく。


 虎はモブコ目掛けて走り出して、体当たりをかまし地面に押し倒しモブコの顔を舐め始めた。


「ほ、ほんとになついてんだな…」


 オレ達コネクトのメンバーは虎に舐められるモブコを見てひきつった笑顔を浮かべていた。


***************************


 無事に虎を見つけて、オレ達はコネクトの部室に戻ってきた。


 扉を開けて中に入ると、パソコンの前に座っていた瑠花が振り返る。


「お疲れ、初依頼成功ね」


 瑠花はニッとオレ達に笑う。


「まぁ、何とか終わって良かったよー」


 オレはソファに腰を降ろして、ふぅとため息をつく。


「ふふっ、とんだ災難だったね。虎に噛まれてどうだった?」


 瑠花がイタズラっぽく笑う。


「痛い。それ以上でも以下でもないですよ」


 苦笑いで返すオレ。実際、痛みで他に何も感じないし。


「報告書は誰が書く?」


 瑠花がメンバーを見渡して言う。

 やっぱそこまでキッチリやるんだな。中途半端はよくないしな。


「私が書きます」


 神崎が自ら手を上げた。


「じゃ、よろしく」


 瑠花が一枚のプリントを手にとってから神崎へと渡す。

 神崎はそれを受け取って、わかりました、と頷き椅子に座り報告書を書き始めた。


「お嬢様もお座りください。お茶を準備致します」


 いちごがそう言って、部室の中になぜか設置されている簡易キッチンへと向かう。ありがとう、と言って美鈴もオレの前のソファに座る。


「腕ほんとに大丈夫?」


「大丈夫。治癒魔術で治ってるから。念のためあんまり動かさない方がいいかもしれないけど」


 オレは左手を閉じたり開いたりしてみる。

 うん、しっかり動く。


「そう、ならいいけど」


 美鈴は行儀よくソファに座る。しっかりスカートを押さえて脚を斜めにしている。それを見てると、どこかの貴族か上級の人のように感じてくる。気品が良い、ということだろうか。


 そんなことを思ってボーッと美鈴を見てるオレに、美鈴は見られてることに気づき、顔を紅くしてモジモジし始めた。


「お嬢様、どうぞ」


 いちごがおぼんに載せたティーカップを1つ美鈴の前に置いた。


「あ、ありがとう」


 美鈴はあたふたしながらも、ティーカップを手に取り紅茶を飲む。


「鳴上さんも、どうぞ」


 ニコッと微笑んでオレの前に紅茶を置く。


「ありがとう」


 オレも微笑んでティーカップを手に取り、紅茶を飲む。

 いちごはそのまま神崎の方に行き、紅茶を置いて瑠花へと移動する。


 よく働く子だなぁーとオレはいちごを目で追う。


(…自然に微笑み返したり、女の子に慣れてるの? そう言えば鳴上は姉妹に挟まれてた様な…。それで女の子に慣れてるのかしら…)


 と、美鈴が紅茶を飲みながらオレを観察する。

 それに気づき、オレは美鈴の方を見る。何やらすごい目力で見られてる…。


「どした?」


 オレは紅茶をテーブルに置いてから、美鈴に聞く。


「ど、どうも!?」


 美鈴は紅茶を置き、慌てて顔をそらしてから口に含んだ紅茶を飲み込んだ。ふぅ、と小さく声を漏らす。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫よ! 気にしないで!」


 ツン、と顔を背けたまま美鈴は再びティーカップを手に取り、口へと運ぶ。


 美鈴もよくわかんないな。


 オレは苦笑いして紅茶を飲む。


こんちわ。


とあるユーザー様より、こうしたら良いんじゃないですか? という意見を頂いたので一度やってみようと思っていますが、今回の話にはまだ反映されてません。反映してるのは11話からとなっています。余裕があればそれより前も直したいのですが、今は執筆にしか余裕がないので反映はできません。申し訳ないです。

コメントをくださった方ありがとうございます。読んでくれてる人達もありがとうございます。これからもよろしくお願いします。感想だけじゃなく、指摘でも構わないのでコメントをもらえると嬉しいです。

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